地下トーナメント死闘篇
【前回のあらすじ】
一日一悪をモットーとする不良ぽん大生、
◇◇◇
ぽんぽこ大学地下トーナメント、ファイター控室。
そこでは数名のファイターが緊張感のある空気を漂わせていた(ちなみに阿波踊り大会のファイターたちではなく、正真正銘、バトルトーナメントのファイターたちである)。
凱はその中でビクビクと怖気づきながら、自分が、優勝賞金二億六千万円を懸けたトーナメントの準決勝に勝ち上がったという事実を必死で飲み込もうとしていた。
(あと二勝すれば二億円……あと二勝すれば二億円……)
二億六千万円という大金があったら、何ができるだろう。凱は想像する。まず育ててくれた両親に美味しい酒を飲ませてやろう。あとおじいちゃんおばあちゃんに肩たたき券を大量発行してやろう。それから……
(……あとは貯金かな)
凱はそういう奴なのであった。
『さあ!!!! 二回戦もこの組でラストォ!!!! 最初に入場したのは〈ステルスドール〉
控室の大型テレビから音声が聞こえ、凱の視線は自然とそちらに行く。リングの右側では小柄な男が体をほぐすようにその場で小さく飛び跳ねている。左側では僧のような外見の男が数珠をその手で擦り合わせながら何事かを唱えている。
もしかしたら、あのふたりのどちらかとも戦うことになるかもしれない。仮に凱が準決勝を勝ち抜けたらの話だが。
『審判がくじを引く!! くじに書かれた試合形式は…………、うおっとぉ!?』
凱は「えっ?」と声を出していた。
リングに、三人目の男が降り立ったからだ。
謎の男は、左側の僧の方へ近寄ると、何かを言った。いや、凱にはテレビ越しでも聞こえた。『代われ』…………そう、確かに謎の男は、僧に『代われ』と言ったのだ。
そしてそれは、三秒の間に起きた。
反抗の意思を示し、謎の男を睨みつける僧。
ひどくゆっくりに見える動きで僧に手をかざす謎の男。
その手で放たれる、目にもとまらぬ掌打。
三秒後、僧はリングの外、会場の壁に叩きつけられ、失神していた。
『な……』
呆気にとられていた実況者が絶叫を再開する。
『なんとおお!!!! 乱入!!!!! 乱入だあああ!!!! 地下トーナメント史上、意外としょっちゅうある乱入!!!!! 審判の審査で通れば、この試合のカードは〈ステルスドール〉対乱入者ということになるぞおおおお!!!!!!』
あ、アリなんだそういうの。
凱がそう思った、次の瞬間。
謎の男が、テレビの前の凱を指さした。
『〈血飛沫悪鬼〉意地ヶ谷轟ッ!』
もちろん謎の男は自らを映すテレビカメラを指さしただけだ。しかしそれは、控室でテレビを見ているはずの意地ヶ谷轟への宣戦布告。
『オレを覚えているかァン? オレは
そして懐からナイフを取り出したかと思うと、錆びた刃をベロリと舌で舐めながら不気味に嗤った。
『臓物を引きずり出して樹海にでも打ち捨ててやるぜェン……!』
凱はこの瞬間、準決勝で負けてさっさとこの場から逃げようと決意した。
◇◇◇
『準決勝第一試合の始まりだあああああああああああ準備はいいかてめえらあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
『WAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』
『まずはお馴染み〈血飛沫悪鬼〉意地ヶ谷轟!!!!!!! そしてこいつと殺り合うのは!!!!! 前回大会王者〈嵐の少女〉
リングに上がった凱と対峙するのは、ポニーテールをした涼やかで小柄な女子大生だった。脚も腕も細く、あんな体で戦えるのかは疑問だったが、しかし前回大会の王者ということは異様な強さを誇るのだろう。
凱はとりあえず、ゴングが鳴ったら即やられたふりをする腹づもりでいた。準決勝まで上がって以降は棄権はできない(会場が盛り下がるから)というルールはあるが、即やられたふりならルールには一応抵触しない。みっともないし、兄の名を汚すことになるが、背に腹は代えられなかった。
『さあ審判がくじを引く!!! 試合形式は……『クイズバトル』!!!! クイズバトルが選ばれたあああああ!!!!!!!!』
あ、そういうのもあるのか。
凱がなんとなく拍子抜けしていると、リングの下から机がふたつせり上がってきた。その上には回転灯のついたボタンが置いてある。これで早押しクイズをしろというのだろう。
(……いや、待てよ)
凱はあることに気づいた。
(クイズって……やられたふりのしようがないんじゃね?)
『クイズバトルのルールを説明するぜ!!! 正解するたびに1ポイント加算され、不正解するたびに1ポイント減算される!!! 先に5ポイント取った方の勝ちとなるぜ!!!! そんじゃいこうか〈血飛沫悪鬼〉VS.〈嵐の少女〉!!!! クイズバトル、スタアアアアアトオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!』
リングの外の巨大スクリーンに問題文が表示される。
第一問
次の文は織田信長が詠んだとか詠んでないとか噂のあれです。
空欄を埋めなさい。
鳴かぬなら 殺してしまえ [ ]
(……は?)
凱は目を疑った。
(え? なにこれ? 簡単すぎねーか? ってか普通殺してしまえの部分を空欄にしない? いや間違えようがないだろこれ……)
『ピコーン!』隣で早押しボタンの音が鳴る。風包クルリが押したのだ。凱はこんなサービス問題なのに先を越されたため複雑な気分だが、それでもほくそ笑む。よし。これで敗北へと一歩近づく。クルリが澄んだ声で答えた。
「わかんない!」
「えっ?」
『不正解ィイ!!!! さあ次の問題だあ!!!!』
「えっ?」
第二問
なんか液体の酸性とアルカリ性を判別するための紙をなんという?
空欄を埋めよ。
[ ]試験紙
(いやいやいやいやなにこれ)
『ピコーン!』クルリが押し、自信満々で答える。「サッポロ一番!」
『残念ッ不正解!!!! クルリちゃんに再びマイナス1ポイント!! ちなみに持ち点がマイナス5ポイントに達すると負けになるから注意な!!!!!!!!』
凱は慌てた。なんだそれは。なんなんだこの子のアホさ加減は。このままでは勝ってしまう。そしてさっきの猟奇殺人者みたいなやべー奴にやべーことをされてしまう。
次こそは間違えなければ……!
凱は身構え、スクリーンを見た。
第三問
1+1=?
◇◇◇
凱とクルリのアホ合戦は熾烈を極めた。『あなたの名前は?』という問題に『ヌホホヒヒ』と答えた時は自分の中の大事な何かが砕け散ったような気がしたが、激しい死闘の末、凱は僅差で負けることに成功した。クルリのアホさは地下でも有名らしかったが、そのクルリと同レベルのアホが登場したことは大いに話題になったのであった。凱は泣いたのであった。
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