1-21 朝からアルコールのダメ男

 ララファのもとで理想のヒモ生活を満喫できると思ったのだけれど、マイワイフであるレインさんはその生活は断じて否と冷たい視線でアピールしてくるのである。

 なので、朝は適当なクエストをこなして、終わったら昔の貧乏屋敷でのんびりするのが日課となった。


 あまりにやる事がないため、俺はある実験を思いついた。

 職業スキルでゲットした唯一のスキルである「アイテムストレージ」の実験をしようと考えていた。


 今回検証する項目は、

① ストレージ内の時間の概念

② ストックできる容量。どこまでの大きさを収納できるのか

③ 生命体のストックが可能なのか?


以上になる。


 まず、①の時間の概念だが、これは予め、集会所でピールというビールによく似た飲み物を買ってストックしてある。クエスト後で疲労が溜まっていたからか、買った時に思わずにやけてしまって売店の子が「うわ、こいつ朝からやべえ」みたいな目で見てきたときは心が苦しかった。


 真夏の気温かと思える道のりを歩いてきたのだ。これがキンキンに冷えていれば、時間が止まるような機能があるか、又は冷蔵庫みたいな効果があるのだとわかる。決して俺が朝からピールを飲みたかったわけではない。実験のためです。必要な実験なのです。


 ということでピールをひとつ取り出す。


 「キンキンに冷えてやがる!」


 なんてことだ! 購入した時と変わらぬ品質を保っていやがる。ジョッキなんかまるで凍っているかのように冷えついているのだ。

 夜にこっそり飲もうと思っていたのだが、もう我慢ならない!


 「一杯だけなら大丈夫かな」


 俺は朝のクエストの疲れを吹っ飛ばす勢いでジョッキをあおる。

 暑さで乾ききった喉がこくこくと律動し、気付けば半分近くがなくなっていた。

 ああ、朝から飲むアルコールはインモラルで最高だなあ。うん、時間の概念は知らんが冷蔵効果があるってことで実験成功ということにしておこうじゃないか。


 次に②の容量と大きさであるが、これも予めピールとおつまみを大量に購入してある。

 どうやら同じアイテムはひとつのスペースに最大15個収納できるようで、ピールは15個しか購入できなかった。もっと欲しかったわけではないが、もうちょっとストック出来ればお得だったのになあ……。


 ちなみに個々のストックできる容量だが、アイテム欄に498と表示されていた。

 ピールとおつまみで二つ分のスペースを占領しているので、全部で500のアイテムを収納できると言うことだろう。


 そんなわけで、ピールとおつまみをアイテムから取り出し味を確かめる。


 「キンキンに冷えてやがる!」


 うまい! うますぎる! これで眠剤でもあれば夜まで記憶をスキップできるのだが、残念ながらそんな魔剤はもっていないのでベヒーモスのジャーキーで我慢しましょうそうしましょう。


 しかしながらこの世界は現実世界と変わらないほど食文化が進んでいて大変満足である。何かしらのレシピやら素材を開発して儲けようと思ったのだが、人生と言うのはままならないものだ。まあ、料理なんか炒め物しか出来ないので絶望的な訳だけど。


 収納できる大きさは自分が持てる重量で決まるらしく、家などの明らかに制限を超えたものを収納することは出来なかったのだが、近所にいるフェンリルのフェリちゃんはストックすることが出来た。解放した時に滅茶苦茶吠えられたのは内緒だ。


 これにより③の生命体のストックも可能であることが証明される。

 案外あっさりと検証が終わってしまって、手持ち無沙汰になってしまう頃にはアルコールが体中を徘徊して体が火照りだす。


 窓の外は相変わらず日差しがギラギラと燃えている。そして、このおんぼろハウスもその日差しに焼かれていて熱くて仕方がない。


 ごろりと体を床に投げ出してみる。酩酊感が気持ちよくてたまらない。


 そういえば久保田さんは今何をしているのだろうか?

 俺の要望が通っているのなら、彼は勇者になっていて、黒か白かどちらかの運命を選ばなければならない。

 白い勇者がどれだけ偉大なのかは知らないが、久保田のおっさんがなれるものとは思えない。だけどその反面、人が良さそうな性格から力に溺れるとも思えないから未知数だ。


 そもそも、俺はあの人と会って立場を交代してもらおうとしていたはずだ。それなのに、未だにそれらしい行動どころか、考えすら疎かにしてしまっている。


 俺はシャンとレインとの日々を心のどこかで楽しんでいて、失くしたくないと考えている。恥ずかしいから絶対にあいつらには言わないけどね。


 でも、それはいけないことだ。

だって、もともとこの陽だまりは久保田さんの居場所で、故意でなくても俺はその場所に居座ってしまっている。

 だけどあれよね、俺なんかが勇者になったら黒まっしぐらの片道コース間違いなしよね。そしたら誰かにやっつけてもらお。


 あはは、我ながら狂ってるなあ! そうだ、今は酒を飲んで忘れてしまおう。お酒は現実逃避にもってこいだ。俺の知っている幸福はアルコールの中にしかないのだ!


 気付けば三杯飲んでしまった。随分と頭がイカれてきた。


 こんな暑い場所で寝たら死んでしまう。寝る前に脱出せねば。


 「公園の日陰でゴロゴロしようかなあ」


 そう思い立ち上がると少しふらついた。

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