リベンジ! たんたかたん学再試験! ② ~汝、雌餓鬼に勝利せよ~

【前回のあらすじ】

 たんたかたん学の再試(やばい)にぽん大生が集まった。

 常に留年の危機、斉川さいかわ弥助やすけ

 燃える快男児、赤崎あかざき進夢すすむ

 和風な犬っ娘、犬塚いぬづか恋春光こいはるひか

 七(中略)不思議の体現、百回留年している長老。

 四人が試験会場に入るやいなや、第一問目が出題される! 強すぎるケルベロスが襲い来るが、そこで料亭の若女将・恋春光が覚醒! 圧倒的な力で突破したのだった!




     ◇◇◇




 暗闇に、液晶画面の青白い光が灯る。

 そのディスプレイは、大量に、整然と並んでいた。

 煌々と光る画面たちの前でリッチな回転椅子に座るのは……

 室内にもかかわらず宇宙服を着た、正体不明の男であった。


「ふむ……第一問を宇宙的に突破したか」


 薄暗い空間のなか、ブルーライトに照らされたその男は、宇宙服に覆われた顔をディスプレイに向ける。

 画面のいくつかには、再試会場を歩く四人の姿が映し出されている。


「犬塚恋春光……〝異常暗示〟か。状況次第で神にも悪魔にもなれるとは、なるほど大宇宙のような素晴らしい力だ。ポテンシャルだけを見れば、ぽん大の卒業生の中でもラスボスと呼ばれる猛者たちと同格の宇宙やもしれぬ。だが……」


 宇宙服の男は、肘掛けに肘を突き、頬杖をして「ククッ」と笑った。


「次の問題は、おまえの天敵だぞ?」




     ◇◇◇




 問①の部屋を突破した弥助たちは、廊下を進んで問②の部屋に辿り着いていた。互いに目配せをして、部屋の扉を開ける。

 大部屋の真ん中には、今どきのファッションをした、生意気そうな女の子がにまにましながらこちらを見ていた。




  たんたかたん学 再試験


      問②


  〝汝、雌餓鬼に勝利せよ〟




「ざぁーこ♡ ざぁーこ♡ かいしょーなし~♡」

「うぅ……わたくしは雑魚の甲斐性無しでございます……」

「即落ち2コマ!!」


 最強モードだった恋春光は女の子の罵倒を素直に受け取り呆気なく撃沈。弥助が暗示の上書きを試みようとしたが、長老が「こやつに暗示をくりかえすと、すっごい混乱しちゃうぞい」と言うのでやめることにした。

 恋春光は無力化された。

 実質的に、三人でこの女の子に勝たなくてはならない。


「といっても……子供に勝つって、簡単なような……」

「あれ~? おにいさん、この再試験に来てるってことはぁ、今まで勉強をサボってきたってことだよね~? なっさけな~い♡ 飛び級を繰り返してぽん大では既に博士課程を修了してる梨奈りなの足下にも及ばないじゃ~ん♡ きゃはは! ほらこれ、梨奈の博士学位取得証明書~」

「うそだろ……博士……だって……!?」


 敗北であった。呆然としたままくずおれる弥助。次に、少女・梨奈の矛先は進夢に向けられる。


「そっちのクソダサ♡ヒーロースーツを着てるおにいさんもぉ~、おにいさんより強い炎熱の異能力を持つ梨奈の前では下位互換♡なんだからぁ、ヒーロー活動なんてやめちゃえ♡ やめちゃえ♡ ほら見て、梨奈が指先にマッチほどの火を灯すだけで、この部屋もサウナに早変わりだよぉ? 力の差は歴然だよねー♡」

「そッ……そんな……ばかな……ッ」


 敗北であった。よろめいて壁に背中をぶつけ、そのままうなだれる進夢。

 弥助も、進夢も、恋春光も、一様に同じことを思った。


(このガキ……)(この少女……)(強すぎますぅ……)

「それでぇ、そっちの仙人みたいなおじいちゃんもぉ……♡」


 次の標的は長老であった。

 なんかいろいろとよわよわに見える長老。


(まずい……! よぼよぼの長老があのメスガキの攻撃を受けたら! 入院からのボケ老人化は避けられないぞ!)

(くッ……だが私のジャスティスフレイムもあの少女には傷ひとつ付けられない。長老を……助けられないッ……)

(お、おじいさま~……! 逃げてくださいませ~……!)


 三人の祈りもむなしく、梨奈の猛攻が始まる!


「百回も留年してるとか、どんだけザコ♡なのって話だよねー♪」

「あひゅん! もっと罵倒しひぇ~!」

「モラトリアムの時期を延ばし続けて、パパやママに申し訳ないと思わないのぉ~?♡」

「あっひ! 踏んで! そのままスニーカーでぐりぐり踏んでくらひゃい~!」

「……そ、そのままこの大学で寿命で死ぬとか、クズで無意味な人生だったね~くすくす♡」

「んひゃぁ~! メスガキにクズ呼ばわりひゃれる時が一番〝生〟を実感できるんじゃぁ~!」

「…………き……」


 梨奈の余裕が消え失せ、クリーチャーを見るような目を長老に向ける。


「き、きも……! なにこいつきもいんだけど!」

「はいこれあげる」

「何これ」

「鞭」

「な何で」

「ひょ~? わしの背中をぶっていただくために決まっとろうが~? 鞭の使い方も知らんとは、これじゃから最近の若者は情けないぞいな。人を罵倒するならその人間性を蹂躙し尽くす覚悟を持たなくてはならんぞい。人間性とは、精神と肉体、両方のことじゃ。そして、相手の人間性をボロカスにするには、相対する自らは高貴でなくてはならん。おまえさんは、罵倒相手の住まうドブ川を清潔な天界から見下ろす天女でなくてはならんのじゃ」

「な、なにいってるのこいつ……もう梨奈の負けでいいから、出てってよぉ……」

「わしは誇りを持てと言うておるのじゃぞい! 私欲のための罵倒なる所業のなんと浅はかなことか! お主の罵倒で世界を暗黒に堕とす、それほどの気概がなくて何とする! よいか! 罵るときはこう、相手が存在していることすら不愉快だという表情じゃ! 鞭を振るう手にも遠慮はいらん! さあ! さあ!! さあ!!!!!」


 梨奈はガチ泣きして逃げた。

 大部屋に問②クリアのファンファーレが鳴り響く。

 弥助は唖然として長老を見た。

 進夢も恋春光も、長老を見ていた。

 長老は「ほぁ~……」と溜息を吐くと、三人の仲間たちに向き直った。


「まったく……昨今のメスガキブームで粗製濫造された信念なきメスガキじゃったのぅ。さておぬしら、先へ進むぞい……あれ何で全員目を逸らすんじゃ?」




【③へ続く】

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