ぽん大の隅、屹立するモアイ
ぽんぽこ大学の、とあるゴミ捨て場。
学内の隅にある誰も寄り付かないような場所に、ひとつのモアイ像が立っていた。
一メートル半程度の高さをしたその像がなぜそのような場所にあるのかは、定かでない。怪しげなサークルの備品だったのか、あるいは大学祭に使われたオブジェだったのか……今となっては不明だが、ゴミ回収の業者には単なる邪魔である。だというのに撤去はされず、こんにちになっても何故かゴミ捨て場をその窪んだ眼窩で見下ろしていた。
そのモアイ像の、眼前に……、
ひとりの男子学生が現れた。
しきりに周囲を気にしている。ここは建物からも遠く、人通りは少ない。それこそゴミ回収業者や、ゴミを置きにくる大学関係者しか寄り付かない場所である。いまも、周りに人影は見えなかった。
それを確認し、男子学生は襟元を正す。
モアイ像をじっと見つめ、その場にひざまずいた。
「ずっと前から好きでした」
差し出した手には、赤い薔薇。
「付き合ってくださいっ!」
カア、とカラスの声がする。ゴミ袋に向かって降りてきたカラスがゴミを漁ろうとその場を歩くが、ネットに邪魔をされて四苦八苦している。やがてカラスは、ひざまずいた体勢から立ち上がった男子学生の気配に気づき、飛び去っていった。
首を捻る男子。
「うーん、なんか違うんだよなぁ……こんな告白であの人が振り向いてくれるとは思えない……」
男子学生はそれからも何度か告白の練習をして、いまいち納得のいかない顔をしたまま帰っていった。
そしてモアイ像に宿る自我は、(うわどうしようこれ……)と内心冷や汗をかいた。
◇◇◇
男子学生は名前を
「
「ヘイ麗華さん、僕で妥協しない? ……はぁ~」
「キミを必ず笑顔にしてみせるよ……。……いやーキモ」
弥助の想い人とは、
モアイ像にはそれを感じ取る魂があるのでモロバレであった。
(いまどき、こんなピュアッピュアッな大学生が存在していたとは……。絶滅危惧種すぎる……)
自分も滅びた文化の残骸であることを棚に上げ、モアイはそんなことを思った。
翌日、弥助はアロハシャツにサングラスをかけ、アコースティックギターを持ってやってきた。
「麗華さん、キミのために歌います。――――〝アイス・エンジェル〟」
(いやそれはやめとけ~?)
翌日、弥助は全身に赤い絵の具をぶちまけた格好で現れた。
「麗華さん……僕の、最期の、願いだ……。付き合って、ください……」
(死ぬ死ぬ詐欺はダメだろ)
翌日、弥助は白馬に乗って現れた。白い暴れ馬は弥助を振り落とした。目を回して気絶する弥助をモアイは見下ろす。
(何がしたかったんだよ)
そして翌日。
弥助は暗い顔をして現れた。
麗華へ告白して、そして、玉砕したらしかった。
モアイは、(いや派手に落馬した次の日に本番にいける度胸がすげえな)と思ったが、とりあえず弥助の話を聞くことにした。聞かれているとは知らない弥助は滔々と話しだす。
「好き、だったんだ」
ピュアッピュアな弥助の顔が歪む。
「どんなに眠たい授業でも、常に背筋を伸ばしてノートをとる姿が好きだった。教授が感心するような意見を何食わぬ顔でぶつけられる、カッコいい姿が好きだったんだ。でも……僕には何もない。釣り合わないんだ。当たり前のことだった……」
肩を落とし、自嘲気味にわらう。
「僕は、もうダメなのかもしれないな。単位も落として、留年しそうで、おまけに……この前、レーゾンデートルのパンデミックレディオの電波をジャックしたことがバレて物凄い怒られた。飼ってるポチと、ハチ、レックス、デンスケにも最近無視されるし……。もうダメだ。これからやっていける自信がない。麗華さんのことが今でも好きだよ。冷たい顔の……カッコいい表情の麗華さんがさ。…………だけど……」
弥助は震える手で、モアイ像を叩く。
「僕は本当は……麗華さんを笑顔にしたかった……!」
モアイはその、血を吐くように漏れ出す感情を聞いていた。
すごく、困った。
励まさなくてはならないとも思った。
言葉を、なんとか届かせられないだろうか?
試しに、人間のように喋れないかどうか、顎を動かしてみた。
「青年よ……」
「わっ!? な、何だ!?」
「いや喋れるのかよ呆気ないな」
「こ、これは!? モアイが喋っ……!?」
「えーン゛ッンン゛! えー、貴方の頑張りを、私はずっと見ていました……」
「な、なんだって……?」
「貴方は決して、ダメな奴などではありません……」
「すげー! このモアイめっちゃ喋るじゃん! やべえ!」
「ですから、こんなことでへこたれず、自信を持って歩んでいくのです……」
「やべえな、ツイッターにアップしよ。動画撮影っと」
「青年よ」
「おっ早速いいねが」
激怒したモアイによるモアイ頭突きが炸裂する。弥助は吹き飛び、そのまま地面に伸びた。そんなこんなで弥助がアップしたツイートは一万リツイートを超え、麗華のアカウントのタイムラインに届き、麗華をツボらせ、そして、笑顔にさせたのであった。
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