隠しダンジョンを攻略せよ(後) ~魔王爆誕~
【前回のあらすじ】
ぽんぽこ大学の学食ストリートで開催された第一二三回早食い王決定戦。そのフードファイター紹介のさなかに事件は起こった。突然変異の巨大ガマガエル・
なんやかんやで救出に向かうことになったのは、
モンスターハンター、
謎のヨガマスター、クシャトリヤ・G・ラマチャンドラン
嵐の格闘少女、
そして、ただのゲーム好きな金髪の白ギャル、
四人のぽん大生が脅威へと立ち向かう! 恋春光を助け出すため、隠しダンジョンを攻略せよ!
◇◇◇
「GEKOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
学食ストリート、デデドン広場。
すべてを食らおうとする蝦蟇の叫びがとどろく。
そんな彼に、なおも立ち向かう男の姿があった。
有翼人種、
「蝦蟇! じっとしろ! 今、隠しダンジョンを攻略すべく、モンスターハンターとヨガマスターとセーラー服少女と白ギャルがおまえの胃袋の中に突入した! 俺は何を言っているんだ!?」
「深く考えたら負けですよ、大空キャプテン!」
聞き慣れた声に振り向けば、そこにいたのはサッカー部のエース、ラヴ・オーオオ。そしてその背後には、他のサッカー部の面々も集結していた。
「みんな! 来てくれたのか!」
「蝦蟇さんがピンチと聞いて、ボクがみなさんを集めたんです」
「
集ってくれたメンバーたちに、キャプテン有翼は「ありがとう」と真剣な顔で頷く。そして今一度、蝦蟇に向き直った。
「よし、みんな。犬塚さんが救出されるまでの間、蝦蟇をなだめるぞ!」
「「「「「「「「「おーっ!!」」」」」」」」」
部員の声に後押しされて気合いを入れながらも、キャプテン有翼は、祈る。
(ダンジョンへ突入した人たち……どうか、無事で……!)
◇◇◇
学部四年生に課せられる、卒業研究は……
大学の四年間で培った教養や技術の集大成だ。
ぽん大において、卒業研究の成果発表はもちろん卒業要件を満たすのに必須である。論文を書いて卒業する者もいれば、一年を通して描いた絵画を提出して卒業する者もいるし、卒研発表会で創作ダンスを踊って卒業する者、コントの面白さが認められ卒業する者、ラップバトルで教授に打ち勝ち卒業する者、かわいいから卒業する者などさまざまだが、中でも最も常軌を逸しているといわれる卒業制作があった。その卒業生がどうやってそれをつくったのかは不明。なぜ卒業制作としてそれをつくったのかすらも不明。わからないことだらけのその建築物たちは、今でも学内に設置されたままになっており、学生たちを冒険に駆り立てている。どこか懐かしいモンスター。わくわくするような宝箱。持て余した暇を夢に変えてくれる謎の迷宮、それこそが。
ぽんぽこ大学
ダンジョンNo.EX
すべてを喰らいし宮殿
〝ダンジョンNo.1からNo.7までをクリアした後に行けるようになるダンジョン。入口は学内にランダムに発生する。小さな空間にも発生することがあるため、過去にはマンホールの中に発生したケースや、噴水の泉の中に入口が発生したせいで泉が干上がったという事件があった。
このダンジョンの難易度を鬼のようなレベルにしている要素は多数ある。
例えば、入口を通ってもダンジョン内のどこに出るかはわからないこと。いきなり凶悪な敵と遭遇する危険性がある。他にも、出現するモンスターはかなり強いということや、ダンジョン自体も気が遠くなるほどに長いということなどが要因としてある。
だがそのぶん経験値やゴールドのドロップ効率も高く、ここでしか手に入らない強力なアイテムもある。総じて、やり込み要素を求めるコアなプレイヤー向けといえるだろう〟
――――ぽんぽこダンジョン攻略Wikiより抜粋
「いたたた……うぅ、どおしてこんなことにぃ~……」
「大丈夫か、喜吉良木さん。立てるか? 手を貸そう」
「わぁ~っ! クルリ、こんなとこくるの初めて! すごいすごい!」
「मैं नया हूँ」
ミカ、轟、クルリ、ラマチャンドランの四人は体勢を整え、周囲を見回す。振り返れば、今通ってきたワープゲート。彼らは蝦蟇の胃袋の中にある光り輝く異界へのゲートを通ってここまで来たのだ。
到達した隠しダンジョンは、バロック建築の宮殿といった趣の内装をしていた。奥行きはとても広く、天井は遥か高く、きらびやかなシャンデリアの光が部屋の隅々まで照らしている。
この場所はダンジョンの入口ではなく、その途中にある四角い大部屋のようであった。
「妙な場所に放り出されたな。この部屋には扉がひとつしかない。行き止まりか……ここはダンジョンのどこらへんなんだ……?」
「あれ……? ここ……こういうダンジョン、見たことあるような……?」
「周囲への警戒を怠るな。何が襲ってくるかわからない。……ところで、ダンジョン攻略の経験がある人は?」
轟以外の三人は首を横に振る。しかしミカが「あ、でもゲームでなら経験あるよ~☆」と手を挙げた。
「そうか。ならば今回は喜吉良木さん、きみにリーダーとなってほしい」
「きゃひぇっ!? な、なんでぇ!?」
「この〝ぽんぽこダンジョン〟は、どことなくテレビゲームに似せてつくられている。だから、ドラクエやゼルダの経験が意外に役に立つらしい」
轟が大真面目に言うので、ミカはおとなしく聞くしかない。
「私の本業はハンターだ。多少はダンジョンに潜ったこともあるが、隠しダンジョンともなるとその時のノウハウなど役に立たないだろう。喜吉良木さんはゲーム愛好会の天才ゲーマーと聞き及んでいる。その経験値を生かし、指揮をとってくれ。もちろん戦闘は私たちに任せきりで構わない。どうかな?」
真剣な轟のまなざしに、ミカは「ん~……」と顎に人差し指を当てて逡巡する。
脳裏に浮かぶのは、大好きな友達、
現在の状況は、ミカの頭に取り付けられた小型ヘッドカメラによって中継されている。だから、デデドン広場にいるはずの景介にもこの様子は届いているのだろう。
ミカは想像した。ケイくんに、「※おまえリーダーやってて凄かったな。さすがだぜ」と褒められる至福のひとときを。
「ん、いいよ~☆」
「本当か!」
「うんっ! ちょっと怖いけど……よく考えたら、ゲームの中に入れたみたいで、なんか楽しくなってきたし! それに、今は何よりも、早くひかちゃんを助けなきゃねっ!☆」
「ありがとう。私はハンターとしてきみたちを必ず守り抜こう」
「よ~し、クルリもがんばる! よろしくね、たいちょー!」
「आइए हम अपना सर्वश्रेष्ठ करें」
一致団結したところで、「わんちゃんの匂い、おぼえてるよ!」と豪語するクルリが恋春光の匂いをたどり、出口へ向かって走っていく。そんな彼女を、三人は「待ってぇ~!」「速いな……」「कृपया प्रतीक्षा करें」と慌てて追いかけ、大部屋を出ていくのであった。この大部屋は実をいうと隠しダンジョン最奥のボス部屋だったのでダンジョン内最強の存在である隠しボスが襲ってきたがそこは轟がサクッと仕留めたのであった。
◇◇◇
一方その頃、隠しダンジョンの中盤にある
「なんでうちのボス一瞬で倒されてんの!?」
遠方の景色を映し出せる〝遠写しの鏡〟を覗き込み、ダンジョン内を走る勇者パーティーの様子をうかがう。次々と襲いかかるしもべのモンスターたちを適当に処理しながら走る轟とクルリを見て中ボスは戦慄した。
「待って待って、うちのしもべたちを余裕で倒すとかあいつらなんなの? ちょっとステータス見よ」
意地ヶ谷轟
せんし
レベル:999999999
へんさち:71
さいだいHP:954328116
さいだいMP:763425485
こうげき力:999996342
しゅび力:843257382
ちから:954738257
みのまもり:805432879
すばやさ:654389175
風包クルリ
ぶとうか
レベル:984531763
へんさち:21
さいだいHP:432189721
さいだいMP:2
こうげき力:342389898
しゅび力:103219920
ちから:342389898
みのまもり:103219910
すばやさ:999999999
クシャトリヤ・G・ラマチャンドラン
そうりょ
レベル:?????????
へんさち:58~
さいだいヨガパワー:∞
インドをあいするきもち:∞
インドのめんせき:3287590㎢
インドカレー:せかいいちうまい
タイプ:エスパー
なぞの インドじん。 ヨガのポーズをすると しんえんな しゅうちゅうりょくをはっきして うちゅうのしんりに たどりつけるという。
喜吉良木ミカ
あそびにん
レベル:887
へんさち:62
さいだいHP:2106
さいだいMP:905
こうげき力:1038
しゅび力:916
ちから:1038
みのまもり:906
すばやさ:853
「高すぎるだろ!! しかも次々倒して経験値荒稼ぎしてるから元々は貧弱だったであろう遊び人がどんどんレベル上がってるし!! てかあのインド人何者なんだよ!! 表示がおかしいだろ!! インドの面積とか知るかよ!! インドカレーうまいですか良かったね!! てか途中でポケモン図鑑になってんじゃねえよ!! こいつらは何なんだよ!!」
律儀に突っ込んでいる間に中ボス部屋の扉が吹き飛び、勇者パーティーの面々が入ってきた。
「ギャーーーー!! 出たーーーーーーーー!!!!」
中ボスは泡を吹いて倒れた。
ミカと轟とクルリとラマチャンドランは、顔を見合わせる。
そして全員で思い思いの勝利のポーズをとった。
「「「勝ったッ!!」」」
「いや勝ったッじゃないよぉ! つい自分でも言っちゃったけど! まだひかちゃんを助けられてないよ!?」
「わんちゃんならそこにいるよ!」
「がるるるる……わんっわんっ!!」
「ひかちゃんがいつにも増して犬っぽくなってる!? あまりの怖い出来事に退行しちゃったの!? だ、大丈夫だよ~ひかちゃん。ミカたち、ひかちゃんを助けに来たんだよ~」
床にぺたんと座った恋春光に手を差し伸べるミカ。
恋春光はハッと意識を取り戻し、犬っぽい座り方をやめて手を伸ばしかけるが、ミカの背後の三人を見て固まる。
クルリの方はにこにこしていたが、轟は頬に古傷のある強面であり、さらにはラマチャンドランもいつものように目をぎょろつかせ、ヨガのポーズで浮遊していた。
恋春光は泣き出した。
「ふぇぇぇん、不審者のおじさんがふたりで見つめてくるよぉぉ~~」
轟とラマチャンドランは、しゅん……とした。
「ひかちゃん! 轟くんの方は不審じゃないよっ!」
ラマチャンドランは泣いた。
「と、とにかく……。これで犬塚さんの救出という目的は果たせそうだな」
「うん! 蝦蟇くんの中にできたゲートは、しばらくすれば消えるはずだし、もう帰るだけだね☆」
Wikiによれば、隠しダンジョンの出入口のゲートは場所を定期的に移動している。今回は運悪く蝦蟇の胃袋にできてしまったが、数日前からこの状態なのだとしたら、もう胃袋の中から消えていてもおかしくはないくらいであった。
ミカが「行こっ!☆」と他の四人を鼓舞する。通ってきたゲートへと戻るため、再び走り出そうとした。
しかしそれはかなわなかった。
轟音がして、地面が隆起する。実際にはものすごい縦揺れが起きただけだったのだが、床が波打っているのかと勘違いするほどに強い震動が五人を襲った。
ミカや恋春光は尻もちをつき、「きゃあっ!」と悲鳴を上げる。
「なに!? なにが起きてるの!?」
「わからない! だが……喜吉良木さん。きみにならわかるのではないか?」
「……!」
「さっき、喜吉良木さんは『こういうダンジョン、見たことあるような気がする』といったようなことを言っていたね。そしてきみはゲーム愛好会のゲーマーだ。きみならば、このダンジョンと似た性質のダンジョンをゲームの中で見たことがあり……そこから今起こっていることを推察できるのでは?」
揺れが激しくなり、天井から瓦礫が落ちてくる。シャンデリアが外れ、部屋の真ん中で甲高い音を立てて砕け散った。
「……この、ダンジョンは!」
ミカがなんとか声を絞り出す。
「不思議のテイルズオブファイナルクエスト塔士サ・ガのクリア後にプレイできるおまけダンジョンに似てるの! そこではダンジョンの全ボスを倒した後、ダンジョンが崩落しちゃって、制限時間内に脱出しないとゲームオーバーになる! それと同じことが起こってる!」
「成る程な。この隠しダンジョンは、そのおまけダンジョンのオマージュというわけか。とにかく! 喜吉良木さん、犬塚さん、掴まれ! 私が背負って連れていく!」
「ダメ! このダンジョンがゲームをまねしてるなら、難易度を上げるために、出入口のゲートは五分に一回ランダムに移動してるはず。きっと最初の位置から変わっちゃってるよ!」
「ならばしらみつぶしに探すしかない!」
「आपको नहीं करना है」
ラマチャンドランの確信に満ちた声がして、四人の視線が集中する。
彼は浮遊しているので震動の影響をまったく受けず、泰然とした笑みを湛えていた。
「मुझे गेट मिल गया। योग पोज़ करके ब्रह्मांड की सच्चाई से जुड़ना।」
「ラマチャンドラン君! ゲートを見つけてくれるのか!?」
ラマチャンドランが、膝を曲げて外側に開き、両方のかかとを自分の身体に引き寄せて縦に並べ、背筋を伸ばし、空中に座す。
それはヨガの中でも最も基本的な形といわれる、〝安楽座〟であった。
ラマチャンドランの全身が、着ている服も含めて透き通り、満点の星空のような模様で輝き出す。まるでラマチャンドランの体が窓となり、そこから宇宙を覗いているかのよう。
宇宙の真理との接続――――
銀河色になったラマチャンドランは、真っ白になった目をカッと真円に開けたまま、遙か彼方を視ていた。
「मैं समझ गया」
ラマチャンドランが口をがぱっと開けば、そこから青い立体映像が投射される。
浮かび上がったのは、隠しダンジョンの全区域のマップであった。
「口から出るのか」
「मैंने सच्चाई से एक नक्शा खींचा। कृपया इसे देखें।」
「すご!? えっと、この光ってる点が今のゲートでおっけー!?」
「わー! となりの部屋じゃん! 行こ行こ!」
「いや、待て! 位置としては隣だが、そこまで辿り着くまでの道のりが入り組んでいる。フロアを上り下りしたり、罠のある部屋を突破しなければゲートまで行けないぞ」
「えぇーっ!? じゃあクルリがそこの壁をぶっこわしちゃえば……」
「それもダメだ。私がここへ来る道中で何度か通路の壁をこのハンマーで打ったが、びくともしなかった。ゲーム風に言えば、〝破壊不能オブジェクト〟なのだろう」
「そんな! どうしよう、たいちょー!」
「何か手段はないか、喜吉良木さん!」
「ある!」
ミカの頭の中にアイデアが思い浮かび、反射的に答えていた。しかしよくよく考えれば、実行不可能な方法であった。
「あるのか! 教えてくれ!」
「あ、でも……と、とにかく言うね。おまけダンジョンの中ボス部屋では、中ボスと戦ってる最中にイベントが起きるの。ストーリーで倒したはずのラスボスの魔王が、あそこの壁を壊してその向こう側から現れて、ピンチ状態の主人公たちを助けてくれるんだよ! つまり……魔王なら破壊不能オブジェクトを破壊できるっ!!」
「……この中に実は自分魔王なんだよという人は?」
沈黙が下りた。
しかし黙っている場合ではない。
か細い声が、恋春光から発せられた。
「あ、あの……わたし……たぶん、魔王になれると……思う……」
「……あーっ! そっか! ひかちゃんだったら『なれる』ね!」
「え! わんちゃんまおうなの!?」「そ、そうなのか犬塚さん?」
「は、はい……。でもそのためには、みなさんの力が必要です……。だから……」
恋春光の提案に、ミカ、轟、クルリ、ラマチャンドランは、頷いて……
四人で、その言葉を、唱えた。
「「「「魔王様、どうかお助けを!」」」」
「ククククク……我は魔王なり……」
「ちょろいな~」
◇◇◇
四人からかけられた暗示により、自らを魔王と勘違いした恋春光は、ダークネスエネルギーフォトンバーストを放って壁を破壊した。
大会主催者・
五人の間には連帯感が生まれ、なんだかんだで、波乱の状況をハラハラしながらも楽しめたのであった。
◇◇◇
「フィニィ――――――ッシュ!! 隠しダンジョン攻略RTA、終了です! フードファイターの皆さん、お疲れ様でした!!」
蝦蟇の口からすぽぽぽぽぽんと出てきたミカたちを最初に待ち受けていたのは、いつの間にか実況をしていたかたりの大声と、いつの間にか解説をやらされていたガンジマの苦笑いと……
人数分用意された、ドーム型のフタに隠れた料理であった。
「観客のみなさまお待たせしました! ようやく本題に入ります。早食い王決定戦! 今この瞬間からスタートですっ!!」
スタッフがフタをとると、そこには厚みのあるクリームパイが五つ分あった。
ミカと、轟と、クルリと、ラマチャンドランと、恋春光は、お互いに顔を見合わせる。
そして頷いた。
死線をくぐり抜けた仲間たちの思いは、ひとつであった。
「誰が最も早く食べ終わるのでしょうか!? さあファイターたちがパイを手に取り……あれ? 何で全員こっち来るの? 何で実況席の方にパイ持ったまま来て……えっちょっとちょっと、ガンジマくん何逃げてんの? え何? 何? な――――ごばーーーーー」(パイがかたりの顔面に立て続けにヒットする音)
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