【想いのその先に】 第四部


「最悪、高校卒業してから一週間以内までは時間あるから、今すぐ決めるようなことじゃないけどさ。もう、悩んでいる時間もないことは確かだよ。叶汰」

「それは、わかってる……」

「親の人とは話さないの?」

「ユメのことか?」

「うん」


 奈々美は手元にあるジュースのカップに手をつける。そして、ストローを加えて吸うと、すぅっと空気を吸う音が聞こえる。


「話さないかな」

「どうして?」


 奈々美は手に持ったジュースのカップの蓋を開けて中に入っている氷を二、三個口に含み転がす。


「なんでって言われてみ難しいな……」

「ユメちゃんのことは叶汰にとっても大切だけど親御さんだって同じでしょう?」


 奈々美に言われて初めて、母さんや父さんにユメのことを聞かれないことに気づく。そして同時になんでだろうと考える。


「あれじゃないか。俺と違ってそこまで意識してないとか」

「まぁ、可能性としてはゼロではないね」


 奈々美はストローをガジガジと噛む。


「でもさ。ちょっとくらい何かあってもいいと思うんだけどなぁ」


 俺も残りのジュースの中身を飲み干しながら考えてみる。なんで、俺の両親はユメのことを言及してこないのか。両親からしたらあまり大したことではないのか。自分の子供が巣立っていくのを惜しむ人もいれば、そうではない人がいるようなものなのだろうか。


「まぁ、考えても仕方ないし、そろそろ行こうか」


 そう言うと奈々実は席を立った。


「どこか行くのか……?」

「どこって、もう帰るよ。教えて欲しいところも教えてもらったし、話したいことも話したからね」


 俺としてはまだ何も解決していないが、どっちみちここにいつまでいても解決することじゃない。

 それに、今は俺のことよりも奈々実のことの方が大切だ。俺も重い腰をあげて席を立つ。


「それじゃあね、叶汰」

「あぁ」


 店を出て、すぐのところで俺たちは別れの挨拶をする。


「がんばれよ、奈々実」

「それはこっちセリフだよっ」


 奈々実は俺の肩を右拳で殴る。しかし、その拳は決して痛くなく、そこには優しさのようなものがあった。


「それでも、頑張れよ奈々実」


 俺の言葉に少しだけ頬を赤くする奈々実。


「ありがとう」


 そう言って俺たちはそれぞれの帰路につくため、数回左右に手を振って、そして、相手の振った手が弱まっていくのしっかりと確認してから、違う方向へと歩き出した。



「ほんと、どっちががんばれなんだか……」



 後ろを振り返ると奈々実の姿は人ごみに消えていた。 

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