ぽんぽこイレブン ~撃沈! ラヴ敗北!~
【前回のあらすじ】
ヤバいサッカー部員とヤバい宇宙人がヤバ試合をやろうとしててヤバイ
◇◇◇
ニッポーオーニッポー星にあるオオオ・オーオオ王国の王子や姫たちは、帝王学を学ぶため、勉強漬けの日々を送らねばならない。
孤独だった。
友達などボール以外に必要ないと教育された。
サッカーの練習も、ひとりでやり続けていた。
退屈な日常。日に日に難しくなっていく授業…………しかしもちろん、休憩の時間は与えられる。娯楽として、指定の小説を読むことも推奨されていた。
その小説の中に、世界中でベストセラーとなった冒険小説があった。
オオオ語に翻訳されたその作品に、ラヴは熱中していた。仲間と共に洞窟を探検し、やがて伝説の大陸に足を踏み入れる。そこにはサッカーの文化がないため、主人公たちはサッカーの楽しさを伝え、住民たちと遊ぶのである。ラストシーンで空高く上がったボールが天の恒星の光にきらめき、主人公が仲間たちと笑いあっていた時、ラヴは、思った。
ボクも。
仲間が、欲しい――――――
◇◇◇
「ポンポコハローユーチューブ。どうも、ぽこどんです。今日はですね、ぽんぽこ大学サッカー部で珍しい試合をやるということで、その様子を生放送でお届けしたいとーぅぉもいまぁす!」
天然パーマの前髪で目が隠れがちな優男――――大学生YouTuber・ぽこどんが、助手田中のカメラの前で人懐っこく笑顔になる。
ここはぽんぽこ大学サッカーグラウンド脇の、急造の実況席。
ウォーミングアップを始める部員たちを眺めながら、ふたりの男が座っている。
「実況は僕ぽこどん! 解説は、部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶることが趣味の暇人さんにお任せしたいと思います!」
「ククク……」
「暇人さん、今回はどういう事情でこんな試合がおこなわれるんですか? 一対十一って、ヤバいですけど。僕はさっき連れてこられたんでイマイチわかってないんですよ」
「発端は、ラヴという少年めいた宇宙人ぽん大生だ。彼は部員たちの中にまともな選手がいなさそうなことに辟易し、サッカー部全員に挑戦状を叩きつけた。自分から一点でも奪ってみろ、とな。恐らく、相手に弱さを自覚させ、自分の優位性を確固たるものにするためだろう……」
「おお、さすがは普段から部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶっている暇人さん、わかりやすい解説です。でもラヴという名前の彼には勝ち目はあるんでしょうか? さすがに十一人相手だと簡単に一点とられてしまうのでは?」
黒衣の解説役は、ククク……と笑い声を漏らしながら鋭い視線でラヴを射抜いた。
「ラヴという少年めいたぽん大生は、地球から遠く離れたニッポーオーニッポー星の王子だと言っていた。かなりの手練れであることは間違いがないだろうな。なぜなら、サッカー文化が隆盛しているニッポーオーニッポー星に住まう人々は、全員が地球におけるプロサッカー選手以上のレベルでサッカーが上手い[要出典]からだ」
「Wiki見んな」
「別のサイトによると、
ニッポーオーニッポー星の住民はどれくらいサッカーが上手いのか
みなさん、気になりますよね?(*´▽`*)
そこで実際に調べてみた結果・・・・
なな、なんと(゚Д゚;)!
ペレ選手より上手い
という人もいる可能性がありそうです。
びっくりですよね(笑)
だそうだ」
「番組のスムーズな進行にご協力願います」
「まあとにかく、ラヴぽん大生は相当強いはずだ。十一人がかりだとしても、悪いが本学のサッカー部では太刀打ちすることは難しいだろう……」
「そうなんですか……。っと、始まりましたよ暇人さん。キックオフです! って…………」
ぽこどんは、衝撃的な光景を目にし、素で驚愕する。
「ちょっ、ああっ!? えぇぇーっ!?」
◇◇◇
「ラヴくん、本当にいいのか? いくらきみが自信があるといっても、俺たち十一人を相手にするなんて……」
「いいですから、早く始めましょう。それとも怖気づいたんですか?」
「……仕方がない。調子に乗る後輩を律するのも先輩たちの務めだ。おまえたち! 相手はひとりだが、大人げなく本気で行くぞ!」
「オウ!」
ぽんぽこ大学サッカーグラウンド。
ラヴVSサッカー部の戦いの火蓋が今、切って落とされる。
ラヴはゴール前にひとりで腕を組み仁王立ちしていた。それはつまり、ゴール前に誘い込んでから相手チームからボールを奪い、そのまま十一人抜きゴールを決めてやるという意思表示に他ならない。
舐めているわけではなかった。ラヴには、自分の強さ、ニッポーオーニッポー星の民の強さに対する、絶対的な信頼がある。サッカーのために進化してきたニッポーオーニッポー星人が、このような辺境の惑星の弱小サッカーチームになど負けるはずがない。
サッカー部チームのボールで、試合が始まる。
骸骨の姿をした、スカルフェイスという名の選手が「行くぜ!」とボールの前で助走をつけた。
シュートの体勢だった。
(……センターからのロングシュート!? ボクの方こそ舐められてる……!)
必ず止めてやる。
意気込んで、ラヴは集中力を高める。
スカルが叫んだ。
「食らえ!
シュートした。
山なりに飛ぶボール。
その上に、
スカルが飛び乗った。
「……は?」
呆気にとられるラヴ。
ボールと一緒に飛んでくるスカル。
ゴール前で、ボールの上に乗ったスカルが空中でシュートを撃つ。
シュートの方向が土壇場で変わり、威力も増したというのも相まって、ラヴはそれに反応できない。
ゴールへ今にも突き刺さろうかという、その瞬間――――――
(反応できない、じゃない。反応するんだ……!)
ラヴのニッポーオーニッポー星人としての本能が覚醒する。
素早くバックステップし、視覚でも聴覚でもない、五感のうちどれでもない感覚で、ボールの位置を
刹那。
ラヴの脚がボールを捉え、ゴールネットを揺らす前に打ち返していた。
――――ニッポーオーニッポー星人には、五感や内臓感覚や平衡感覚などをさす〝生理学的感覚〟のうち、『サッカー感覚』なるものが発達している。第六感などとも異なるれっきとした身体の感覚であるそれは、まだ彼らが猿だった時代から現在に至るまでサッカーに慣れ親しみ続けていたことにより確立されたものである。サッカーにまつわるあらゆる刺激を受容し脳へ伝えることが知られているが、詳しいメカニズムは未だ解明されていない。その謎が解き明かされるたびに応用方法が発見され、サッカーにおいて強くなれるということもあり、彼らニッポーオーニッポー星人は『サッカー感覚』についてこう思っている。「伸びしろですねぇ」と――――
「ボールが浮いたぞ! ヘッドで入れろ!」
キャプテン有翼・
させない。
ラヴは帯巻よりも高く跳び上がり、脚でボールをトラップして着地した。
ドリブルでフィールドを上がっていく。
「ク! ハヤイ! ナンテ ウゴキ ダ」旧式ロボット・テクノを抜く。
「ちぃっ! オレを抜いただと!?」骸骨・スカルを抜く。
「くっ! 全員で止めろ!」鳥人間・矢羽を抜く。
「オ゛アアッ! 速ぇ!」ゾンビ・レーゾンデートルを抜く。
「わわわっ、みんな頑張ってぇ!」森の妖精・ウィローをスルーする。
「ゲコォ!」巨大ガマガエル・
「…………」動かないスフィンクス像をスルーする。
「ぷるぷる……」わるくないスライム・ぷるすけを抜く。
「南無三!」千手観音の姿をした男・
そして。
「止める……! 止め亡ければ……!」
立ちはだかるゴールキーパー・幽霊の
ラヴは勝利への道筋を脳内に描いていた。
特有の〝サッカー感覚〟により全てがわかっていた。どこへシュートすれば入るのか。蹴る時の力加減、角度。相手の筋肉の隆起や重心移動をも分析し、瞬時にシュートコースを取捨選択する。
いける。
ラヴは確信した。
しかし――――
「!?」
驚きに息をのんだのは、サッカー部員たち全員と、実況席のぽこどんたちだった。
ラヴはボールを足先に挟むようにしてから跳躍し、空中で縦に一回転しながら霊太郎を飛び越し、背後に着地して――――
シュートを、撃たなかった。
「……実は」
ふてくされたように、ラヴは言う。
「最初の、スカルフェイス先輩のトンデモシュート……あれ本当は、ゴールラインを越えてたんです」
しん、としているグラウンドに、ラヴの少年声が響く。
「だから、もうボクは負けてるんです。プライドのためにここまで抜いてきたけど……見苦しいですよね、こんなの」
「……ラヴくん」
「ボクの負け。あなたがたの勝ちです。……き、基本は雑魚の集まりですからねあなたたちは。自覚してくださいよ!?」
サッカー部の面々は、互いに顔を見合わせ、頷き合った。
キャプテン有翼が代表して告げる。
「ラヴくん!」
「な、何ですか」
「入部は、してくれるっていうことだろう? きみ、めちゃくちゃ強いじゃないか! 凄腕プレイヤーは大歓迎だ! うちのエースとして、活躍していってくれ!」
ラヴは、あの冒険小説を思いだしていた。
緩みかける口元を誤魔化すように、「ふ、ふんっ!」とそっぽを向く。
「ま、まあ、そこまで言うなら、入部してあげなくも――――」
........ヮヮヮヮ
「ム?」
「どうしたテクノ」
「ナニカ 音 ガ シナイ カ?」
...........ヮヮヮヮヮヮ
「確かにするな。スカル、おまえはどうだ」
「オレには聞こえないぞ。耳がないからな」
「スケルトンギャグは今はいい」
....................ヮヮヮヮヮワワワワ
「ちょ、ちょっとみなさん、ボクの話を聞いてるんですか?」
「いや……それより、異音が気になって……しまってな……」
「幽ノ宮先輩まで……。でも、確かにこの音……聞き覚えが」
........................ミュワワワワワワワワ
ラヴと、サッカー部員たちと、実況席の面子は、空を見上げた。
UFOがいた。
円盤型のUFOは、浮遊しながらラヴの頭上で止まると。
スポットライトのような光でラヴを照らし、ラヴの体を吸い込んだ。
飛び去って行くUFO。
呆気に取られていたサッカー部員たちは――――ようやく事態を認識した。
「ラヴくーーーーーーん!!!!!!!」
◇◇◇
小さくミュワワと音が聞こえる。
ラヴがハッと意識を取り戻すと、そこはUFO内の寝室だった。ベッドに寝かされている。
慌てて窓に駆け寄った。
まだ宇宙空間ではない。成層圏に達してもいない。まだ地上の様子が見える。
つんのめりそうになりながらも、ラヴは寝室を出た。
操縦室はすぐだった。
「お早いお目覚めですな、姫様」
操縦席には、水色の肌をしたガタイのいい男。
彼はニッポーオーニッポー星はオオオ・オーオオ王国の近衛兵である。
「王が寂しがっておいでです。このままワープ航法で我が星へ戻りますぞ」
「……痕跡は、消したつもりだったのに」
「王宮は今、大騒ぎです。捜索隊があらゆる銀河へ派遣されました。それはこの天の川銀河も例外ではありません。見つけることができて、本当に良かった」
「嫌だ。ボクは地球に戻る。やっと……」
「姫様。あなたには国で果たさねばならぬ義務が」
「やっと! 仲間ができそうなんだっ!」
近衛は操縦席に座ったまま押し黙る。
ラヴが声を震わせながら叫び散らす。
「ずっと憧れてたんだもん! 一緒に励まし合って頑張って、何かすごいことを成し遂げる! そんな仲間が欲しかったんだもん! ニッポーオーニッポー星はサッカーの星でしょ!? だったらボクに仲間を教えてくれても良かったじゃん! それなのに、姫だからってボクだけ仲間外れ! つらかったよ! ずっとお城の窓からボクぐらいの子供たちがサッカーで遊んでいるのを見て! ボクだって、遊びたかった! お城を抜け出して、友達と、楽しく、サッカーを! だから――――」
ぎゅ、とラヴはハーフパンツの裾を握りしめる。
「だから逃げ出すしかなかった! ボクが、ボクの人生を、自分のものにするために! だから……それで……それから」
ラヴは大粒の涙を拭いもせずに、しかし、微笑むように頬を緩めた。
「それから……あの変な連中に、出会ったんだ。……ぽん大のサッカー部にはまともな奴はいないし、基本弱いし、男性しか入れないっていう点で遅れてるけど……そのせいで男を名乗らないといけなかったけど、でも。初めての試合は楽しかった。照れちゃって、酷いことも言ったけど……たのし……かったんだ……」
「……姫様」
「近衛。オオオ・オーオオ王国の姫として命じる」
鋭い目で、睨みつける。
「ボクを降ろせ」
「それは……できませぬ」
「だったら、自分で出ていくぞ」
「ッ!? 姫様!?」
操縦席の窓を見据え、助走をつけようとするラヴ。
もはや、蹴破るしかない。
近衛がUFOを自動操縦に切り替え、席を立ってラヴを止めようとした、その時だった。
窓の外に、翼を広げた鳥人間と、ジェット噴射で飛ぶロボットと、空中のボールを蹴ることで上に跳び上がり続けている骸骨が見えた。
「!? みなさん!?」
「助けに来たぞ! ラヴ!」
「イマ タスケテ ヤル」
「オレ、時々自分の体重の軽さが怖くなるぜ。こうして地上のみんなにボールを蹴り上げまくってもらって、それによりボールを足場にここまで来られるんだからなあ!」
なぜ。
どうして。
嬉しい反面、ラヴの胸中にはそんな思いが渦巻いていた。
ラヴにとって、自分を受け入れてくれそうな彼らは、いずれ仲間として協力し合えるかもしれないという点で既に大きな存在であった。彼らと一緒にサッカーをし、帰り道には仲良く和気藹々と談笑する、そんな仲間になってみたい。なれるかはわからないけれど、きっとなってみせる。そう思えた。
しかし、相手側としてはどうなのか。彼らはラヴの事情など何一つ知らない。ラヴが自由も友達もない生活をしていたことも、そしてそれらを欲していたことも。本当の性別さえ知らないはずなのだ。しかも極めつけには、無駄に高いプライドと照れのせいで、上から目線で酷いことを言ってしまっている。
なのに――――
「なのにどうして! ボクを助けようとしてくれるんですか!」
「仲間だからだ!」
甲高い音が響く。風が船内で吹き荒れる。
スカルの放った殺人シュートが、UFOの窓を破壊したのだ。
侵入する矢羽とテクノ。テクノが近衛を押さえつけ、矢羽が翼で優しくラヴを包む。
そしてそのまま、救出に来た三人はUFOから離れた。
落ちていく矢羽と、テクノと、スカルと、ラヴ。
ラヴは、あたたかい翼に包まれ、若干の獣臭さを感じながらも、わざと不機嫌な顔をする。
「さっきの、もう一回言ってください」
「ん? さっきの? 何だっけ」
「……なかま、だから、みたいな」
「すまん、風の音で聞こえない。もっと大きく」
「な、なんでもないですっ!」
地表に近づき、矢羽は滑空し、テクノはジェットを噴射し、スカルはそれにしがみつき、軟着陸する。
サッカー部員たちが口々に心配をしてきて、矢羽が勇ましく「大丈夫だ」と言っていたのが印象的だった。
次第にサッカー部員たちの間に笑顔が戻る中で、ラヴは勇気を振り絞り、「あ、あのっ!」と声を張る。
場の全員(すごい映像が撮れて大興奮のぽこどん一味も含む)が、ラヴを見る。
「あの……みなさん、ありがとう、ございました。改めて、その……入部、させてください」
王国から逃げてきた事実は変わらない。
いずれしっかりと、父親であるオオオ・オーオオ王には向き合わないといけない。
でも、だからこそ、今を妥協しないでいこうと思った。
「よろしくお願い……します」
和やかな空気が流れ、代表するように矢羽が言う。
「ああ、よろしくな、ラヴちゃん」
「はい、大空先輩、よろし――――」
(……あれ?)
「いやあ、それにしてもラヴちゃんがお姫様だったとはな~」
(え?)
「しかも窮屈な生活だったんだろ? これからは俺たちとサッカーやりまくろうや!
(え……ちょっ)
「暴言や……罵倒は……照れ、だったんだな……。故人的には……安心したよ……」
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして知ってるんですか!?」
ラヴの言葉に、テクノがウィーンガシャンと一歩進み出る。
そしてスパナみたいな手でラヴの腰のあたりを指した。
「UFO ニ ツレテイカレル トキ ニ ワタシ ガ コッソリ 発信機 兼 盗聴器 ヲ ツケタ」
ラヴが大きく息を吸い込む。
◇◇◇
「ん? なあホァン、今なんかすげー遠くから声が聞こえなかったか?」
「隼人、聞? 我、同聞。凄大声。罵声?」
「うん、なんか罵声って感じだった。『ばかぁーーーーー!!!』みたいな。……まあ、なんというか」
「平和?」
「そ。平和な感じがするよ、なんとなく」
「平和、滅茶好。平和、最高」
「だなぁ……」
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