vsソリティア陣営、『異世界侵略兵団』アルファ・ウォリアーズ

 三日目。

 『未使用マス目倉庫群』ピクロス。


『当たり前だけど、同陣営の代理もかなり活躍してるみたい。フーダニットは悲観していたけど、このまま勝ち続けられるのなら、可能性は十分あると思う』

「そう言えば、会わないな……」


 微かな異臭が鼻につく。ここで激しい戦いがあったことは確かだ。緑色のドロドロが幾つもの倉庫を押しつぶし、升目が食いになっている。


「名前だけでも知っておきたい」

『じゃあ何人か。須王龍野、ララ・アルマ・バーンスタイン、どすこい四股太郎。彼らがトップランカーの人たちだね。……いや、ほんと凄い撃破数だよ』


 この世界を駆け回っている間に、激戦の爪痕がちらほら見えていた。まだ見ぬ仲間たちも戦っている。そう思うと胸が熱くなる。


『日向夕陽、ユージョー=メニーマネー、ファラ。この辺も中々。緋色もこのあたりかな?』

「筋肉の鼓動を感じる……じゃなくて、俺たちも結構頑張ってたんだな」


 焚き火の煙が天に伸びていた。見晴らしのいい中央道。胡座をかいて感慨に耽る。


『うん、頑張ってる。あとはヨル、新城セイナ、エシュ……最終局面まで残っているのは、これで殆どかな』


 脱落者も、少なからずいたはずだ。死者も出たはずだ。それほどまでに激しい戦争だった。終わりは近い。緋色は立ち上がった。


「……頑張ってる人たちがいる。俺たちも、行くか」


 向けられる敵意の数は十二分。誘き寄せは成功だ。

 ここまで温存していた分を全て発揮するつもりだった。機械仕掛けには歯車仕込み。一見隙だらけの緋色に、砲弾が撃ち込まれる。



「さあ行こうぜ――――『英雄の運命ヒーローギア』」







 徹甲弾がばらまかれるという、冗談みたいな光景だった。分厚い鉄板を食い破るための砲弾は、間違っても対人用ではない。


『右五ミリ、前五歩、背後右六十度迎撃』

「ギア・スマッシュ!」


 歯車を纏う拳が砲弾をねじ伏せる。最後の一発は命中させるような誘導。まるでマニュアルめいた、練度の高い攻撃。

 緋色は額の汗を拭う。


「精強な部隊だ。実戦の経験値もかなり高い」

『カンパニーのメイン部隊。正直、並みの代理よかよっぽどヤバい』


 投げ入れられる水風船に、緋色は直感から回避行動を取る。手近な倉庫に逃げ込み、扉を閉める。


『毒だ。反対側をぶち抜いて。範囲はあまり広くない』


 アドリブを正解に変えるのがオペレーターの役目だ。毒爆弾の範囲から逃れた緋色は、再び降り注ぐ徹甲弾から逃げる。


『流石異世界。国際条約もお構いなしだ』

「対人戦でここまでやるか……?」


 出くわした。

 出会い頭に、今まで姿を隠してきた敵の一人と遭遇する。ずんぐりむっくりとしたパワードスーツ。その異様な姿に、緋色が一瞬固まる。


『即効!』


 武装を構えるより先。歯車の大剣が右腿を貫いていた。機能不全を起こして固まるパワードスーツ。その図体に似合わない人間大の頭部を蹴り倒し、隣の倉庫に飛び込んだ。

 さっきの毒爆弾だ。


『緋色、そのまま走って』

「仲間もお構いなしってか!?」


 ウォーパーツによる身体機能の向上。さらに情報天才少女のナビゲーション。緋色の動作は天才ソリティアの軍事マニュアルを翻弄していた。


『体力温存。省エネ戦法。これはその一つの成果かな』

「逃走戦一方だけど?」

『それでいい。彼らは


 ディスクの見つけた最適解は、間もなく表れた。攻撃が段々と緩やかになる。考えてみれば単純な話だった。

 装備弾数が切れたのだ。

 どれだけえげつない装備で固めても、使い切ってしまえば丸裸同然だった。自慢のパワードスーツもウォーパーツを打倒するまで至らない。


『…………緋色、ストップ』


 そして、その後の行動も素早かった。


『撤退してる。ベルを持ってないから追う意味も薄い』

「これが、ソリティア陣営? 少し拍子抜けが過ぎるというか――」


 その言葉は、圧倒的な現実に塗り潰された。







「そんなの……ありかよ…………」


 どの倉庫からか、ソレは天井を突き破って現れ出でた。五メートルを超える巨体を、狭い倉庫に押し込めていたのだろう。

 思わぬ伏兵、むしろ大本命。


『私が避け続けていた理由、分かるでしょ……?』


 ナノマシン、サイボーグ。

 若き天才ソリティアの才能を掛け合わせると、こうなってしまうのだろうか。彼が製作したものでないとしても、陣営下に置いている事実が彼の実力を示している。それほどまでの、圧倒的異様。


『全力でやって死ぬのならそれでもいい、だっけ?』


 ディスクが煽る。ベル越しに、デュエル成立の合図が聞こえた。


「どのみちやるしかねえ……死ぬ気でやるさ」


 向かい合う。

 緋色vs巨大ロボ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る