vsリンド陣営、『全ての才能』ウレスジ
三日目。
『未来の英知の残りカス』フロント・ライン。
『異世界。そのキーワードに繋がって、何故かチートっていう単語が出てくるんだけど、緋色は知ってる?』
「知らない。ナニソレ?」
何やら鉄くずが集まってバリケードが出来ている。入り組んでいそうな地形は、しかし謎の爆心地に円形の台地を作っていた。
『元はゲームとかのスラングなんだけどね。要するに、理由なく強大な力を手にすることらしい。現実にそうなったのが異世界には沢山いるんだって』
「……?」
分からない。腐りきった肉の塊を蹴り飛ばしながら、緋色は小首を傾げた。
『だからその動作は止めて。動悸が演算に支障をきたす』
緋色はしゅんと反省した。
『ごほん、やっぱり止めないで。私が間違ってた』
緋色がぱあっと顔を輝かせる。明らかな沈黙の後、ディスクはようやく喋り始めた。
『とにかく。努力や因果に見合わない、理由なく、説明不能な力を得た連中がいる。世界を渡るにあたって、そんな特権を与えられることがあるらしい』
いまいちイメージが湧きにくい。頭から煙を上げかねない緋色に、ディスクは助け舟を出した。
『例えば、ウォーパーツ』
文字通り、降って湧いた兵器だった。しかし、ディスクは例えが不適だったと訂正する。
『……ううん。もっと不合理。そんな歪な才能の総帥が、リンド候補なの』
「いや、分かんねーよ」
沈黙が数秒。
『とにかくヤバい、以上』
「了解」
認識のすり合わせは完璧だ。何より、緋色は実感を持って理解した。背後に忍び寄る奴らこそ、まさにチートの権化。
『ベルは持ってない。戦う?』
「もちろんだ」
幾つもの白い触手に埋もれる、紫色の顔のようなもの。見ているだけで正気を失いかねない。
『全ての才能』ウレスジ。リンド陣営の最大戦力らしい。それが、三体。
「アレは、なんだ?」
早々に理解を諦めた緋色。
『知らない。理解を深めようとすると、正気を失いかねない。ただの現象と直感して』
分からない。が、敵だ。緋色は拳を握る。
戦って、証明するのだ。
◇
白い触手が縦横無尽に暴れまわる。この先連戦が確実に続く。ウォーパーツは可能な限り温存しておきたかった。
「……回避は、可能」
常人から見たら、あまりにも一方的な攻防だった。白い鞭がいくつも緋色を襲い、彼はそれを捌き続けているだけ。攻撃に転じられない。肘や蹴りでカウンターは仕掛けているが、柔らかい触手にダメージがあるのかどうか疑問だ。
『パターン化されているね。やっぱり人工的な兵器には違いない』
超人的な身体能力を持つ緋色には、これだけの運動が朝飯前。冷静に分析し、攻め手を見極めようとしている。
「これが、チート?」
『熱源、来る!!』
ちりちりと肌を焼く感触に緋色が飛んだ。直後、圧倒的な熱量の大火球が通りすぎた。鉄屑を融解させ、通り道はマグマの川へと。
「……………………は?」
触手も丸ごと焼け落ちたが、すぐに生え変わった。殺到する鞭に、緋色は距離を取ろうとする。
『違う前だ!!』
急な方向転換に足の筋肉が悲鳴を上げた。反射的に前に跳んでしまったが、そこはマグマの川だ。無駄だと分かっていながらも両腕で頭部を庇い。
「…………ぅ、そ……だろぉ!!?」
『緋色、攻めて』
「なぁる!」
凍ったウレスジが三体。緋色の拳が熱を持つ。
「龍王掌波!!」
氷が砕け散った。が、緋色の掌底が不自然な軌道で跳ね上がった。攻撃のベクトルが不自然に逸らされたのだ。
『……計算上説明はついたけど』
「そんなのありかっ!」
上に逸らされたエネルギーを使って大きくバク宙。触手の群れがすぐ下を通り抜け、緋色の攻撃を弾いたウレスジに絡み付く。緋色が左手首に意識を集中させる。温存している余裕はない。
だが。
「これだけ圧倒的な才能に囲まれると恐ろしいよね」
目の前に立つこの男は誰だ。さっきまではいなかったはずだ。それだけじゃない。緋色に、違和感の波が襲いかかる。
「やっぱり、普通が一番」
身長が少し伸びた気がする。重心が落ち着かない。赤みがかった頭髪に、どこか自分に似ているような顔。
そんな見た目だったか?
二人を囲むようにウレスジが距離を取った。まるで決闘の見届け人だ。そして、男の胸元にぶら下がるベルが語っていた。
決闘の相手は、この男だと。
「やっちゃえ、アベレージ!」
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