ぽんぽこイレブン ~おーにぃっぽーにぃっぽー~

 太陽系第三惑星・地球からおよそ二億六千万光年離れた宇宙空間に、その星はある。

 ニッポーオーニッポー星。

 地球でいう、サッカーに似た競技が盛んにおこなわれている惑星である。


 国家間紛争をサッカーで解決するなど、サッカーが世界の行く末を決めるほどにサッカー文化が繁栄しているそこには、肌が水色である他にはほぼ地球人と同じ姿形の人々が住んでいる。彼らはサッカーが好きすぎるため、他の星にも似たスポーツがあればそこへ訪問して一緒にサッカーを楽しむというのが一般人の中で流行していた。


 しかし、ニッポーオーニッポー星の民の中でも支配階級の者は、政治に追われ、なかなか他の星へ遊びに行くということができない。

 そういった層の特に子供は、城での退屈な勉強漬けの日々に嫌気が差している者ばかりである。

 彼らは夢見ていた。

 異種族と楽しくサッカーをするという、かけがえのない体験を。


 そして、ある日。

 ニッポーオーニッポー星にあるオオオ・オーオオ王国のとある航宙基地から、一隻の小型宇宙船が、消えていた――――――




     ◇◇◇




「と、いうわけで、今日からオレたちと一緒に練習する期待の新人を紹介するぞ。ラヴくんだ」

「よろしくです」

「はい拍手!」


 まばらな拍手が、ぽんぽこ大学サッカー部のグラウンドに響いた。


 緑の芝生、青い空。ユニフォームと肌を撫でる優しいそよ風。絶好のサッカー日和の中、サッカー部員の集まりは悪かった。監督と新人を除けば四人しか来ていない。


「悪いなラヴくん。今日はサッカー日和だが、お昼寝日和でもある。どっかで寝ているメンツもいるだろうな」

 キャプテンの男が苦笑する。

「だが、大学での講義を優先している奴もいるから、そこは大目に見てほしい。大会前になると全員集まることも増えるから大丈夫だ。そもそも練習は土日がメインだしな」


 面倒見の良さそうな彼の名は、大空おおぞら矢羽やばね。鳥が人型になったような姿のいわゆる鳥人間であり、キャプテン有翼とも呼ばれている。焦げ茶色の強靭な翼が自慢だが、試合では飛行は禁止されているので毎回残念がっている四年生だ。


 ラヴと呼ばれた、少年のような風貌の水色の肌をしたぽん大生は、黙っている。


「さあ、では自己紹介をしていこう。じゃあまず、スカルから」


 キャプテンに言われて、長身の男が一歩進み出る。

 彼は骸骨の姿をしていた。


「オレがスカルフェイスだ。見ての通り、スケルトンだ。身長百九十五センチ、体重は十二キロ。好きな食べ物はそうめんだ。のどごしがたまらん。ほぼ素通りしていくけどな」


 スカルフェイスはスケルトンならではのギャグを言い、顎と歯を鳴らしてカツカツカツカツと笑った。

 ラヴは黙っている。


「次、霊太郎」

「俺か……」


 次の男は白装束を着て周囲に人魂を浮かばせ、長髪に顔を隠していた。


「俺は……幽ノ宮かすかのみや霊太郎れいたろう……。見ての通り、幽霊だ……。キーパーをやっている……。個人的に……いや、故人的には……サッカーは最高のスポーツだと……思っている……。足が亡いから、ボールは蹴れ亡いが……」


 霊太郎は幽霊あるあるを言い、メンバーの笑いを誘った。

 ラヴは黙っている。


 さっきから押し黙ったままの彼に、キャプテンは困ったように笑った。


「緊張しているのかな。まあ無理もない。徐々に慣れていこう。じゃあ次、テクノ」

「ピピ……ガガ……」


 次の男は、四角い頭に関節のない腕をして、カクカクした動きをする、古臭いロボットだった。


「ガピピ。ワタシ ノ ナマエ ハ テクノロジクス・イノベイション。ミテノ トオリ ロボット ダ。内蔵 ノ スーパーコンピュータ ニ ヨリ 四桁 ノ 計算 ガ デキルゾ」


 テクノはあんまり凄くないことをさも凄いことのように言い、メンバーの照れ笑いを誘った。

 ラヴは、なぜか震えながら、黙っている。


「OK。じゃあ次は……蝦蟇がま、いってみるか」

「ゲコ」


 次は二メートルの巨大なガマガエルだった。

 ラヴが大きく息を吸い込む。




     ◇◇◇




「ん? なあホァン、今なんかすげー遠くから声が聞こえなかったか?」

「隼人、聞? 我、同聞。凄大声。突込?」

「そうだな。ツッコミみたいな感じだった。『なんでカエルなんだよ!』って聞こえたけど……まあ、助けを呼んでるわけでもなし、ヒーローズの出番ではないだろうな」

「同意。優先順位、講義高。早急講義行必要」

「あ、講義まであと二分しかないな。行こう、ホァン」

「走!」




     ◇◇◇




 ビリビリとサッカー部員たちの鼓膜を震わす大音声だいおんじょう

 それが過ぎ去った後、声の主であるラヴは、ボーイソプラノのような幼い声で尚もまくしたてた。


「なんでカエルがいるんだよ! カエルにサッカーできるのかよ! そもそも鳥人間とかスケルトンとか幽霊とかロボットって何!? 異種族が集まりすぎでしょこのチーム!」

「ラヴくんどうしたんだ。落ち着け」

「これが落ち着いていられますか! こんな人たちにサッカーできるんですか!? 幽霊さんに至ってはボール蹴れないって! バカですか!」

「ラヴくん。確かに俺たちは弱小サッカー部ではあるが、練習は頑張っているつもりだ。全員が人外ゆえのハンデを抱えていて、だからこそ、上を目指している」

「全員が人外!?」

「ようキャプテン。練習に遅れてすまない」


 現れたのはミイラ男。


「ミイラ男!?」

「おや、そこにいるのは新入りかな。初めまして。僕は帯巻おびまき赤目あかめ。フォワードを任されることが多い」

「オ゛アアア……キャプテン……今日も来てやったぞ……」


 現れたのはゾンビ。


「目が腐り落ちてる!」

「おっと失敬……嵌め直して、っと。新顔じゃないか。俺はレーゾンデートル。ゾンと呼んでくれや! !」

「ごっめーん、遅れちゃった。人間の友達と学食行ったら雑談が長引いちゃって……」


 現れたのは森の妖精。


「手のひらサイズ!」

「あっ! もしかして新人さん? わあ~、嬉しいなあ! 初めまして、ぼくはメルヘンフォレストに住む妖精・ウィロー! ボールは蹴れないけど、魔法でみんなを応援するのが得意なんだ! よろしくねっ!」

「ぷるぷる」


 現れたのはスライム。


「なかまになりたそうな目でこちらを見るな!」

「ぼくはわるいスライムじゃないよ。ぷるすけ、っていうなまえだよ」

「…………」


 現れたのはスフィンクス像。


「石像!」

「…………(石像なので喋れない)」

「南無阿弥陀仏」


 現れたのは千手観音菩薩のような姿をした腕がいっぱいある男。


「あんたがキーパーやれよ!」

「般若波羅蜜多」

「ククク……遂にぽん大サッカーチームが揃ったか……」


 現れたのは黒衣の男。


「誰だ!」

「オレは部外者にも関わらず知ったような口を利いて解説役ぶることが趣味の暇人……」


 黒衣の男はそれだけ言うと、ククク……と笑いながら大剣をきらめかせ去っていった。ラヴは無視をしてサッカー部員たちに向き直る。


「……大空先輩。メンバーはこれで全員ですか」

「まあ、普段のスタメンはだいたい集まったが」

「ボクはこんなサッカー部、認めません」


 ラヴはサッカープレイヤーとしての意地をオーラのように立ち昇らせて、言い放った。


「ボクがそっちのゴール側。あなたがた全員があっちのゴール側。一対十一で、試合をやりましょう。ボクから一点でも奪えたら入部してあげます。そうしたら、確実にこのボクが――――ニッポーオーニッポー星の最強の王子たるこのボクが! 全国へ連れていってあげますよ!」


 ラヴは得意げに息を吐き、「最強宇宙人のボクから一点奪るなんて、あなたがたが束になっても無理でしょうけどね!」と見下し顔で笑った。

 メンバーたちは、(いやおまえも人外なんじゃん)と思った。






【ぽんぽこイレブン ~撃沈! ラヴ敗北!~ へ続く】

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