キックオフ! 絆で繋がるサッカー部! ① ~サッカー王子、来ジャペァす~

「ラヴちゃん!」


 サッカー部員たちの声がする。


「ラヴちゃん! 行くな!」「ソウダゾ 行カナイデ クレ!」「まだ星に帰るのは早いよっ!」「俺たちを……全国へ連れていくのでは……亡かったのか……!」

「ごめんなさい」


 小さく謝ったのは、白銀の髪に水色の肌を持つニッポーオーニッポー星人にしてオオオ・オーオオ王国の姫君、ラヴ・オーオオ。

 UFOのタラップに足をかけながら、俯きがちに振り返る。


「ボクは、王国から逃げ出してきました。でも……本当は、王国の姫として政治の何かしらとかそういうあれに励まなくてはならない責務があるんです。もう、星に、帰らなくちゃ」

「そんな!」「ゲコォ!」「ぷるぷる……」「南無三!」

「短い間でしたけど……お世話になりました。それでは」

「ラヴちゃん!」


 一際大きな声を出して前に出たのは、ぽんぽこイレブンの主将、大空おおぞら矢羽やばねであった。


「それでいいのか? ラヴちゃんは、納得してるのか!?」


 本心を問うキャプテン有翼。

 ラヴは、思う。

 これでいいわけない。

 納得してるわけない。

 星に帰りたいわけがない。


 それでも言うしかなかった。


「これでいいんです。納得しています」

「姫様、そろそろお時間です」

「わかった。……それではみなさん」


 涙声になりそうになるのをこらえた。


「さよなら」


 UFOに乗ったラヴは、地球を去り、二度と戻らなかったのであった……


 ちゃららららー ちゃららららー

 ちゃらんらららんら ちゃららんらー

 てぃーりー てぃりりー

 ちゃーーーーらーーーーーーー(エンディング曲)




 ラヴの別れ 夢オチ編 完




「ほふぇっ」


 ラヴはベッドの上で目を覚ました。

 徐々に意識が覚醒し、自分の状況を理解していく。

 二段ベッドの上段で、パジャマ姿で寝ていたようだ。

 体中に汗をかいており、視界はぼやけている。目尻には涙の伝った感触があった。

 ゆっくりと上体を起こす。

 夢。

 今のは、夢……


 ラヴはいつも使っているサッカーボール形の抱き枕を、ぎゅうっと抱き締めた。


「夢で……よかったぁ……っ」

「ラヴちゃん?」

「うひゃあっ!!」


 ラヴのお尻がベッドの上でぴょんっと跳ねる。突然の声に驚いたが、その主に気づいて、ほっとした。


「なんだ、ぷるっちかぁ。びっくりさせないでよー」


 水色をしたスライムでありぽん大の一年生・ぷるすけが、二段ベッドのはしごにくっつき、ラヴの顔を覗き込んでいた。


「ぷるぷる……ラヴちゃん、だいじょうぶ? うなされてたよ?」

「あ-、うん。ちょっと嫌な夢を見てただけ。あれ、いま何時?」

「まだ7じだよ。にどねする?」

「んー、いや、朝ご飯にしよっかな。ぷるっちはどうする?」

「ぼくも、あさごはんたべる」

「そっか。じゃ、ボクも着替えちゃお」


 二段ベッドの上段から下りて、部屋でパジャマを脱ぐ。

 ここはぽんぽこ大学の学生寮、トゥクトゥン寮の一室。

 ニッポーオーニッポー星人であるラヴと、わるくないスライムのぷるすけは、ルームメイトとして一緒に暮らしている。


 この部屋にはもともとぷるすけがひとりで住んでおり、ラヴは後から入ってきた形であった。星からやってきたラヴには住むところがなかったが、キャプテン有翼の「しばらく寮にいればいい」という一言でこうなった。

 トゥクトゥン寮は男女共生の寮であり、いろいろな配慮によって男女が同じ部屋に振り分けられることもある。ぷるすけは一応、性自認としては男性ではあるが、極限の草食系というか、なんかそういう人畜無害な存在。ラヴがぽん大に転がり込んできた時にまともな部屋が余っていなかったこともあり、八月になった今でもこうしてふたりで共同生活をしているのであった。ちなみに男女相部屋で暮らすペアは他にも、単位の墓場の墓守・ジグラドヴォルハン兄妹などがいる。


「よしっ、着替えた。じゃ、食堂行こっか」

「ぷるぷる!」


 ラヴとぷるすけの水色コンビは、部屋のドアノブに手をかけて、意気揚々と廊下へ出た。


 コンクリートが砕ける『バゴォン!』という轟音が耳をつんざいた。


 廊下に出たばかりのラヴとぷるすけは飛び上がって驚き、顔を見合わせる。


 轟音は、たったいま後にした自室から聞こえたのだ。


 みしみしと鉄筋が軋む音が未だに響いている。それとは別に、何やら機械の駆動音のような音もしてきている。

 部屋で、いったい何が?

 ラヴは息をのんだ。ぷるすけに今一度目をやる。彼は目を(><)みたいな形にして震え、縮みこんでいる。この調子では、部屋で何が起きているのか確かめられるのは、自分しかいない。

 今閉めたばかりの扉のノブに手をかける。

 ゆっくりと、開いた。


 サッカーボールだった。


 部屋に、直径五メートル以上もある巨大なサッカーボールが、斜め上から、めり込んでいるのだ。


 ステレオタイプな白と黒の模様をした巨大ボールは、しかし、その材質は明らかに皮革ではない。どこからか飛来してこの部屋に衝突したというのに、傷ひとつないからだ。

 ラヴはこのサッカーボールの材質を知っている。

 いや、それどころか、この巨大サッカーボールの正体を知っている。


 これはサッカーボール型のUFOだ。


 静かに駆動音が鳴る。

 ボールの黒い五角形の模様のうち、ひとつが、自動ドアのように開いた。

 中から、何かが出てくる。


 水色の肌をした、精悍な少年であった。


 通気性の良さそうなサッカーのユニフォームを着て、足首にミサンガをつけている。身長が低めな少年にしては筋肉質な体。オールバックの銀髪の上で、通常のサイズのサッカーボールがヘッドリフティングで跳ねていた。

 そして意志の強い瞳が、ブレずにラヴを見つめている。


 ラヴは、体中から嫌な汗が噴き出るのを感じていた。

 数々の記憶がよみがえる。

 地球へ来る前の、勉強ばかりで抑圧された、仲間も誰もいない頃の……記憶が。


「あ……ぁあ……」


 遂にこの日が来たのだと思った。

 終わりがやってきたのだ。

 無意識に、声が漏れる。


「お兄……様……」

「我が妹、ラヴ」


 ニッポーオーニッポー星にあるオオオ・オーオオ王国の王子、ピィス・オーオオは、リフティングをやめてボールを床に落とし、そのボールに、片足を乗せた。

 ラヴを高みから見下ろす。

 それは身長の差ではなく、くらいの差であった。


「おまえを。サッカーバトルで、星へ連れ戻す」




     ◇◇◇




【次回予告】


 突如現れたサッカーの惑星からの訪問者は、ラヴの兄だった!

 しかし!

「待てよう! ラヴにゃんは僕の妹だぞ! ねー、ラヴにゃんっ♡」

「おいラヴ、忘れたのか? おまえのお兄様は、この俺様ただひとりだろうが」

「あぁ、愛しの妹、ラヴ……今日も可愛いね……愛してるよ……」

 なんと兄を名乗るイケメン王子たちがたくさんやってきちゃった! このイケメンの中から本当のお兄様を選ばないと……銀河滅亡!? いったいボク、どうなっちゃうの~~!?

 次回! 第九九九話『みんな大切な、お兄様だから』! 銀河の果てまで、キックオフ!


 ※内容は諸事情により変更されることが確定しています

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