ダンジョンの戦利品が女の子でした
形利 秋
第1話 住んでる家を破壊したのはダンジョンでした
ダンジョン。
科学の発展が人類を滅びの道へ誘ったとき、それは救世主のごとく世界中に現れた。
それを攻略した者は全てを得る。富も、地位も、名誉も。
人々はダンジョンを目指した。運命を、変えるために。
「クソ!また負けた!ダメだ、今日調子悪い。」
住宅街にある一軒の小さなアパート。その一室に住むある少年がゲームのコントローラーを投げた。
「今日ついてないな、俺の場合不幸が連鎖反応起こすから嫌なんだよなぁ。」
少年は床に寝っ転がる。憂鬱な気分とは裏腹に窓から差す陽の光は眩いほど輝いていた。
少年が携帯機器を手に取ったその時、家の呼び鈴が鳴る。
「ちょっと!鈴木さん!またなんか投げましたよね!?隣の部屋に人が住んでるんだからあんまり暴れないでください!」
ドアの向こうから怒号が聞こえてきた。
「ほーら、やっぱり連鎖した。」
少年はため息をつき、玄関口に向かう。
玄関の前に立つと、怒りのオーラをドア越しにビンビンと感じる。相当おかんむりのようである。
少年は息を呑み、恐る恐るドアを開けた。
開けた先には、茶髪にポニーテールの少女が立っている。
いや、少女というにはあまりにも顔が鬼のようである。
「いい加減にしてください!昨日も言ったでしょ、壁が薄いんだから大きい音出すなって!」
「いや、だってこのアパート僕と大家さんしか住んでないから大丈夫かなって。」
「大家の私は大丈夫じゃなくてもいいんですか!」
少女、いや大家、というより鬼は地団駄を踏んだ。あまりの迫力に、少年はさながら某リアクション芸人のようにピョンと飛び跳ねる。
「ああ、ごめんなさい!コントローラーはもう投げませんから!」
「、、、またゲームやってたんですか。」
大家は少年の謝罪を見て、怒りを収めた。今度はその表情を呆れ顔に変え、少年に窘めるように言った。
「べ、別に大家さんには関係ないでしょ?」
「まぁ、いいですけど。田舎から上京して3ヶ月、ゲーム三昧の姿を親御さんが見たらどう思うでしょうね。」
皮肉たっぷりに少年に言うと、大家は隣の自分の部屋へと戻っていった。
少年は部屋に戻り、散らかった部屋の床にあぐらをかく。
大家に図星を突かれ、なんだかイライラしていた。
「クソ、あのガキ。大家だかなんだか知らないがあんたには関係ねえだろ。」
少年は独り言をする癖がある。それがあまり人に聞かれたくないような内容でもぽろっと口に出てしまうのだ。
すると、隣の部屋からドンと壁を蹴る音がした。
「聞こえてたのかよ、、、。壁薄すぎるだろ。」
無意識、また口に出していた。
ふと、少年は部屋が揺れるのを感じた。
「な、なんだ?地震か?」
揺れは激しさを増す。これはかなり大きい、少年は命の危機を感じた。この手抜きアパートに信頼など微塵もない。
少年は慌てて部屋から出る。急なことだったので手ぶらである。
外に出ると、ちょうど同時に大家も外に駆け出ていた。
「あ、鈴木さん!マズいです、早くしないとこのアパート崩れて私たち瓦礫の下敷きですよ!」
「え!?マジで崩れるんですか?」
「大家の私が言うんだから間違いありません!」
大家は風呂にでも入っていたのか、髪を下ろしランニングシャツ一枚に短パンという、かなり露出の高い服装をしていた。普段の少年であれば見入っていたところだったが、そんなことをしている暇などあるはずもない。
「間違いありませんって、そんな自信満々に言われても!とにかく、早く逃げましょう!」
少年と大家は、急いでアパートの敷地内から出た。
刹那、アパートの敷地内の地面が盛り上がったかと思うと、無数の岩石と砂埃を撒き散らして何か得体の知れないものがせり上がってくる。
まるでアパートは豆腐のように簡単に崩れ去った。
「ああ!俺の部屋が!やべえ、財布もスマホも全部置いてきたぞ!」
アパートの残骸はせり上がってくる何かに猛烈な勢いで弾き飛ばされた。その中には、おそらく少年の財布や携帯機器も混ざっていただろうが、激しく舞う砂埃に覆い隠されどこにいったのかは全く見えない。
地面からせり上がる何かはなおも登り続け、やがて天を貫くほどの高さの塔になっていた。
「ゲホッ、なんなんだこれいったい、、、。」
砂埃でむせながら、少年と大家は現れた何かを見つめた。
「まさか、、、これ、、、。」
大家は口に両手を当てた。信じられない、というような顔をしてその塔を見上げる。
独り言が多い少年だが、この時ばかりは声も出なかった。
画面越しにしか見たことのない光景、この世に生きる全人類の憧れ。
「、、、ダンジョン!」
その日、少年は住む家と多くの財産を失った。
ダンジョンの戦利品が女の子でした 形利 秋 @pokepoke1996
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