Awakening On Sunday

 Awakening On Sunday




 私は目覚めた。


 いや、目覚めてしまった。


 私は横を見る。


 私の娘が私の横で寝ている。


 それを寝ているとは言えない。


 これは、死にかけている。


 瀕死。


 私は二年間、人工呼吸器さえいらなかったというのに、今、私の娘にはその人工呼吸器がつけられている。


 心拍数のモニターも、危険値を示していた。


 そう。先ほどまでは。


 今は、ゼロ。


 心拍数、ゼロ。


 ドラマでよくある、人の死を知らせる、甲高い音が病室に響く。


 うおおおおおおお。


 私は叫んだ。


 本当に悲しい時、人は涙を出すことさえ忘れるようだ。


「いいや。君は彼女を愛してはいなかった。だから、ペルセポネ。君は涙を流せないんだ。」


 娘の横に、一人の少年がいる。


「タナトス?」


 その少年は、ハーデスの傘下の神だった。


「君は彼女を理解しようとしていたかい?彼女の心を一度でも知ろうとしたかい?どうだい?君は答えられない。君は彼女のことを何も知らないのだから。」


 私は見ていた。私が眠り続けてから二年間、娘のことを。


 でも、見ていても、知ることはできない。


 見ているだけじゃ、なにも分からない。


「君は冥王と、冥府にいるという契約で、娘の命を救ってもらった。それがもとに戻っただけだ。君は初めから死の恐怖さえ感じていなかった。しかし、オルフェウスは死を覚悟していた。ペルセポネを救うために命さえ惜しまなかった。」


 そうだ。タナトスの言う通りだ。


「命は数が決まっている。だから・・・」


 そう言って、タナトスは娘の屍に触れる。


「な、なにを・・・」


「この子のような人間がいる限り、世界は捨てたもんじゃない、って思えたんだ。」


「まさか、あなた・・・」


「君は目覚めた時、もう、オルフェウスではない。君の名はアルケスティスだ。八つ目の大罪か。これほど美しく、清々しい大罪はないね。」


 タナトスは私の娘にそう言った。


 そして、糸の切れた操り人形のように、座ったまま、動かなくなった。


「ママ?」


 タナトスが動かなくなったのと同時に、私の娘は目を覚ました。


 今さっき死んだのが嘘のように。


 娘はアルケスティスとなった。


 生き返った者に。


「おい!コラ!起きろ!フロイト!」


 彼女はタナトスの顔を思い切りはたいた。


 そんなことをしても、タナトスは二度と目を開けないのに。


 彼は人間としての命を娘に与えてしまったのだから。


「なんだ。ばれてたのか。」


 タナトスは再び動き出した。


「バレバレなのよ。アンタの嘘なんて。」


「な、なんで。」


 私の心臓は止まりかけた。


 どうして二人は、生きている。


「忘れたのかい?ペルセポネ。僕がなんの神なのかを。」


 タナトス。


 死の神、タナトス。




「まさか、可能性さえ超えるとはね。二本松さんは。」


「だから言っただろう、ボクは。彼女ならそのくらいはお茶の子さいさいだってね。」


「言ってなかったでしょ。」


「楽夢は昔から無茶苦茶だったからな。最近になって大人しくなったと思ったら、やっぱり殴られるしな。」


 四人の神は、境内でお茶を飲みながら話し合っていた。


 もうすでに桜は散ってしまっていた。


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nemurihime-hallow good bye- 竹内緋色 @4242564006

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