おどろおどろ学部スリジャヤワルダナプラコッテ学科 四天王会議
真っ暗闇に、明かりが灯る。
スポットライトは巨大な円卓の席のひとつに向き、とある男を照らし出した。顎鬚を生やした男子学生は真上から降り注ぐ光に顔の陰影をくっきりとさせながら、机に肘をついて顔の前で手指を絡めている。
厳かに、口火を切った。
「黒魔導士がやられたようだな……」
カッ、と音がして、スポットライトがもうひとつ現れ、円卓の席についている二人目を浮かび上がらせた。眼帯をしたその二人目もまた、低く唸るような声で言う。
「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」
カッ、とまたもや音がして、三つめのスポットライトが三人目を照らした。仮面をかぶったその男もまた、呟く。
「単位の墓場の墓守如きにやられるとは、我ら〝ぽんぽこ大学おどろおどろ学部スリジャヤワルダナプラコッテ学科〟の面汚しよ……」
カッ。
そして角の生えた四人目が、四つめのライトの光を照り返す。
「面汚しといえば、この前カレーうどん食べたらめっちゃ飛び散って白シャツがすっごい汚れちゃった……」
カッ。
タンクトップを着た五人目。
「その格好でカレーうどん食べたおまえが悪いだろ……」
カッ。
顔を紙袋で覆った六人目。
「でもカレーうどんおいしいよね、食べたくなるのわかるわ~。え、どこで食った? 学食ストリート?」
カッ。
三つ編みに瓶底眼鏡の七人目。
「カレーうどんだったら『激辛ガネーシャ』っていうカレー専門店のがおすすめですよ。裏メニューだけど、辛くておいしいんです」
カッ。カッ。カッ。
ガム噛んでる八人目。ビシッとビジネススーツが決まった九人目。寝てる十人目。
「最近激辛料理流行ってるよな~クッチャクッチャ」「次は激辛ビジネスにコミットしていきましょうかね」「すやすや」
カッ。カッ。カッ。カッ。カッ。カッ。カッ。カッ。カッ。
額に目がある十一人目。ラーメン食べてる十二人目。赤ちゃんに哺乳瓶のミルクをあげてる十三人目。ダンベル上げ下げしてる十四人目。十五人目。十六人目。十七。十八。十九。
円卓に当たるスポットライトが二十人目を照らし出した時、一人目の顎髭の男は、わいわいがやがやと雑談をしている彼らを遮るように声を上げた。
「少し聞いてくれ」
「で、そこのグリーンカレーがさ~」
「聞け!」
顎鬚男が円卓を両手で叩く。
「我々は四天王のはずだ。なんだこの人数は。四人どころかその五倍いるではないか。二十天王ではないか。誰なんだおまえたちは」
「「「「「「「「「「「「「「「「「黒魔導士が欠員したから補充に来ました」」」」」」」」」」」」」」」」」
「うわ一斉に喋るな
顔をしかめているのは、顎鬚の男だけではない。二人目に照らされた眼帯の男と三人目に現れた仮面の男もまた、不満げに腕を組んだり、苛立たしげに机を指で叩いていたりした。
この三人は、元々の四天王メンバー。
ぽんぽこ大学おどろおどろ学部スリジャヤワルダナプラコッテ学科を陰で牛耳る謎の存在〝Ω〟の、直属の配下である。
「そもそも我々四天王は、ドンドコ学部ドゥッダンツカドゥッドゥン学科の者どもを混迷に陥れるために活動している。厳粛にならねば務まらぬのだぞ」
顎鬚の男・キサラギが声を荒げる。眼帯の男・ガンジマも顎を引き、吐息混じりに言った。
「キサラギの言う通りだろう……な。補充とは言うが、今の貴様等は真剣味に欠けている……。偏差値五十二の我らスリジャヤワルダナプラコッテ学科が、偏差値二億六千万のドゥッダンツカドゥッドゥン学科に対抗するには、これまで以上に悪の道を進む覚悟が必要だから……な」
「ガンジマの意見を、肯定する」
血涙を流しているような恐ろしげな仮面をかぶった男・ドドメザカが、くぐもった声を発した。
「そしてあなたがたの四天王加入を、否定する。四天王に必要なのは残虐さである。相手が女でも躊躇なく殴り、相手が子供でも堂々と蹴り飛ばす……。あなたがたからはそれができるほどの残虐性を見出すことができない。よって、否定する。否定する自分を、肯定する」
ドドメザカの、恐怖を誘う低い声は、円卓を這うように響いて新加入予定の四天王たちに届いた。
赤ちゃんに哺乳瓶のミルクをあげてる十三人目のお母さん四天王メンバーにも、それはもちろん届いた。
赤ちゃんは泣き出した。
「うわあああああん、うぎゃああああああああ」
「ああっもう、怖くないよジュンくん、ほらミルク飲みまちょうね」
「びええええええええええええ」
慌てだすお母さん。
騒然となる新四天王たち。
舌打ちをする顎鬚の男キサラギ。
眉間にしわを寄せる眼帯の男ガンジマ。
仮面を外す、ドドメザカ。
仮面を外してアンパンマンのお面に替える、ドドメザカ。
「ぼくはアンパンマン! 泣かないで、ジュンくん!」
「あ! ほら、アンパンマン来たよ! ジュンくんほらアンパンマン!」
「びええ……? きゃっきゃっ! きゃう~♪」
ドドメザカはサービス精神たっぷりに赤ちゃんの前で手を振り、声真似で存分に笑わせてあげて、場を和ませた後、自分の席に戻った。
キサラギとガンジマはあんぐりと口を開けていた。
ドドメザカが、フッ、と息を吐いて、手のひらを広げた。
「な~んてね」
キサラギとガンジマが同時に跳躍し、ドドメザカをハリセンでスパーンと叩いた。ハリセンとはいえ四天王のうちふたりが全力で見舞った攻撃である。ドドメザカは椅子から倒れ、目を回して気絶した。
ふたりはハリセンを持ったまま息を荒げ、目を血走らせて、ドドメザカを見下ろす。
アンパンマン面の下の口からは、魂が抜け出そうになっていた。
それを見て、三人を除いた十七人の四天王が厳かに呟いた。
「「「「「「「「「「「「「「「「「ドドメザカがやられたようだな……」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「だから誰なんだよおまえらは!!」」
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