彼女欲しい
「彼女欲しい」
とあるぽん大生が呟いた。
隣を歩く彼の友達が呟き返す。
「頑張れ」
「投げやりだな」
「無理だと思ってるからな」
「ひでぇ奴だ」
「まあな。でも考えるまでもないだろ。おまえにも、俺にも、彼女はできない。なぜなら俺たちは」
腹からこぼれかけた腸を気にしつつ、天を仰ぐ。
「ゾンビと、スケルトンなのだから」
東京県、小金ゐ市。
夜も忙しないその街で、ゾンビのレーゾンデートルと、スケルトンのスカルフェイスがぽんぽこ大学からの帰り道を歩いていた。
「そもそもスカルは骸骨だけど、性欲あんの?」
「ない。チ○コがないからな。でも彼女は欲しい」
「わかるぜ。俺も好きな女子に噛みついて同族を増やしたい」
「おまえのそれは違うんじゃないか」
ゾンが、
「どっかに可愛くて清楚でエロくてお金持ちな女の子落ちてねえかなー」
「落ちてたとしても俺たちの彼女にはなってくれないだろうが、妄想は楽しいよな。あの子とかどうなんだよ? 裏サークルの。ヒーローやってる。ピンク担当の」
「
「わかる。下から見上げたい」
「わかるか。
「相棒よ」
ゾンとスカルが、ガシィィイッ! と握手する。
「じゃあゾン、ヒーローズ繋がりであの子はどうだ?
「青井さんなー。いつも凛とした表情で、授業も真面目に受けてるけど。いつだか、ずんちゃずんちゃ学の時に、ぽこどんが回転寿司やったことあったろ?」
「あったあった。オレは骸骨だから寿司食えなくて、腹いせにぽこどんの奴に変なLINE送りまくったよ」
「あの時、青井さんが笑い始めたじゃん? 隼人のアフロ状態の写真ツイートが五万リツイートされてるの見て、ツボってさ」
「あったあった」
「いつもキリっとしたあの青井さんがだぜ? あれを見た時はね、ギャップ萌えとかいうのをいっぺんに理解できたと思ったよ」
「なるほどなあ。わかる」
「わかるか戦友よ」
「相棒よ」
ガシィィイッ!
「じゃあスカル、アレは? ぽんぽこタイムズの人たち」
「あの新聞サークル、四人全員女子だしな。あの人たちの中だったら……うーん、
「えっマジで!? よんこちゃんはやめた方がいいぞ。俺あいつの幼馴染だからわかるんだ」
「うっわ、ゾン、おまえあの変わり者系美女と幼馴染なのかよ! ずるい! いや……ずるいですよ知り合いのゾンさん」
「戦友じゃなかったっけ?」
「日下先輩のどこがやめた方がいいってんだよおお。あんまり見た目に気を遣ってない節はあるけどすっぴんなのに可愛いだろうがよおお」
「だってあいつ、仲が良い人にいたずらするのが趣味なんだぜ。俺、あいつのせいで片目を紛失して一週間くらいそのまんまだったことある。あいつが爆竹で俺をびっくりさせて目を飛び出させてきてさ、飛び出した勢いでどっかいっちゃったんだよ。結局、一週間後に邪教の本尊の前に祀られてるの発見してこっそり回収した」
「すげえエピソードが飛び出したな。邪教って何だよ。というか日下先輩がダメなら、ゾン、おまえは誰がいいってんだよ」
スカルに問われたゾンは、防腐スプレーを体に吹き付けながら「そうだなー」と呟く。
「やっぱ、
「語尾にやたらと『ッス』をつけるあの子か。眼鏡の。そういえばゾン眼鏡女子好きだったな」
「好きだぜー。みかん剥き研究会のエース、
「その先輩は知らんが、きっと綺麗なんだろうな。ああそういやオレこの前、ゲーム愛好会の金髪色白ギャルちゃんが珍しく眼鏡かけてるとこ目撃したぜ」
「
「あー」
「なんだっけ、
「そうか。あんな可愛い子を侍らせておいて、本人はそれに興味がないと」
「うん」
「なるほど」
「…………」
「…………」
道は橋の上に差し掛かっていた。
ゾンとスカルは立ち止まる。
欄干に腕を突き、川底に向けて叫んだ。
「「死ねええええ!!!!!!!!!」」
「わっ!? ふたりともどうしたの!?」
少年ボイスが聞こえてきて振り向けば、そこには手のひらサイズの妖精がいた。シャラシャラと粒子のようなものをきらめかせながら浮遊し、驚いたような、ドン引きしているような、そんな表情で見ている。
彼の名はウィロー。ゾンとスカルにとってはサッカー部の先輩である。
「オ゛アア……ウィロー先輩か。なんでもないっすよ。ちょっと暗殺者だった頃の前世の記憶が一瞬よみがえっただけで」
「オレは死ねなんて言ったつもりはないです。そもそもオレには舌がないから喋れない」
「スケルトンギャグはもういいよ……。で、なに話してたの? 可愛い子がどうのとか聞こえたけど」
「ああ、スカルが彼女欲しいって言いだしてさ」
「彼女欲しい~」
「そうなんだ……。でもきみ、骸骨だよね……」
「スカルは骸骨だけど、それでも欲しいらしいっす」
「かつて告白した女子に『や、体が骸骨な人は無理』と軽く流されたトラウマを持つオレだが、それでも彼女は欲しいんすよね」
「ふうん。ってことは、もしかしてあの子狙ってたり?」
ゾンとスカルが「あの子?」と声を揃える。
ウィローは「あの子だよぉ」と言って宇宙から来た新人部員の名を口にした。
「ラヴちゃん」
「えぇー」「うーん」
「なんで? ラヴちゃん可愛いじゃん」
「いや……そういう対象にならなくないっすか? あの子、肩書は大学生ではあるけど年齢的にはまだ幼いお姫様なんでしょ?」
「
「手厳しいなあ……やっぱりきみたちは、ゆーちゃんみたいな包容力あるお姉さんが好みなのかな?」
「ゆー?」「ちゃん?」
息を合わせて疑問符を浮かべるゾンとスカルに、ウィローは「あれ?」と小首を傾げる。
「ああそっか、ふたりは知らないのか。ぼくね、ゆーちゃんこと、桃谷夕乃さんとお付き合いをしております」
「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛!゛」
「まずい! ゾンが嫉妬のあまり理性を失いかけている!」
「嘘でしょ!? ご、ごめん!?」
「あ、大丈夫っす。俺、ファッションゾンビなんで。滅多なことじゃ理性失いませんから」
「スッと真顔になった……。ファッションゾンビて……今の叫びで腸がはみ出てるよ……」
「それにしてもウィロー先輩が桃谷さんと付き合ってるとは……。さすが、肉がある人は違いますね」
「うんうん、体が腐ってない人は違うわあ」
「レベルが高いのか低いのかわからない嫉妬をされてるなあ……。んー、お姉さんっていう感じの女の子がタイプなら、四年生の、
ゾンとスカルは「そうれいいん……」と呟いて少し考えた。
そしてすぐに噴き出した。
「え!? 何で噴くの!?」
「
「なにそれ!?」
「でもまあ、確かにあの先輩は麗しき美女だな。……実はオレ、けっこう前になるけど、あの方に告白しようとしたことがあって……」
「マジかよスカル! どうだった!?」
「いや、タイミング逃して告白できなかった」
「んだよつまんねーなー」「そうだよぉ、タイミングとか考えずガッといってみたらよかったのに~」
スカルは照れたように第二末節骨で頬骨をポリポリと掻く。「いや……うん……まあそうなんだけど」
「あれ? 待って、あそこにいるの奏鈴院先輩じゃない?」
ウィローが指さした方に、背筋を伸ばしてしゃなりしゃなりと帰路を歩く女子の後ろ姿が見えた。一度も染めたことのなさそうな長い黒髪が揺れている。
「マジか! よしスカル、いけ! 告れ!」
「はあ!?」
「行ってきなよスカルくん! いまがチャンスだよ!」
「ウィロー先輩まで!?」
「ククク……ゆくがいい、スカルフェイスよ」
「部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶることが趣味の暇人まで!?」
ゾンにグイグイと押され、遂には奏鈴院愛歌の近くまで来てしまうスカル。腹をくくった方がいいような気もしてきた。確かに、今でも彼女のフルートを吹く美しい姿は目に焼き付いている(スカルは眼球を持たないが)。睫毛が異様に伸びたといえど、端正な顔立ちの魅力はまだ健在だ。
いこう。
スカルは決意した。
告白、するぞ。
当たって砕けろだ……!
「あ、あのっ! 奏鈴院先輩っ!」
愛歌が振り向く。
風で帽子がふわりと脱げる。
極長睫毛で、可愛らしいモフモフの猫耳が生えた愛歌は、頬を赤らめながら言った。
「ニャ、ニャんですの?」
「「「更に尊厳を差し出してる!!!!」」」
◇◇◇
その後も愛歌は悪魔契約を追加しようとしたらしかったが、さすがに部員仲間に止められたのであった。そして愛歌にフラレたスカルは悪魔と契約して肉体を得る算段を立てていたが、そのままのおまえが格好いいぞと部員仲間に止められたのであった。
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