エンジョイ! ヒーローズの夏休み! ③ ~学長、君臨~
【前回のあらすじ】
一方、ヒーローズメンバーのひとり・
◇◇◇
白亜紀。
ホァンは恐竜たちを統べる帝王となっていた。
「我、大恐竜帝国、滅茶建国! 皆! 今宵、宴!」
「ギャオオオ! ホァンザウルス帝王バンザイ!」
「ホァンザウルス帝王バンザイ!」
「呵呵呵呵! 皆、有難! 滅茶感謝! 牙尾尾尾尾!!」
「ギャオオオオ!!」
「牙尾尾尾尾!!」
「ギャオオオオ!!」
恐竜たちの雄叫びが、白亜紀の空にこだまする。
飲めや歌えやの大きな宴が、最高潮の盛り上がりを見せる。
ホァンはどこか寂しげな面持ちでそれを見た。
隕石の衝突で彼らが絶滅することを、知っているがゆえに……。
◇◇◇
「リリちゃん先生やないか! ひっさしぶりやな~元気しとったか? ワイは今異世界の神として崇められてんけど、厳かな風に演技せんとあかんくて、窮屈すぎて死にそうなってんねんよ~」
聖なる白銀の古竜が流暢なジャペァン語(しかもエセ大阪弁)を喋り出し、隼人・進夢・拓馬・麗華・夕乃・姫子は一様にぽかんとした。
「この私は元気だぞ、田村」
スターリースカイ・スカッシュメタル・リリカルサファイア学長が古竜の名を呼んだ。隼人たちは学長と古竜を二度見した。
「しかし田村、おまえ、やりすぎだろが。面白がって後輩たちを驚かせようとしたのはわかるが、驚きすぎて心臓が止まったら洒落にならんだろが」
「あちゃ~、すんまへん。あと田村やのうて今は聖竜ラムダと名乗っとってな」
「おまえたちもだぞ」
学長が短い細腕で、平伏するラスボスたちを指さした。指さしたといっても、アカデミックなガウンは彼女のサイズに合っておらず、指先まで袖が覆い隠している。角帽がまたずり下がった。
「力を持て余しているのはわかる。後輩をからかって、仲良くなりたいのだとも理解している。だが、おまえたちのからかいは下手したら星を滅ぼすだろが。おい。さっきからゲラゲラ笑ってるが、わかっているのか、ロゼッタ」
「あははははははははは!! わかってるよリリちゃん先生!! でも久々に会えてうれしくて、笑っちゃ、あははははははは!!」
巨大な薔薇の花弁をゆっさゆっさ揺らして大笑いするのは、史上最悪の食全植物。ロゼッタと呼ばれているらしい。笑い声だけでも身を竦ませるような圧力があり、隼人たちは額に脂汗を浮かべる。
すると、ラスボスたちの中で唯一人間の形をした男……煉獄の魔王が一歩進み出た。
「リリカルサファイア学長。奴を黙らせましょうか」
「いや、いい。ラスボスの中でおまえだけは、暴走するラスボスたちを止めようとしてくれていたのだよな。ありがとうな、セカヰ」
「はっ。もったいなきお言葉」
魔王であり忠義の男・セカヰが下がり、ラスボスたちの並びに戻る。そのタイミングで、学長が振り返り、隼人たちに向き直った。
「ヒーローズ。おまえたちもおまえたちだ。ラスボスたちにその身で立ち向かおうなど、無謀にも程があるだろが。だが、まあ、ぽんぽこ大学建学の精神のひとつに〝すべての生命体に親愛のこころを抱ける学生を育てる〟という理念がある。そういう意味では……」
星空の紋様に光る長髪をファサッとかき上げ、学長は、口角を上げた。
「仲間思いのおまえたちは、及第点といえる」
「リリカルサファイア学長……!」
「この私のことは、親しみを込めて『リリちゃん先生』と呼ぶように」
隼人たちは互いに顔を見合わせる。
そして学長をまた見やった。
「「「「「リリちゃん先生!」」」」」
「よろしい。さて、ヒーローズのおまえたち。疑問を抱いているな? 質問されれば答えるが」
学長の言葉に、隼人たちは迷う。突然偉い人に出くわして、戸惑いが生まれているのだ。やがてメンバーたちの視線は、リーダーである進夢に集中した。
進夢に関しては、迷いはないようであった。
「そうですねッ。まずは、ラスボスの方々の正体についてお聞かせ願いたいッ」
「んむ。まずはそこだろうな。こいつらは、ぽん大の卒業生だ」
「卒業生!?」
「ほら、おまえたち。自己紹介」
「はいはいはいはいはーい!!」
最初に手を(というか、枝を)挙げたのは、食全植物・ロゼッタであった。
「あたしちゃんは、ロゼッタ・エクスローズ!! 趣味は文明の滅亡過程を鑑賞することだよ!! 最近ずっと楽しいことばっかり!! リリちゃん先生にも会えたし、あなたたち後輩とも知り合えたし!! よろしくね!! あははははははははははは!!」
次に吼えるのは、白銀の古竜・田村。
「ワイは聖竜ラムダや。生まれも育ちも大阪や。嘘やあらへんよ。本名は田村竜之介やけど、聖名でも本名でも呼びやすい方で呼んだらええ。ただ、崇めてくれとる異世界の巫女ちゃんたちの前で本名呼びは勘弁な。よろしゅうな!」
自己主張の強い二名が喋ったところで、「次はアタシたちが行くわね……?」と八岐大蛇が首をもたげる。
「さっきはゴメンナサイね……? 美男美女がいたから、ついハッスルしちゃったわ……? アタシたちは、そのまんまだけど、ヤマタノオロチっていうの……。頭のひとつひとつが別の人格で別の名前なのだけど、そこは覚えなくてもいいわ……? 好きなものは酒池肉林よ……? よろしくね……?」
続いて進み出たのは、煉獄の魔王・セカヰ。
「先ほどは我々ラスボス組が失礼をした。我はセカヰ。学生時代はほわんほわん学部のゆあーんゆよーんゆやゆよん学科に在籍していた。あまり話すのは得意ではないが、フレンドリーに接したいとは思っているので、気軽に話しかけてくれると助かる。……趣味ですか? ……最近は、園芸でトマトを育てている。よろしく頼む」
と、ここで自己紹介が滞った。天上の神と、地球外生命の幼体と、第十三次元の住人が喋ろうとしないためだ。
天上の神は、機械仕掛けのようにも見える体を臆病そうに縮こまらせている。
幼体は、直径六メートルの球形をした保護膜のようなものに覆われたまま、膜の中を泳いで単眼をぱちくりするだけ。
第十三次元の住人は、そもそも隼人たちの方からはうまく認識することができない。
学長が代わりに紹介を始めようとして、突然の大声に遮られた。
ボイスチェンジャーを通した、Ωの声であった。
『フハハハハハ!! ソロソロ ヒーローズノ奴ラハ ギッタンギッタンニ ヤラレテイルカナ~?』
そしてしばらく黙った。
『ゲェーッ!? リ、リ、リ、リリカルサファイア学長先生ィッ!?』
「おい、メロディ。お灸を据えられる覚悟はできているな?」
『本名デ呼ブナ!! Ωト呼ベ!!』
「そうだな。すまない。Ωという名は、とても格好いいものな」
『バカニシテルノカ!?』
「んむ? 馬鹿になどしていない。おまえがΩの名に誇りを持っているのは知っているぞ。それを馬鹿にするわけないだろが?」
『エッ……アッ……ウン……。ア、アリガト……。ッテ、ソウジャナクテ! ナゼ ラスボスガ 寝返ッテル感ジニ ナッテルノ!?』
Ωがマイク越しに口角泡を飛ばす。ラスボスたちは顔を見合わせ、代表して聖竜田村が答え、代表してロゼッタが笑った。
「せやかて、ワイらはなんとなく面白そうだからあんさんに従っただけや。恩師であり〝大学神〟であるリリちゃん先生に叱られたら、そら、なんとなく寝返るに決まっとるやで」
「あはははははははははははははは!! はははははゲホ、ウゲッホッ!! あははははははははははははは!!」
『クッ……! コウナッタラ! 四天王ノ皆! アイツラヲ ヤッツケニ行ッテ!! ホラ、イイカラ早ク!!』
四天王たちに無理難題をふっかけるΩ。通信の向こう側で、四天王メンバーたちが困っている様子がうかがえる。
学長は、はぁ、と溜息をついた。
ヒーローズに向き直る。
「この私は、事件にはこれ以上介入しない」
「えっ?」「何故ですかッ!」
「学生同士のいざこざは、学生同士で解決しろ。危険が及びすぎる場合はこの私が察知してすぐ駆けつけるが、基本的には学生だけでどうにかしてもらうというのがこの私のスタンスだろが」
「そ、そうなんですか……」
「大丈夫やで~。ワイらがおるやん」
「そーだよ!! あはははははははははは!!」
ラスボスたちが協力してくれるらしい。心強いが、ラスボスが圧倒的すぎる力でうっかりΩをオーバーキルすることがないように立ち回ろうとヒーローズの面々は思った。
「では、さようならだ。何、この私とまた会いたくなったら学長室に来ればいい。辿り着くのには苦労するかもしれないが、歓迎するぞ」
「苦労って……学長室への道中には一体何が……」
「ああ、それと」
学長はヒーローズの方を向いて、一言。
「事件解決にはおまえたちの力が必要になる。心することだ」
それだけ言うと、学長はその場から掻き消えるように去っていった。
◇◇◇
一方、白亜紀。
ホァンは大恐竜帝国の科学技術を発展させていた。
具体的に言うと、肉体の死が訪れても電脳空間で生き延びることができるようになっていた。
「ホァンザウルス帝王博士! これで全国民の魂のサイバーデータ化準備が整いました! 全国民サイバースペース移住計画ですが、ホァンザウルス帝王博士が予言した大絶滅の日の前までに間に合う見込みです!」
ここは国立研究開発法人最強研究所。
トリケラトプスのフェイフェイが角をぐいぐいと突き出しながら興奮気味に報告する。ホァンはにこにこ笑顔で「待。痛。角刺、痛」とフェイフェイを押し返す。それから研究チーム全員を見回した。ティラノサウルスやアンキロサウルスなど、多種多様な恐竜たちがホァンを見つめている。
「有難。成果、滅茶凄! 皆、天才!」
「いえいえ。ホァンザウルス帝王博士がたくさんの発明をもたらしてくれたおかげですわ」「ホァンザウルス帝王博士はオイラたちの希望ギャオ!」「これで種を存続させることができる。ホァンザウルス帝王博士、ありがとう」
「……ホァンザウルス帝王博士」
フェイフェイが頬を染めて可愛らしく首を傾げる。
「あなたは私たちの父であり、母であり、大地であり、空でした。そんなあなたに、私たちからお返しがあります」
「返礼? 何何? 美味? 宝物?」
「ふふっ。こちらです」
合図とともに、研究施設の奥の大きな機械にかぶせられていた布が取り払われた。
ホァンは驚きに目を見開く。
「此……此、何!?」
【④に続く】
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