封印されしエクゾディ子
ぽんぽこ大学、七号館。
学生らが自由にくつろげるフリースペースで、ふたりの大学生が机を挟んで向かい合っていた。
そのうちのひとりである、髪がツンツンした鷹のような目つきのぽん大生・
「※いま爆発音が聞こえたな。またあの爆弾魔か」
「きゃはっ☆ もう最近多すぎてアレだよねー、ふうぶつし? ってやつ」
やたらと軽薄な口調で返すのは、金髪サイドテールで色白なギャルめいたぽん大生・
「※風物詩とは少し違ぇ気がするが」
「そおなのー? まーなんでもいーや」
「※おまえは頭空っぽで楽しそうだよな。んじゃ、ま、デュエルを続けるぜ。再度召喚した〝シャドウ・ダイバー〟でダイレクトアタック」
「ざーんねーん。〝ガード・ブロック〟で防御だよっ☆」
机の上のカードをめくったり動かしたりして、ふたりは一喜一憂した。
彼らは〝ぽん大ゲーム愛好会〟の一員である。じゃんけん、しりとり、遊戯王、トランプ、UNO、将棋や囲碁やモノポリー、スマブラストファイギルティギア、初代ドラクエからPUBGまで、ありとあらゆるゲームを楽しむサークルなのだが、最近はサークル棟が物騒だからと、部屋に近づかないようにしている。
そのせいでテレビゲームはできないとはいえ、カードゲームなら比較的どこでもできる。今日はここ七号館フリースペースで遊戯王OCGに興じていたのだった。
「※チッ、負けたか。考えてねー癖につえーんだよおまえ。だが次はそうもいかないぜ」
「あれっ? ケイくんのデッキってー、ガチで戦えるものといえば四種類だけで、今回は今の【デュアル】デッキがラストじゃなかったっけ?」
「※今日からの俺は一味違うってこった」
景介が新しくカードの束を取り出し、シャッフルし始める。
ミカはそれを見ると「きゃふふっ☆」と笑って、自分も新たなカードの束をカバンから出した。
「※おまえも新デッキ組んできたのか! これは熱いデュエルになりそうじゃねーか」
「おたがい知らないデッキで戦うのって、初対面の時以来だよねー。なんか、いーね、こーゆーの」
そう言いながらふたりは
それぞれ自分の引いたカードを見る。
ふたりは、
絶句した。
それから突然笑い声を上げ、ふたりで同時に手札を机に叩きつけ、叫ぶ。
「「初手エクゾディア!! はい勝ち!!」」
◇◇◇
説明しよう。
初手エクゾディアとは。
全部手札に揃えるとそのデュエルに勝利できる特殊な5種類のカード〝封印されしエクゾディア〟〝封印されし者の右腕〟〝封印されし者の左腕〟〝封印されし者の右足〟〝封印されし者の左足〟が初手で揃う現象のことであり。
デッキが四十枚で構成されている場合、その現象が起こる確率は658008分の1であり。
両プレイヤーが互いに初手エクゾディアを揃えて引き分けになる確率は。
4329億7452万8064分の1である。
◇◇◇
「※嘘だろ……」
「ひゃーーー!!!! やばいやばいマジやばい!!!」
景介が口をあんぐり開け、ミカがスマホで写真を撮りまくってSNSにアップしまくっている。
ふたりの視線の先には、机の上の全部揃ったエクゾディアパーツ、合計10枚。
やがて景介とミカは顔を見合わせた。
「ねえねえねえねえすごくない!?!? ねえ見て! ふたりともエクゾディア揃っちゃった!!!!」
「※いやそれは見えてる。見えてっから。カードを目に押し付けんな痛ぇ」
「やばい!! マジでパない!!! マジ卍すぎでしょ!!!!!!」
「※あーはいはい、いいからぴょんぴょん飛び跳ねんな。周りの奴ら見てんだろ」
体全体で興奮をあらわにするミカ。一方で冷静を装ったふうな景介だったが、実際はただ現実味がなく内心で呆然としているだけであった。こんなことがありうるのか。もしや自分たちは、全宇宙で最初で最後の初手エクゾディアで引き分けた選ばれし者なのではないか。
そう思っていると。
突然、エクゾディアのカードが光を発し始めた。
「※なんだ!?」「きゃひぇっ!?」
まばゆい光に目を瞑り、そして開くと、そこには何かがいた。
カードの上でふわふわと浮遊する、手のひらサイズの人型の何か。
景介には何なのかさっぱりわからなかったが、ミカは即わかったらしく、叫んだ。
「わああっ☆ 妖精さんだー☆」
「※いやそれはないだろさすがに」
「その通り。わたしは妖精さ」
妖精であった。
「ほら妖精さんじゃーん!!」
「※えっマジで?」
「そこの金ぴかギャルは察しがいいじゃないか。優秀だな。でもツンツン頭の方は……ゴキボールって感じだな」
「※聞き捨てならねぇ罵倒を聞いた気がすんだが」
「人間性がゴキボールって感じだな」
「※潰すぞオラ」
「妖精さん妖精さん! もしかしてー、エクゾディアの妖精?」
「金ギャルは本当に察しがいい」
妖精は胸に手を当てて名乗りを上げる。
「わたしはエクゾディアの妖精、エクゾディ子。4329億7452万8064分の1の瞬間を勝ち取った選ばれし者たるきみたちふたりの願いを、ひとつ、叶えてあげよう」
景介はすごい胡散臭いものを見る目をしたが、ミカはものすごいはしゃいでいる。万歳しながら飛び跳ねて、景介にハイタッチを求めた。景介は無視して妖精に訊ねる。
「※願いをひとつ叶えるっつったな? それはマジなのかよ?」
「大マジさ。このエクゾディ子ちゃんに、どーんと任せてくれるといい」
「※ミカ、なんかあるか?」
「ん~~~…………」
ミカは人差し指を顎のあたりに添えて考えるそぶりをする。
「どーしよっかなー? やっぱりー、ケイくんも嬉しくなることがいいよねー」
「※優しいなおまえ……」
「きゃは☆ そおでしょー☆ あっ、そうだ! じゃーあー、ミカやさしいから、世界平和を願っちゃう!」
きゃるん☆ という効果音が出そうなあざといポーズとともに願いを言うミカ。しかしエクゾディ子ちゃんは首を横に振る。
「言い忘れてた。わたしはエクゾディアに関する願い事しか叶えられない」
「※エクゾディアに関する願いって何だよ」
「例えば……エクゾディアのカードで風呂の湯船を満たしてエクゾ風呂とか」
「※全く魅力を感じねえ」
「右腕とか左足とかの、バラバラになったエクゾディアパーツを揃えるパズルをプレゼントとか」
「えぇ~~~、世界平和がいい~~~~」
「手から無限にエグゾディアカードを出せる能力があれば、なんか、カッティングマットとかに使えて便利」
「※それエクゾの妖精的に言っていい言葉か?」
「うーむ……」
エクゾディ子ちゃんが腕を組んで唸る。
「あとエクゾディアに関する願いといえば……そうだ、無限の攻撃力を手に入れさせることができるぞ」
「※無限の!?」「こうげきりょく!?」
「ああ。エクゾは攻撃力∞だからね。怒りの業火エクゾード・フレイムが使えるようになり、すべてを焼き払えるぞ。自分自身がエクゾディアになるということだな」
「それすごい! おもしろそう!! じゃあそれがいい!!」
「※いいのかよ! けどまあ、それが一番マシかもな……」
「OK、では願いを叶えよう。ちなみに四肢がもげるけど覚悟はいいかい?」
「※まあエクゾになるってことはそういうこったろうな!!」
結局、その願い事もやめておくことになった。しょんぼりとするエクゾディ子ちゃん。
「せっかく初手エクゾで引き分けるやばい奴らが現れてくれたのに……わたしはなんにもできずに去るしかないのか……」
「ごめんね~エクゾディ子ちゃん。え! てゆーかエクゾディ子ちゃん、もういなくなっちゃうの!?」
「わたしは本来ならこうして人間界に来ることはできないんだ。こういった特殊なケースなら一時的に滞在できるのだが、早めにカード界へ戻らないと怒られてしまう。
「閃刀姫! つよいカードのやつじゃん! あのカードにも妖精さんがいるんだね! あれを使ったデッキ、いま大会で優勝しまくってるよね~」
「そうなんだよ……あいつら現環境で猛威を振るってるからって大先輩への敬意ってモンがなくてさぁ……なにが閃刀姫だよ、名前ダセーんだよ……っあ、まさかきみら閃刀姫デッキ持ってないよね今?」
「※いま俺持ってるけど」
「閃刀姫は本当素晴らしいカードですよね。強いこともそうですが、なによりイラストが美しい。名前も非常に格好いいと思います。末永く人気カテゴリであり続けてほしいですね」
景介はいろいろと察して黙った。カードの妖精界にも上下関係やら何やら面倒なことがあるらしい。エクゾディ子ちゃんのことが可哀想になってきたし、景介はそろそろ別れを告げようと口を開きかけた。
それよりも先にミカが言った。
「ひぇ? エクゾディ子ちゃん、さっきまで閃刀姫のことバカにしてたじゃん」
「※蒸し返すな!!」
「あっすみませんすぐ戻ります申し訳ありません、え、罰として今後五年間エクゾディアデッキのサポートカード無し? ひええそれだけはどうかご勘弁を、はい、はい、すぐ戻りますんではい。……そ、それではふたりとも。エクゾに関する願いをひとつだけ叶える権利はまだ消えていないから、もし願いを思いついたらエクゾのカードを持ってわたしを呼ぶといい。繁忙期でなければすぐに対応できると思うよ」
「※カードの妖精にも繁忙期とかあんだな……。じゃあな、エクゾディ子。また呼ぶかはわかんねーが」
「帰っちゃうのかぁー、さみしーなー。でも、また会えるんだよねっ! またねエクゾディ子ちゃん! ばいばーい☆」
エクゾディ子ちゃんは微笑むと、再びまばゆい光に包まれて、光の粒子のようになって消えていった。
景介は今になってようやく自分たちが椅子から立ったままだったことを思い出す。「※やれやれ」と言いながら座ると、ミカも目の前で「きゃふふっ☆ あー、たのしかったぁー!」と腰を下ろした。
机の上に散らばったカードをまとめていく。
さっきは一瞬で引き分けになってしまったから、ちゃんとデュエルをしようというのだ。
仕切り直しをしようという提案があったわけではないが、景介もミカもアイコンタクトで通じ合い、もう一度手札を引く。
「あー、今度は全然だぁー」
「※そりゃさすがにな……あ、
ふたりのところへ現れたのは、垂れ目がいつも優しげに細められているぽっちゃり系のぽん大生、
「通りかかっただけですぞ~。いやはや、今日もふたりは楽しそうですな~♨」
「きゃはっ☆ たのしーよ! ケイくんといると、人生とかがたのしー!」
「※人生とはまた壮大だなオイ」
「ふむふむ。やはり、ふたりはお付き合いをしているのですかな~?♨」
何気ない湯泉の質問。
景介とミカは顔を見合わせる。
景介は相手とよっぽど仲良くないと友達認定せず、恋人関係は更に基準が厳しいタイプであり。
ミカは友達こそ桁外れに多いが、心のどこかで夢見がちなので恋人関係となるとハードルがグンと上がるタイプである。
ふたりはお互い笑顔になって、声を揃えた。
「「※付き合っ……ては、ないかな~☆」」
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