【見えないからこそ、強きチカラ】 第七部

季節は秋になり、家の近くの公園などの木々の葉は散り、紅葉する木はその可憐さをあたりに撒き散らしていた。



 秋はなにかと気持ちが滅入ってしまう季節。そして、そんな季節に待ち構えているのが高校三年生、中学三年生、その他諸々の学生たちの敵。永遠のラスボス。受験……


 そして、その敵を倒すべく日々頑張っている受験生である俺もまたその一人であった。


 そして、その受験の当日を残り三日としていた。


 ここ数日は新しい知識を入れるのではなく、今までやってきた問題集などをやり返していたり、それらの問題として出てきた方程式や文法などと、復習に励む毎日を送っていた。


 そんなこんなで今日も朝から勉強をし続け、不意に時計を見ると時刻は五時過ぎ。今日ははや六時間以上も勉強していた。さすがの受験生でも集中力が切れてしまったので、休憩がてらリビングに降り、飲み物をいただきに行く。



 今日はもともと学校だったが受験のこともあり、休みをとって勉強に明け暮れることにした。正直ここまできたら数時間の勉強などさして受験に関係ないと思うが、念には念を。 


 ということで、自主休講をとって、一人でお勉強。まぁ、これなら休んだとは言え、そこまでバチの当たることではないだろうと自分に言い聞かせながら、リビングのドアを開ける。



「ユメ、何か飲み物ある……。って、いないのか」



 リビングにはユメの姿はなく、静寂を保っていた。



「それなら、自分でいれようかな」


 俺は台所の冷蔵庫へと向かい、冷蔵庫の中にあるお茶を取り出して、コップに注ぐ。


 すると、机の上にメモが置いてあることに気づく。


「買い物に行っていたのか」



 コップに注ぎ終わったお茶を冷蔵庫にしまい、椅子に座って机の上に置いてあるメモを眺める。



“叶汰へ 買い物に行ってきます 2時”



 ユメらしい簡素なメモ書きだった。必要なことを書いただけの正真正銘のメモだった。


 そして、ユメのいつもの癖みたいなもので、こういったメモを残す時にはメモを書いた時間を書いてあるのだ。



「んっ……?」



 そして、お茶を片手にユメの書いたメモを手にとってもう一度内容を読み返す。



「二時だって?」



 壁にかかっている時計を見ると五時半を指している。つまるところユメが家を出てから三時間以上も時間が経過しているのだ。いつもの買い物ならば帰ってきてもおかしくない時間だった。もちろん、いつもこの時間に買い物に行って帰ってくるというわけではないが、それでも、買い物に行くといって家を出た時は二時間ほどもすれば帰ってきている。それなのに今日は三時間以上も買い物に出かけている。



「考えすぎかもな」



 俺はユメの書いたメモを机の上に置き、手に持っていた空になったコップをシンクへと置いて席を立つ。


 買い物なのだから、今日はあっちのお店の玉ねぎが安いとか、こっちのお店の卵が今日は安いとかで遅くなっているのだろう。だから、たった一日帰りが遅い日があったっておかしくない。ましてや子供ではない。道に迷った〜。なんてことはもってのほかだろう。



「よしっ」



 俺は、リビングを出て、家の玄関の扉を開ける。



「こんなに遅くなるということは、さぞ買い物したに違いない。迎えに行こう」



 誰にではなく、自分自身に言い訳をして、俺はユメを探すために暗くなりつつある街へと出かけるのであった。



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