ぽんぽこタイムズ 号外編
「号外を出したい」
ぽんぽこ大学で新聞を勝手に刊行しているサークル〝ぽんぽこタイムズ〟のメンバーの女子が言った。
オタサーの爆弾姫あるいはサークルクラッシャーがサークル棟を爆破してから数十分が経っていた。ぽん大にはサークル棟はふたつあり、爆破されたのは第一サークル棟である。ぽんぽこタイムズの部室のある第二サークル棟は、とりあえず今日は無事だった。
彼女の言葉に、部室内の記者たち三人が振り返る。
「号外ったって……そんな突然の衝撃的大ニュースなんて今ないッスよ」
ローテンション気味の眼鏡女子・
「号外とかつまんないにゃ~。だって号外って、
なんかバカみたいな口調の髪ボサボサ女子・
「……………………」
冷ややかな目をする小柄な無口女子・
「ええー、そんなこと言ってみんな本当は出したいんだろう号外。いいじゃないか号外。なんか、あれを配ってるとお祭り感が出るだろう? 号外って響きもカッコ良いし。私号外大好き」
「まあ確かにあれはいいッスけど……。今は必要もないじゃないッスか」
「朕の四コマオンリー号外なら考えるにゃ~」
「……………………」
三人からダメ出しを受けた彼女は、フッと笑った。
そしてデスクの椅子から立ち上がると、流れるような動きで床に寝転がる。
仰向けになり、腕を広げ、大きく息を吸い込んだ。
「や゛だ゛や゛だ゛や゛だ゛や゛だ゛や゛だ゛や゛だ゛!゛!゛!゛!゛ 号外出すのオ゛!゛!゛!゛!゛ ごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいごうがいご」
この、ジタバタ駄々をこねてドン引かれている女子こそが、ぽんぽこタイムズ編集長、
四回ほど留年をしているためサークル最年長である彼女は、モラトリアム期間を延ばしに延ばし、親から白い目で見られながらも、あまりそういったことは気にせず自由奔放に大学生活を送っている。しかしながら編集長としての技術はまさに辣腕。斬新な発想力や、学生とは思えぬ判断力、記者たちをなんだかんだでまとめ上げる人望的な何かにより、ぽんぽこタイムズの発行部数や評判をぐんぐんと高めていた。
「あーもう、わかったッス、わかったッスから」
みみかが醜態を晒すかたりをなだめる。こういった役回りをするのはいつも苦労性のみみかである。
「作りましょう号外。でも、ニュースがあれば、ッスからね?」
「本当かい!? いや~ありがとうみみちゃん。それでは、早速ニュースのネタを探しに行こうじゃないか!」
「朕はパスにゃ」
「…………パス……」
「えぇぇー、行こうよー。それか、しろちゃんの〝千里眼〟の異能力で何か見つけてくれるかい?」
「…………やだ……」
「そんな~」
かたりはデスクに戻り、溜息をつく。
「じゃあ、なんか最近の出来事で号外書けるようなこと思い出してみるしかないね。みみちゃんの〝地獄耳〟の異能は今は使えないんだろう?」
「そうッスね。サークル棟の爆発の音で耳がキーンってなっちゃって。面目ないッス」
「ううん、いつもありがとうね。そうだ、音といえば! 今日、吹奏楽部の演奏会があるんじゃなかったかい? そのこと書けないかな?」
「吹部の演奏会って別に大ニュースじゃないッスよ」
「そうかあ……そうだよねえ……」
ふたりが悩んでいる間。
遠くズンドコ広場で催されている吹奏楽部演奏会では、全楽章が無音のまま終わることで有名な現代音楽『4分33秒』だけを演奏しており、練習が間に合わなかったなら演奏会開くなやなどとツッコミを受けていたのだが、そんな前代未聞のニュースは千里眼を持つしろしか知らないのであった。
「ああそうだ、じゃあアレはどうかな?
「みかん剥き研究会のことッスか?」
「そうそう! あの謎の団体、確かみかん剥きの全国大会で六連覇を成し遂げたんじゃなかったかい? そのこと書けないかな?」
「全国優勝したのはけっこう前ッスし、号外にするにはネタの鮮度がちょっと……」
「そうか……まあそうかあ……」
悩んでいる間。
第二サークル棟のみかん剥き研究会では、みかんの皮をチベット密教の曼荼羅の形に剥くという意味不明なことをやっており、これは世界初の偉業だったのだが、そんな空前絶後のニュースは千里眼を持つしろしか知らないのであった。
「そんじゃ、あれなんかどうかにゃ~?」
「よんちゃん。言ってみ?」
「ぽん大サッカー部のグラウンドにUFOが飛来してエースのフォワードをミュワワワワみたいな音を立てて連れ去っていったっていう話を捏造するのにゃ」
「却下」
却下している間。
ぽん大サッカー部のグラウンドにはUFOが飛来していてエースのフォワードをミュワワワワみたいな音を立てて連れ去っていったのだが、そんな奇妙奇天烈なニュースは千里眼を持つしろしか知らないのであった。
かたりが深く溜息をついて、物憂げに窓の外に目をやる。
「はぁ……まあ、ニュースがないなら仕方がない。号外はまた今度ということに――――」
言いかけたその時。
床がびしりと割れて、直後、崩落音とともに大穴が開いた。
直径二メートル程の穴だった。開くと同時にその上にあった棚が地の底へと落ちていく。ここはサークル棟一階。下には何もないはずである。しかしそこから這い出てくるのは、ドリルを担いだサングラスの男。熊のような体格をしたそいつはギュインギュインと音を立てながら部屋の中を見回すと、ガッハッハと笑ってドリルを止めて床にガツンと突き立てた。
野太い声で威圧する。
「俺様は〝ぽん大アンダーグラウンド〟の王、
◇◇◇
「ごうが~い。号外で~ッス」
「おっ、号外だ。もらおー」
「はいはい号外だよ~! ぽんぽこタイムズの号外! どんどん持ってって~!」
「ん、なんだこれ。〝衝撃! ぽん大アンダーグラウンドの恐怖〟? おいおい読坂先輩、これマジなのか?」
「大マジさあ緑川くん後輩! 独占取材だよ! 読んでってくれ!」
「独占取材? 大学地下王様? 呵呵呵! 滅茶面白! 一枚頂戴!」
「ホァンくん後輩も、はいどうぞ。ごうが~い! 号外だよ~!」
「なあホァン。これどう思う? ヒーローズ出動案件がまた増えたんじゃないか?」
「嗚呼~。可能性有。但、此項目参照」
「ん? ここか? どれどれ。『地下王を自称する穴熊氏は、ぽんぽこ大学のスターリースカイ・スカッシュメタル・リリカルサファイア学長と相撲での決着を望んでいる』…………なんか……平和だな……」
「呵呵呵呵! 平和一番! 我々〝英雄達〟活動無、其一番!」
「まあ、そうだな。読坂先輩も久々に会ったけど、元気そうで良かった。あの人号外好きだよなあ。……でもさ、ホァン」
「何?」
「うちの学長ってさ……」
「……嗚呼」
緑川隼人は口を開き、ホァンは出てくる言葉を察して、苦笑いをした。
「学長って……幼女、だったよな……」
「相撲、可能……?」
「わからん……」
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