第5話 恐怖は終わらない(トオル視点)
机を並べた簡易的なベッドにカイトを寝かせてから、俺らは脱出する手口を見つけるために地下を探索した。エミはその間もずっと泣いていたが、なぜかケントは起きてから静かなままだった。そうしていてくれると助かるが、どうにも調子が狂う。レンはカイトと親友だった。そのこともあって、しばらくはずっと何も喋らなかった。ナノは相変わらずエミにずっと付いている。ナノも当然悲しいだろうけど、エミのためだろう。地下室は、基本的には1、2階と同じ作りになっていた。いくつかの教室を周っていると、ついに俺らが入ってきた入り口から1番遠くの部屋の前にたどり着く。
「総合管理室って?」
そう書かれた部屋の前で俺はそう問いかけた。
ケント「俺らにもそんなもん分かるわけねーだろ。」
もっともだ。ふつう学校にこんな教室はないだろうし、周りを見てもやはり学校そのものにしか見えない。
レン「とりあえず、入ってみないか?」
ナノ「総合管理っていうくらいだから、もしかしたら鍵とかあるかも。」
俺たちは恐怖を感じながらも、その部屋に足を踏み入れた。中は長年使われていないらしく、少しカビ臭い。壁には歴代の校長と思わしき写真が並べられている。
レン「校長室?」
「そうっぽいよな、けどなんで総合管理室なんて名前なんだろ。」
というより、なぜ地下に校長室があるのだろう?疑問に思うことはたくさんあったが、今考えていてもしょうがない。俺たちはとりあえずその部屋に何か脱出の手がかりがないか探した。
しばらくしてから、ずっと端で泣いていたエミが何かに気付いたように1箇所を指差して喋りだした。
エミ「ねぇ、その木の箱ってよく職員室で見かける鍵かけに似てない?」
エミが指差す壁には、確かに木の箱がある。今まで非常ボタンか何かかと思っていたが、言われてみれば鍵かけに蓋をしたように見えなくもない。1番近くにいたレンが木の箱を開けると、エミが言う通りそこにはいくつかの鍵があった。
その瞬間だった。廊下を何かが走り去ったような音がした。それは、人間の足音とは違う、よくマンガなどで使われる虫の足音の擬音のような音だった。そしてまた遠くからこの部屋に近付いてくる。途端にその足音は消えた。この部屋の前まで来て……。
ガタッ!
咄嗟にケントが扉を抑える。
ガタガタガタッと扉をこじ開けるかのようにそいつもケントに対抗する。
ケント「早く!その鍵全部取って逃げるぞ!」
俺とレンは鍵を全てポケットに押し込む。そしてもうひとつの扉を開けた瞬間、扉を開けようとする音が消えた。もしかしたら、こちらに来ているかもしれないと思い、廊下のケントのいる扉の方を確認したが、そこには何もいない。
ケント「諦めてどっか行ったのか?」
レン「今のうちだ、早く上に戻るぞ!」
廊下に出た俺らは足音を立てないよう来た道を引き返し、上を目指した。けれど、そいつに足音なんて一切関係のないものだった。
後ろからその特徴的な足音が聞こえる。カナが襲われたときと同じだ。その足音は確実に近付いてきているのに、廊下はより一層暗くなる。
レン「走れ!」
レンが叫ぶと同時に全員が走り出す。上までは、あと数十メートルくらいだった。そして、地下に来るときに使った階段が見えてくる。
レン「もう少しだ!急げ!」
緊急事態だからこその必死さはあるがやはりどうしても、エミとナノが遅れてしまう。けど、このまま行けば間に合う距離だ。レンが階段にたどり着いたとき、後ろでエミが転んでしまった。
レン「エミ!」
エミは腰を抜かしたのか、立ち上がれずにいる。暗闇は確かな足音とともにエミに近付く。
ナノ「エミ!」
ナノがエミのもとに走ろうとする。俺は反射的にナノの手を引いて、自分がエミのもとへ向かう。あれ?何して……?俺、死……。
けれど、俺は後ろに突き飛ばされ、目の前の背中がエミのもとへ向かう。
「ケント……?」
ケント「おせぇんだよ!お前らは早く階段を上れ!」
ケントは、エミを抱えるとすぐに走る。すでに、上にいた俺とレンは、本棚を階段のあるくぼみにはめ直す。数回叩かれたが、しばらくして収まった。
レン「終わった……のか……?」
いや、多分まだ終わってないのだろう。けれど……、
「あぁ、なんとか……。」
今回ようやく俺らは誰も欠けることなく生き延びた……。
「ありがとう、ケント。」
あのとき、ケントじゃなく俺がエミを助けに行っていれば、間違えなく殺されていた。
ケント「カイトが死んだ……。レンは、カイトが死んでからずっとあの調子だ。俺はずっと勝手気ままに振る舞ってきた。その度に2人は俺を止めてくれた。けど、もういねぇんだ。」
本当は分かっていたんだろう。俺は間違ってなかったんだ。ケントは怒ることで、恐怖と立ち向かってきた。
ケント「サクラが死んだときも、根暗が死んだときも、ずっとカイトは前を向き続けて、俺だけじゃない、みんなをまとめた。」
その通りだ。カイトはずっと俺らを導いてくれていた。だからこそあの時、カナを……、最愛の人を目の前で失ったことに責任を感じ過ぎた……。俺らは知らないうちに、カイトに頼りすぎていたんだ……。
ケント「俺は、カイトやレンみたいにまとめることはできねぇけど、でもその代わりに体力には自信がある。だから、エミを助けたいと思った。」
ごめんなカイト……。けど、お前はちゃんとみんなの中で生きてるよ。お前がみんなを導いて、今ちゃんとまだみんな生きてるよ。
レン「お前らしくねーんだよ、バーカ」
エミ「ケント君、ありがと……。」
ずっとすり減っている感覚に襲われていた心が、ようやく治った。そんな気がした。
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