第8話 親友(レン視点)
最初に違和感を感じたのは地下にいたときだった。後方の影をいくら走っても離せず、追いつかれれば命はない。その状況の中でトオルは、転んだエミを助けに行った。自分では間に合わないことを自覚していたのに……。そしてその瞬間、もうひとつ疑問が浮かんだ。あのとき最初に助けに行こうとしていた人物は、なぜ行こうと思ったのか。
君があのとき、何を考えていたのか……。
*
俺は高校に入学してから数ヶ月経った頃に、ある人物に恋をした。初恋だった。それまで恋や愛よりも、友情の方を大切にしていて、男子女子関係なく、みんなで盛り上がるのが好きだった。だから恋なんていらないと思っていた。どうして意識せずに笑いあえる環境より、意識して気を使う環境にみんな縛られようとするのか、不思議に思ったほどだ。
俺は確かに恋をしたはずだ。初恋の感覚、今までの自分の概念が消えてゆく感覚は、確かに自分の脳に刻まれている。けれど同時に失恋の感覚も覚えている。初めて友情よりも大切にしたいと思える相手に出会えたが、その人には想い人がいた。
【私、カイトが好きなの。】
そう告げられた。その時の感情は鮮明に思い出すことができる。不思議と嫌な気持ちではなかった。相手がちゃんと向き合って答えてくれたのもあるが、一番は親友であるカイトが必要とされている嬉しさからであった。結局、根本は変わっていなかった。心の中では目の前の恋よりも友情が勝ったのだ。
カイトは高校に入学して、初めて出来た友人だった。気さくに話しかけてくれるカイトがとにかく眩しく見えた。そしてある日、そんなカイトから相談された。
カイト「どうしてもクラスの友達に伝えたかったんだけど、俺の笑顔は信用しないでほしい。」
全く意味がわからなかった。リーダーキャラを作ってるとすれば、そんなことを言えば終わりだ。特にクラスの人には。
カイトは今まで、ずっと自分を偽ってきた。今はまだちゃんと変われていないけど、いつかは変わりたい。だから、自分がどんな奴に変わっても、友達でいてほしい。カイトはそう言った。けれど……、
「それがお前の本心なら、お前がちゃんと自分を出せるようになっても、変わらずお前はお前だろ。」
本心だった。今こんなにも人に優しくできるカイトが、変わりたいと思いつつみんなとも友達でいたいと願えるなら、それはカイト自身の素の優しさがあるからだ。
カイト「レンとは、本当の友達になれる気がするよ。」
そのとき俺はカイトを支えようと思った。カイトがどのような過去を持っているかは分からなかったが、この先もずっと親友でいようと思えた。
*
なぜ今こんなことを思い返していたか、自分でも分からない。もう気にしないと考えてはいるが、どうしてもカイトの死を悔やんでいる自分がいる。カナが死んだとき、予想はできたはずだ。けれど俺は、そんなカイトを支えることができなかった。
俺の初恋の相手は、カイトに想いを伝えることができたのだろうか。
ナノ「トオル、エミとケントが心配なのは私も同じ。だけどまずは、自分も大切にして。少なくとも私はトオルに生きててほしい。」
ナノがトオルにそう声をかけたとき、俺は不思議な感覚に襲われた。自分の中で何かが失われる感覚だ。記憶の中にいた初恋の相手はナノだった。けれど、目の前にいる初恋の相手を見れば見るほど、記憶の中のナノは消えてゆく。
あれ?そもそも俺は本当に恋をしたのか?
先程まで鮮明に覚えていた初恋の記憶は、ナノの存在を自分の中に取り込むほど薄れてゆく……。
ナノって誰だ………?
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