vsソリティア陣営、『異世界侵略兵団』アルファ・ウォリアーズ
三日目。
『未使用マス目倉庫群』ピクロス。
『当たり前だけど、同陣営の代理もかなり活躍してるみたい。フーダニットは悲観していたけど、このまま勝ち続けられるのなら、可能性は十分あると思う』
「そう言えば、会わないな……」
微かな異臭が鼻につく。ここで激しい戦いがあったことは確かだ。緑色のドロドロが幾つもの倉庫を押しつぶし、升目が虫食いになっている。
「名前だけでも知っておきたい」
『じゃあ何人か。須王龍野、ララ・アルマ・バーンスタイン、どすこい四股太郎。彼らがトップランカーの人たちだね。……いや、ほんと凄い撃破数だよ』
この世界を駆け回っている間に、激戦の爪痕がちらほら見えていた。まだ見ぬ仲間たちも戦っている。そう思うと胸が熱くなる。
『日向夕陽、ユージョー=メニーマネー、ファラ。この辺も中々。緋色もこのあたりかな?』
「筋肉の鼓動を感じる……じゃなくて、俺たちも結構頑張ってたんだな」
焚き火の煙が天に伸びていた。見晴らしのいい中央道。胡座をかいて感慨に耽る。
『うん、頑張ってる。あとはヨル、新城セイナ、エシュ……最終局面まで残っているのは、これで殆どかな』
脱落者も、少なからずいたはずだ。死者も出たはずだ。それほどまでに激しい戦争だった。終わりは近い。緋色は立ち上がった。
「……頑張ってる人たちがいる。俺たちも、行くか」
向けられる敵意の数は十二分。誘き寄せは成功だ。
ここまで温存していた分を全て発揮するつもりだった。機械仕掛けには歯車仕込み。一見隙だらけの緋色に、砲弾が撃ち込まれる。
「さあ行こうぜ――――『
◇
徹甲弾がばらまかれるという、冗談みたいな光景だった。分厚い鉄板を食い破るための砲弾は、間違っても対人用ではない。
『右五ミリ、前五歩、背後右六十度迎撃』
「ギア・スマッシュ!」
歯車を纏う拳が砲弾をねじ伏せる。最後の一発は命中させるような誘導。まるでマニュアルめいた、練度の高い攻撃。
緋色は額の汗を拭う。
「精強な部隊だ。実戦の経験値もかなり高い」
『カンパニーのメイン部隊。正直、並みの代理よかよっぽどヤバい』
投げ入れられる水風船に、緋色は直感から回避行動を取る。手近な倉庫に逃げ込み、扉を閉める。
『毒だ。反対側をぶち抜いて。範囲はあまり広くない』
アドリブを正解に変えるのがオペレーターの役目だ。毒爆弾の範囲から逃れた緋色は、再び降り注ぐ徹甲弾から逃げる。
『流石異世界。国際条約もお構いなしだ』
「対人戦でここまでやるか……?」
出くわした。
出会い頭に、今まで姿を隠してきた敵の一人と遭遇する。ずんぐりむっくりとしたパワードスーツ。その異様な姿に、緋色が一瞬固まる。
『即効!』
武装を構えるより先。歯車の大剣が右腿を貫いていた。機能不全を起こして固まるパワードスーツ。その図体に似合わない人間大の頭部を蹴り倒し、隣の倉庫に飛び込んだ。
さっきの毒爆弾だ。
『緋色、そのまま走って』
「仲間もお構いなしってか!?」
ウォーパーツによる身体機能の向上。さらに情報天才少女のナビゲーション。緋色の動作は天才ソリティアの軍事マニュアルを翻弄していた。
『体力温存。省エネ戦法。これはその一つの成果かな』
「逃走戦一方だけど?」
『それでいい。彼らは緋色が体力バカなのを知らない』
ディスクの見つけた最適解は、間もなく表れた。攻撃が段々と緩やかになる。考えてみれば単純な話だった。
装備弾数が切れたのだ。
どれだけえげつない装備で固めても、使い切ってしまえば丸裸同然だった。自慢のパワードスーツもウォーパーツを打倒するまで至らない。
『…………緋色、ストップ』
そして、その後の行動も素早かった。
『撤退してる。ベルを持ってないから追う意味も薄い』
「これが、ソリティア陣営? 少し拍子抜けが過ぎるというか――」
その言葉は、圧倒的な現実に塗り潰された。
◇
「そんなの……ありかよ…………」
どの倉庫からか、ソレは天井を突き破って現れ出でた。五メートルを超える巨体を、狭い倉庫に押し込めていたのだろう。
思わぬ伏兵、むしろ大本命。
『私が避け続けていた理由、分かるでしょ……?』
ナノマシン、サイボーグ。
若き天才ソリティアの才能を掛け合わせると、こうなってしまうのだろうか。彼が製作したものでないとしても、陣営下に置いている事実が彼の実力を示している。それほどまでの、圧倒的異様。
『全力でやって死ぬのならそれでもいい、だっけ?』
ディスクが煽る。ベル越しに、デュエル成立の合図が聞こえた。
「どのみちやるしかねえ……死ぬ気でやるさ」
向かい合う。
緋色vs巨大ロボ。
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