vsオクタヴィアヌス

 二日目、午前。

 『血と毒の沼』ジェノサイド・ライン。


『J陣営の『副業傭兵エシュ』と♣陣営の『オクタヴィアヌス』とのデュエルが成立しました』


 ずしんと降り立ったその姿に、骨を被った男は首を傾げた。

 大柄なエシュよりも少し高いくらいの体躯。その青いボディは引き締まったエシュの肉体よりも一回り大きく見える。光沢あるボディに映る自分を見て、エシュは思った。


(まさか……ロボとかいうやつだったか。アイダから聞いたが本当にいたのか。注意すべきはロケットパンチと加速装置だったな……)


 全く信用ならない情報源を頼りに、エシュは周囲を伺う。ロボならばいるはずだ、操縦者が。目印だと聞いた半ズボンを探すがどこにもいない。


「どうした、来ないのか……?」

「喋ったっ!? ……ロボじゃないのか?」

「……我は十一聖王が一である」


 野蛮人と最先端技術の結晶とでは、認識の乖離が大きい。挨拶代わりにオクタヴィアヌスは二メートルを越すメイスを振り下ろした。


「――――ほう」


 嘆息する。使い込まれたマチェットを間に入れ、メイスの打撃を受け止めていた。並の胆力で引き起こせることではない。

 そして、あの巨大な武器ならば小回りは効かない。メイスの引きに合わせてエシュは前に出た。渾身の蹴り。


(硬い、見た目通りか)


 砕くつもりで蹴った足がじんじん痺れる。その表面には微細なヒビが入るが、ダメージとは呼べない。

 何十発も撃ち込めば決定打になるかもしれない。だが、その猶予は与えてもらえないだろう。


(それは)


 後ろによろめいたオクタヴィアヌスが、さらに後ろに下がる。その足がどこか、重心が上過ぎるような。


(その行動は)


 蹴り上げた足をもっと前に着ける。風を斬るような前傾姿勢。一足に跳んだエシュが機体の肩に手をかける。


「俺の危機感がソレをさせるなと言っている」


 広げた翼。飛翔機構。その付け根を毟り取るように大きな手が広がる。流石に引き抜いたりまではいかなかったが、握力に任せて掴んだ部分を握り潰す。


。なんだ、セオリー通りじゃないか」


 飛翔を封じられたオクタヴィアヌスが回転した。遠心力で大男を引き剥がし、距離を取る。

 渾身の挑発を軽く流され、エシュは骨の下で口を窄める。


(距離を取られたのは厄介か……)


 振り上げるメイス。思い出すのは『狩り鳥』の鉄杖。メイスであり、杖。


「風よ――」


 エシュが腕を上げてガードする。一度受けて危機感がその脅威を覚えていた。膨張させた筋肉の鎧を、風の刃がズタボロに切り裂く。考えるよりも先にエシュは前に出た。


(次を撃たせるな!)


 生まれた火の球を頭上に、エシュはロングスタッフに飛び付いた。杖そのものに魔術攻撃は行使出来ない。その一瞬の動揺の内、エシュはメイスを力尽くでへし折る。

 その怪力が、不可能を可能にした。


「それほどの――「させるかよ」


 これ以上は攻撃させない。マチェットをその肘に叩き込む。オクタヴィアヌスが振り払うよりも、エシュの五発が速い。

 折れたメイスの鋭い切っ先を、叩き折った肘の断面に叩きつける。小さな爆発がオクタヴィアヌスを揺らした。


「む――――っ」

「悪いが討たせて貰う」


 その心臓部。

 高い物理耐性を持つ装甲が貫かれた。乱打されるマチェット。その刃が欠けても力押しは続行する。

 堪らずオクタヴィアヌスが護身用の剣を抜刀する。だが、エシュは遥か頭上。回避ののち、マチェットが投げつけられた。


「強かったよ。だが、トドメだ」


 穴があれば押し広げる。落下の位置エネルギーを加えたエシュの蹴りが、オクタヴィアヌスの機体を貫いた。


「見事、だ――――……」


 二秒間の点滅。

 十一聖王オクタヴィアヌスが爆散した。そのベルは目立たないように首の後ろに装着されていたが、エシュは最後まで気付かなかった。







「へえ、すごいなコレ」


 ダメになったマチェットの代わりに、エシュはオクタヴィアヌスの剣を回収していた。あの爆発に巻き込まれてまだ武器として成り立っているのだ。大した業物だった。


「メイスを折ったのは痛かったな」


 魔術。彼にとっては未知の力だ。飛び道具は趣味ではないが、一度は使ってみたい憧れがあった。

 とはいえ、破壊しなければ勝てなかったが。


「異世界、か……」


 つくづく、しみじみと呟く。常識は通用しない。しかし、本能は通用するのが分かった。


「これはこれで――刺激的だ」


 エシュは沼地を進む。

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