【想いのその先に】 第八部
「しかし、安心してくれ。私も精一杯尽力する。だから、一週間後、申し訳ないがもう一度来て欲しい」
「わかりました」
「では、次に良い方の話だが」
「はい」
「今回起こった事件なのだが、先にも述べたように原因がわからないんだ」
「は、はぁ……?」
俺は先生の言うことが理解できなかった。なぜなら、さっきと言っていることがほんとど一緒だし、もっと言えば、さっきの言葉を後押しするような言葉なのだから。
「えっと、原因が分からないからいいんですか?」
「おっと。少し言葉足らずだったな。気を害することを言ったかもしれんな。すまない」
「い、いえ。それで原因のわからない何がいいことなのでしょうか?」
「これは私個人の趣向なのかもしれないが、それでも科学者、いや何かを探求する者にとって誰にでも言えると思うが、未知っていうのは素晴らしいことなんだよ」
道端先生は先ほどとはうって変わって話す速度をあげ、見るからに興奮していた。
「私たちの世界において世界の方式は簡単にいうなら1+1=2のような世界なんだ。つまり、過程や方式さえわかればわからないことはないんだ。だから逆に言えば最初から答えが決まっているんだ。それが私はあまり好きではないんだ」
先生はふっと微笑む。
「だが、今回の件は本当にわからないんだ」
「先生、やっぱり僕にはそれがいいことには聞こえないんですが……」
「そうだな。なら言い換えるとこうだな」
先生は俺の胸に自分の腕を突きつける。
「ユメちゃんには人の心があるのかもしれない」
「ユメに人の心ですか……?」
「そうだ。あくまで現時点での私の仮説だが」
先生の言うことは近年のアンドロイドの質の向上に比べれば普通になっているかもしれないが、やはり人間とアンドロイドには超えられない壁があった。
人は自分の欲を理性で止める。しかし、それは良くも悪くも越えることがある。それが人間の良いところであり、罪なところである。それがアンドロイドには絶対にない。なぜならそう言う風にプログラムされているからだ。人間でいう理性をアンドロイドは超えない。だから、人間の激情もなければ、あきらめや、好きも嫌いもない。いいことなのかもしれないが、俺はそれがあまり好きでなかった。
「ユメちゃんはアンドロイドの常識を変えるかもしれない」
先生にとってのアンドロイドの常識と僕たち一般人にとっての常識は違うだろう。でも、確かに何かが変わる。
「いいことっていうからには、いい方向に変わるんですよね?」
「あぁ。アンドロイドは変わる」
先生の言う変化がどういうものかははっきりとわからない。それでも何かが変わる。それをしれただけでも十分であろう。
「さ、僕から話すことは以上だが、なにかあるかね叶汰君」
「いえ、特にありません」
「それでは、また一週間後」
「わかりました」
部屋の出入り口であるドアの元へと近づき、先生の方に振り返る。そして、頭を下げる。
「ユメをお願いします」
「最善を尽くす」
ここで不用意に分かったとか任せなさいとかをいつものように言わないのは道端先生の現状のことを指しているのだろうか。ふいにそんなことを考えた。
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