1-32 スーパーデンジャラスエクストラパフェ 1
森蔵学園(仮)は王都セーズと言う場所にあるらしく、この町から馬車で行って数か月もかかる場所にあるらしい。
辺境の町に住んでいたおかげで、情勢やら土地勘なんかはさっぱりであったが、そういう土地事情なんかを聴いてみると、現代日本というのは凄いのだなあと感心してしまう。
新幹線で三泊四日の旅行が最大の旅である俺としては、結論から言うとぶっちゃけありえないである。いろんな町や村を巡りほのぼの旅をするのもいいけれど、いまの気分は学園生活をエンジョイすることである。若い子達に囲まれて深呼吸をしたいのです。
そこで、助けてララファさんと懇願すると、
「なら、わたしの飛空艇を使えばいい。遅くても10日そこらで着く」
一発解決だった。
流石の対応力。彼女は俺にとって猫型ロボット的な存在である。
そんなわけで、半年後に開校予定である森蔵学園(仮)に馬車で行くならすぐにでも出発する必要があったのだけれど、随分と時間に余裕が出来てしまった我々一向である。
短い時間であったが、この町には随分とお世話になった。愛着がわいているのか、離れると思うと少し寂しく思う。出発までに挨拶を済ませておきたいものだ。
今日は雲一つない素敵な朝です。こんな日は町から飛び出し、近隣に迷惑をかけているモンスター共を殲滅にしてやろうとララファ邸の廊下を歩きながら考えていた。
そんな穏やかな日を破壊したのはレインのこんな一言だった。
「シンヤさん。デラックスパフェを食べに行きましょう」
「えー、シャンと行きなよ。この歳でパフェだなんて恥ずかしい」
「カップル限定のパフェを奢ってくれるって前に約束したじゃないですか」
「あー、した気がする」
確かレインと手錠で繋がれた時に、何故か俺が奢る流れになった話だ。
「別に今日じゃなくていいじゃない」
「それが駄目なんです。あそこのお店、別の町に移転するらしくて、今日が最終営業日なんだそうです。今日を逃したらもう食べられません」
見た感じ人の出入りも激しく、人気の店であったのを覚えている。恐らく、もっと大きな町に店を出して繁盛しようと言う作戦なのかもしれない。
「うーん。そういうことなら約束だし良いよ」
と了承するのだが、
「それは聞き捨てなりません」
背後からフェリちゃんが現れた。嫌な予感がする。
「ボクとも約束しましたよね? デラックスパフェをイチャイチャしながら食べてくれるって、あの夜、ボクの耳元で囁いてくれました」
一部語弊があるが、確かにフェリちゃんとも約束したのを思い出す。
「随分と節操がないんですね? 自分がハーレムラノベの主人公かなんかだと勘違いしてるんじゃないですか?」
「いや、あの時は仕方なく……」
レインがおっかない顔で俺を批判する。
すると、
「シャンもぱふぇたべたい!」
「くふふ、わたしも甘い物には目が無いぞ?」
厄介なミキサージュースが出来上がった。
「待って君たち! カップル限定だから! ペアなの、バディなのよ!? 5人じゃスーパー戦隊になっちゃうからね!」
「それなら安心しろ。あそこの店には裏メニューがあるのだ」
「裏メニュー?」
「そう、その名も家族限定、スーパーデンジャラスエクストラパフェだ!」
ララファから繰り出される頭の悪い横文字ラッシュは名前からしてデンジャラス。
「スーパーデンジャー……なんだって?」
「スーパーデンジャラスエクストラパフェです、ご主人様」
「私も噂に聞いたことがあります。スーパーデンジャラスエクストラパフェを完食した家族は存在せず、あまりの未達成率からメニューから姿を消した伝説のパフェ。それがスーパーデンジャラスエクストラパフェ。まさか本当にあるとは……」
「そう、創業から2年、孤独なわたしはずっとスーパーデンジャラスエクストラパフェを食す機会を待っていたのだ」
思ったより浅い伝説だった。
「シャンもすーぱーでんじらぱふぇたべたい!」
「ボクも興味があります。スーパーデンジャラスエクストラパフェ」
すでに目がキラキラと輝いている女性陣は行く気満々のご様子。つうか君たちスーパーデンジャラスエクストラパフェ言いたいだけなのでは?
「あの、それなら俺行かなくてもいいよね?」
「喜べ、五人限定だ」
詰みです。想像しただけで気持ち悪くなってきた。
☆
閉店間際なだけあって、人の出入りはいつにも増して激しく、待機列は外にまで及んでいた。俺達もそれに倣って並び、気付けば30分ほどで中に入ることが出来た。
内装はアンティーク調の喫茶店で、家具や小物なんかも雰囲気に合わせて設定されている。どこかのデスピエロも同じように雰囲気を重視しているのに、どこで差がついたのだろうか?
なにより素晴らしいのはウエイトレスさんのおっぱいが大きいところにある。ああ、店員の差かもしれない。あの女の子だけで毎日通う意義があると言うものだ。
献身的に働く女の子っていいよね。うちの女性陣に爪の垢を煎じて飲ませてあげたい。つうか俺が垢ごと飲みたい。ペロペロしたいです。
席について早々にウエイトレスさんが注文を取りにやってくる。
「ご注文はいかがいたしましょう?」
そこでララファがドヤ顔で口を開いた。
「スーパーデンジャラスエクストラパフェに挑戦したいのだが」
「す、スーパーデンジャラスエクストラパフェですか!? 大丈夫なんですか? スーパーデンジャラスエクストラパフェは、時間内に完食出来なければデラックスパフェの1000倍の値段をお父さんに支払ってもらうことになりますけれど」
「あ、全然大丈夫です」
「待って、超待って。なんでお父さん限定!? お小遣い制の俺としてはまるで大丈夫だと思えない案件なのだけれど!?」
「シンヤさんのへそくりを使えばいいじゃないですか」
なぜ、へそくりの存在を知っているのだねミスレイン。
「ちなみに、デラックスパフェっていくらなんですか?」
「2000Gです」
「わーお」
えーと通常のパフェが650Gなのに対してデラックスパフェが2000Gなのも異常だけれど、2000000Gとか俺のちんけなへそくりで補えるレベルじゃございません。つうか破産コースです。借金地獄まっしぐらお先真っ暗。
「完食すれば問題なかろう」
簡単に言いやがるロリゴリラである。
「もうヤケだ! 持って来やがれ、スーパーエトセトラエッセンシャルパフェ!」
「スーパーデンジャラスエクストラパフェです、ご主人様」
「かしこまりました! 店長、スーパーデンジャラスエクストラパフェ、オーダー入りました!」
ウエイトレスちゃんが声を張り上げると、店内がざわつく。
「あの家族、スーパーデンジャラスエクストラパフェに挑む気だぞ!」「正気じゃねえぜ」「スーパーデンジャラスエクストラパフェって、あのスーパーデンジャラスエクストラパフェか!? だとしたらスーパーデンジャラスエクストラパフェじゃねえか!」
伊達に2年の歴史を築いていないのか、スーパーデンジャラスエクストラパフェの名前を聞いただけで、店内が弛緩したような緊張感に包まれる。
そして、店長らしきオヤジがカウンターから姿を現す。
「かははは、やはり来たか最終日だからと浮ついて、魔獣スーパーデンジャラスエクストラパフェを頼むバカ族共め! 引き返すならいまのうちだぞ? 今まで多くの家族を不幸に導いた悪魔のパフェぞ! 本当にスーパーデンジャラスエクストラパフェを退治するつもりかね?」
「無論だ」
とララファが即答する。
「かはっ! いいねえ。胸が高鳴る! 今日のために徹夜して仕込んであるのだ。誰も頼んでくれなかったらオジサン泣いていたよ! あはは! すぐにお出ししましょう!」
店長は救われたような顔でそう告げると、パチンと指を鳴らす。
すると、複数のウエイトレスちゃんが奥から何かを台車で運んでくる。
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