イースター島の真実
事の発端は、
ツイッターにおいて一億人のフォロワーを持つホァンのアカウントが、そのツイートを
動画を見た青年はその日のうちに渡日を決意した。
探しているものが、ジャペァン国にあると知ったからだ。
ホァンがRTし、青年の渡日のきっかけとなった、そのツイートは……
ヤスケ@give_me_tanwyyy
このモアイ像めっちゃ喋ってる笑笑
(添付動画:モアイ像が喋りながら頭突きしてくる動画)
🔃 680.7万件 💗900.6万件
◇◇◇
「偏差値二億六千万青年、来日……?」
ホァンは驚きに眉を上げ、いつもの謎言語で呟いた。
ここはぽんぽこ大学のどこかに存在する異空間――――〝神の塔〟。上も下も右も左も、三八〇度どこを見ても雲のたゆたう青空が広がる不思議な空間である。そんな場所で会議をしているのは、ドンドコ学部の偏差値をたったの七人で二億六千万に引き上げているすごい存在〝七賢者〟だ。ホァンはその一員なのであった。
「そう。二億六千万の推定偏差値をもつ青年が、このぽん大へやってくる」
爽やかな声で返すのは、水槽の中の脳――――脳マン。薬液の中でぷかりと浮いた剥き出しの脳から幾本ものコードを伸ばし、機器に繋いで、スピーカーを介してコミュニケーションをしている。
「ホァン君には、その青年と接触し、ぽん大に入学するよう仕向けてほしい。彼にはいずれ賢者のメンバーに加わってもらおうと思っているんだ。類稀なる頭脳は、私たちと同じ賢者となるにふさわしいからね」
「何故、我?」
「あはは。それはもちろん、君が七賢者の中では最も常識的で人当たりが良いからさ」
脳マンが「周りを見てみなよ」と促すので、ホァンは会議に集まった賢者たちを見回す。水槽に浮かぶ脳に始まり、頭にターバンを巻いてヨガのポーズで浮遊するインド人、話も聞かず一心不乱にクレヨンでお絵描きしている幼女、白コートを着て黒グラスで目を隠した青髪のスーパーハッカー、白髭禿頭のよぼよぼ老人……といった濃い面子がそこにいた。
確かに、このメンバーの中で勧誘役に適しているのは、ホァンだけだろう。
ホァンは軽く溜息をつき、それから「呵呵!」と元気よく笑った。
自慢の七三分けを櫛で整え、ビシッと決めて言い放つ。
「承知。黄健介、絶対任務遂行! 乞御期待!」
◇◇◇
脳マンの依頼を引き受けた、その翌朝。
ホァンは、裏サークル・ヒーローズの仲間である
七賢者のことはできるだけ内密にと言われている。情報をいくらか伏せつつも、ホァンは、授業を自主休講してまで今ここにいる理由を説明した。
「へ、へ、偏差値二億六千万ん!?」
隼人が仰天する。「そいつやばすぎんだろ!! てかぽん大の偏差値が二億六千万っての半分くらいネタかと思ってた。え、てことは入試を突破して入学したホァンも偏差値二億六千万レベルなん?」
「否。我偏差値、三億二千万」
「さんおくにせんま」
「我偏差値、序之口。一部学生、我事、凌駕。例……脳男先輩偏差値、十億八千万。滅茶苦茶凄」
「おかしくないですか? てか脳マンって誰だよ」
「更、一部学生、偏差値高過故、計測不能場合有」
「偏差値ってそういうのじゃなくね?」
隼人が今更すぎるツッコミを入れていると、ホァンが腕時計を確認し、頷く。
「約束時間!」
「お、じゃあそろそろ来るのか、その来日する青年とやらが。どんな奴なんだ?」
「彼関係情報、僅少。昔、離島在住。現在、世界中放浪旅人」
「昔は離島に住んでたってのは……田舎育ちってことか? ちなみに離島ってどこ?」
「復活祭島」
「イースター島!?」
「彼、復活祭島住民、最後末裔。浪漫、横溢! 我、滅茶興奮!」
イースター島住民の最後の末裔という存在に、期待感を隠せない様子のホァン。どんな姿をしているのだろう。やはり浅黒い肌に布を巻き付け、土着の神性を崇めるためのアクセサリーを体中につけていたりするのだろうか。それに文化にも興味が尽きない。古代言語を操り、独特な世界観でこの世を眺望している原住民を想像し、面白いことが大好きなホァンは「湧湧!」とわくわくした。
と、突然、ゴオオオと飛行機が飛ぶ大きな音がする。
ホァンと隼人はその音につられて、近所に空港でもあったっけな、などと思いながら何の気なしに空を見上げた。
音の源は、飛行機ではなかった。
いや……飛行する機械だということには間違いはないのだが……
それは、二足歩行の人型巨大ロボットであった。
一言で表すのなら〝モアイロボ〟とでもいえようか。胴体はずんぐりと横幅のある巨大モアイ像の顔の形をしており、四肢もまた、モアイが縦に繋がったような形をしている。上腕、前腕、大腿、下腿、それぞれが丸ごとひとつのモアイ像の頭部で形作られ、もちろんロボット自体の頭部もモアイである。背部に搭載したモアイ型バーニアも含めれば、合計十二体のモアイ像が合体したような有様であった。
バーニアからのロケット噴射を弱めながら、ずうん、と着陸する。高さ二十メートルの巨人が太陽を遮り、影を落とす。直後、黒ずんだ岩肌のモアイロボの胸部装甲が開き、そこから何者かが飛び降りた。
青年であった。
ホァンのイメージ通りの浅黒い肌をした原住民は、腰布を巻き、ところどころに白い顔料で線を引いていた。
彼の彫りの深い顔は、パッと見、モアイであった。
「🏫🌸😀……」
モアイ顔の青年が正門を見上げて、感慨深げに呟く。
「🗿☀️👀🗾🙏😆……❗️❗️」
「いやいや、え、何? 何?」
「宇唖唖唖唖!! 滅茶凄!! 滅茶滅茶格好良!! 面白!!」
戸惑う隼人だったが、ホァンの方はモアイ型ロボットが琴線に触れたらしい。しきりに騒ぎ、スマホで連写している。一方でモアイ顔の青年は、ハッとしてこちら側に向き直った。
「👋。👉🗾🏫👨🎓🤔❓❓」
何を言っているのかわからない。
「お、おいどうすんだよホァン。言葉が通じなさそうだぞ」
「大丈夫! 今回任務前受取、秘密道具有」
「任務の前に受け取った秘密道具……?」
「翻訳蒟蒻~」
「やめろ!」
なんやかんやでホァンと隼人は、モアイ顔の青年と意思疎通する術を得た。彼は名をオロンゴといい、世界中を旅していたが、遂に探していたものの在処を突き止め、ここぽん大に来たらしい。
「おいらは超古代文明モアモアの民の末裔です」
大の面白好きなホァンと、人並みにロマンが好きな隼人は、一人称おいらなのか……と思いつつも興味深げに耳を傾ける。
「モアモアとはあなたがたのいうラパ・ヌイ、あるいはイースター島を指す言葉です。〝神の集まる大地の端〟という意味を持ちます」
「神の集まる……」「大地端……」
「紀元前8000年前に勃興した超古代文明モアモアは、現代の科学技術を遥かに超越した文明レベルを持っていました。ですが、とある戦争によって大打撃を受け、滅亡してしまったのです」
オロンゴが彫りの深いモアイ顔に、さらに影を落とす。
「おいらは滅亡が確定的になった頃にコールドスリープを施され、地下深くに封印されました。目覚めた時、モアモアを復興させるという使命を帯びて……」
「凍結睡眠……。復活祭島超古代文明科学技術、滅茶凄!」
「経年劣化によりコールドスリープ装置の機能に綻びが生じ、安全装置によって強制的に覚醒させられたのが先月のこと。おいらは研究所に残されていたこのロボットを起動させ、世界中を飛び回りました」
「飛び回ったってのは、何のために?」
そこでオロンゴが視線を上げた。ホァンと隼人もつられて、正門前に仁王立ちしたままのモアイロボに目をやる。
「そういやこれめっちゃ邪魔だな今」
「この〝機動守護霊モアイダー〟には、現在〝
「機動守護霊モアイダー……」
「名前、滅茶格好良……」
「そうかあ?」
「機動守護霊核部、此処大学、有?」
「そうなのです。コアを探しておいらはこの大学へと辿り着きました。手掛かりとなったのは、ツイッターです。タイムラインを眺めていたら、モアイダーのコアにあたるモアイ像〝メケメケ〟の動画がバズっており、位置情報にはこの地域が記されていたのです」
「あんたスマホ使ってんのか……」
「思わず一言『草』とクソリプを送ってしまいましたw」
「俗っぽいな!」
「コアであり守護霊でもあるメケメケの回収。それが訪問の目的です。この大学のどこかにモアイ像があるはずなので、それをいただければすぐに帰ります」
ホァンはそれを聞いて、思案する。
七賢者の脳マンに託された依頼は、このオロンゴをぽん大に入学させるよう仕向けてほしいというものだ。帰られては困る。個人的にも、モアイダーについてもっと詳しく話を聞きたい。
かといって、オロンゴ側に入学する理由がないのも事実。
どうしたものかと考え込んでいると、肩を軽く揺すられた。
隼人があさっての方向を見て、「おい、ホァン」と呟いている。
「隼人? 何?」
「あれ」
指さす方を、ホァンは見た。つられてオロンゴも視線の先を追う。
荷台に小さなモアイ像を積んだ軽トラックが道路を走り抜けていくところであった。
そういえば、粗大ゴミの回収の時間であった。
「……」
「……」
「……」
「🗿――――――――ッッ!!」
オロンゴが叫ぶ。青ざめた表情。伸ばした手は空を切り、軽トラックは遥か先へ行ってしまう。
その様子を見たホァンと隼人は、顔を見合わせ、頷き合った。
「オロンゴ。あれが〝メケメケ〟っていう守護霊なんだな?」
「そ、そうです。あの、どこへ連れていかれたのですか……?」
「大丈夫! 我々正体〝英雄達〟!!」
ふたりが瞳の奥を光らせる。
それはヒーローとしての〝異能〟発現の合図であった。
「ここで待ってな。すぐ取り返してくる!」
「御安心! 必、救助!」
◇◇◇
ホァンと隼人が軽トラックを追いかけていった後、取り残されたオロンゴは、かつての超古代文明モアモアについて考えていた。
モアモアの民は、誰もが優しかった。自分を慈しみ、他人を愛し、祖霊に感謝し、生命に祈っていた。困っている人が身近にいたなら、たとえそれがいけ好かない相手だったとしても快く助けたし、それが当たり前だった。
「🙅♂️💣🔫🔥▶️⏩😣(でも、戦争が始まってからは……)」
戦争が始まると、誰もが余裕を失い、慈愛の心を忘れていった。他者を蹴落としてても生き延びようとしたし、そうでなくては守るべきものを守れなかった。そのような環境になってしまったことが、モアモア滅亡の原因の一端だと、オロンゴは思っている。
しかしこの時代はどうだろう。
オロンゴは思い浮かべる。
ホァンという青年。隼人という青年。
彼らは――――
「彼らは優しさを持っている……」
突然、隣で声がして、オロンゴは面食らった。男がいつの間にかそこにいた。
「そしてその優しさは、とうとい。だからこそ……美しい」
「……😄。🏘️🏭🏦🌃🌍🗺️🧰🏗️……👐😊(……そうですね。モアモア滅亡後の地球が、こんな時代を築き上げてくれていて……嬉しいです)」
「美しさはとうとく、そして、優しい……」
「👉🤔(ところで、あなたは?)」
「オレは部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶることが趣味の暇人……」
黒衣の男は「ククク……」と笑みをこぼし、大剣をきらめかせ去っていった。特に状況は理解していなかったがなんとなくそれっぽいことを言ってみただけなのであった。
「オロンゴーっっ!!」
向こうから隼人の声がする。ホァンと一緒に、軽トラのおっちゃんと話をつけてUターンしてもらってきたようだ。メケメケも無事そうである。
オロンゴは、微笑んだ。
時代の後輩たちともいえる彼らに、いつの間にか、好感を持っていたのだった。
「🙏🥰。🎉😊。👈💪👑🌐😆(ありがとうございます。お礼をさせてください。おいらにできることなら、何なりと)」
その言葉を聞いたホァンは、無邪気に目を輝かせる。
彼は迷わず、佇む機動守護霊モアイダーを指さした。
「我望、機動守護霊、搭乗!!」
◇◇◇
こうしてホァンはモアイダーのコクピットに乗せてもらい、大はしゃぎで操作して空を飛んだりガンダムごっこをしたりしたのであった。そんな親友の様子を、隼人は、ほほえましそうに眺めていたのであった。そしてホァンは意気揚々と神の塔に帰ってきてから気付いた。
「勧誘、忘却彼方!!!!」
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