【見えないからこそ、強きチカラ】 第八部
「おかしい……」
ユメを迎えに行こうと街の方まで出てきてからおよそ一時間が経過していた。しかし、いまだユメの姿を発見することはできていない。さらに、状況はかなりまずい。
「誰も見てないなんてことがあるのか……」
ユメがいつも行っているスーパーの店員さん。たまに寄ることのある生花店や喫茶店にもユメの姿を見たものはいなかった。これほどにも帰宅するのに時間を要しているのに、ユメを見たものは誰一人としていないのだ。あまりにも不自然だ。まるで、最初からユメは買い物なんかには出ていないかのように。
「そうだ、家に電話してみよう」
ポケットから携帯を取り出し、自宅に掛けてみる。もしかしたら、もうさすがに家に帰っているかもしれない。
「ダメだ、掛からない」
しかし、いくら待っても繋がらなかった。
ますます、俺の不安が募っていく。ユメに何かあったのではないかと……
「叶汰君どうしたの、そんな血相変えて?」
「あっ、おじさん」
声をかけてきたのは雑貨店の店主である一人の男性だった。たまにこの店にもふらっと立ち寄ることがあり、いつしか、ここの店主とも顔見知りになっていた。
「実は、ユメが何時間以上も前から姿が見えないんですよ」
「ほう。それはおかしいな」
「はい。しかも、ユメが行ったであろう場所には全て行ったんですけど、どこにもきてなかったみたいなんですよ」
「本当かい?」
「えぇ……」
「でもねぇ、叶汰君。ユメちゃんならずっと前にここにきてたよ?」
「ほんとですか!?」
「あぁ、いつものようにふらっときて、今日は一人なのかいって聞いたら、晩御飯の買い物に来ただけなのでって言って、少し私と雑談してすぐに行ってしまったけどね」
「それっていつ頃のことですか!」
「えっと、そうだね……。たしか、私が休憩をしてすぐくらいにきたと思うから三時前には来てたと思うけど」
三時前にここに来ているとしたら、その後、姿が見えないのはおかしい。さらには、ユメはおじさんに晩御飯の買い物に来ていると言っている。ならば、スーパーなどで姿が見られていないのはますますおかしくなってくる。
手に、じわりと嫌な汗がにじみ出てくる。
「他に何か言ってませんでしたか? 今日はここのスーパーに行くとか、こんなものを買うとか」
「いや、特にそんな話はしていなかったけどね。私のたわいもない話に付き合ってもらったくらいかな」
「そうですか」
となると、別のスーパーに行っている可能性はあまり高くない。ユメは必要のない限り、いつも通りのスーパーに通っている。いつものスーパーにないものを買おうとすれば、自ずと別の場所に行くのだが、あるのなら、そのスーパーで全てを済ましてしまう。それは以前、一緒に買い物しに行った時にあったから知っている。
「それにしても、そんなに心配することかい?」
「えっ?」
「ユメちゃんはアンドロイドだし、迷子になることはないだろう。もしも迷っても、人づてに家に帰ることなんて簡単だからさ。叶汰君は家で待ってたらいいと思うがね」
たしかに、ユメが迷子になるってことはまずない。そもそも、遠出して迷子になるならまだしも、見慣れた街で迷子になるなんてことはありえない。
だから、俺は別のことに神経を尖らしている。しかし、雑貨店のおじさんにはその考えがないようだ。
「そうですね。少し、ぶらぶらして帰ります」
「そうか。それじゃあね叶汰君」
「はい、さよなら」
俺は軽くおじさんに会釈して、店の扉を閉めると同時に早足で道を歩きながら、ある人へと電話する。
電話のコールは思ったよりも早く、三コール目である人へとつながった。
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