第10話 憧れ(レン視点)
同じ高校、同じクラスに、誰よりも優しい笑顔で人と接する人がいる。挨拶をすれば挨拶を返す。人が困っていれば、手を差し伸べる。そいつは人として当たり前のことを、当たり前にする人だった。個性がないといえば、確かにそうだ。いつも教室にいるときは、リョウタと端でゲームやアニメの話で盛り上がる。けれどイベント事では、カイトや俺と一緒に盛り上げている。人は人をよく、陰キャと陽キャという俗語で表す。俺はその差別用語が好きじゃないが、そいつを表すのであれば間違いなく陰キャだろう。というように、嫌いな言葉だとしても俺はその言葉を使い人を判断できてしまう。けれどそいつには差別、区別といった概念が存在しない。リーダーのサクラやカイトにも、芯を曲げない強気なカナにも、荒い気質のケントにも、弱気で内気なリョウタにも、怯えて弱虫なエミにも、そして俺にも……、全く変わらずに接する。
そしてそんなそいつに誰もが何らかの信頼を寄せている。それほどまでに自然体のそいつは、誰にとっても居心地のいい場所になっている。だから俺は、そんな誰よりも全員を大切に思える君に憧れていた。お前とちゃんともっと話したかった。トオル……。
*
誰よりも、自分よりもみんなを大切にしてしまうその性格のせいで、目の前のトオルは自分を犠牲にして俺らを助けようとしていた。 俺はそんな《憧れ》を見たくなくて、トオルの手をひいた。多分どこかで希望を抱いていたんだ。こいつならみんなを守りながら脱出できるんじゃないかと。だからさ、そんな顔すんなよ。悲しみなんて感じなくていいから。ただ俺はお前に伝えたかった。
【俺はトオル……、お前に憧れてたよ】
いきなり言っても伝わらないだろう。トオルは自分自身がどれほどの存在なのか気付いていないから。
心残りがあるとすればそれはナノのことだ。それは本当に勘違いかもしれない。けれど、トオルには伝えておくべきだった。
ナノという人物が、俺らのクラスに存在していたのか……。
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