【人生とは常に波乱の中にいる】 第四部


「おーい。叶汰っ!」

「おう、おまたせ」


 駅のホームの外にはすでに晴人と奈々実が待っていた。


「すまん、またせたかな?」

「いや、そんなに待ってないぞ」

「すごく待った!!」

「おい、どうして二人で言ってることが違うんだよ」

「それはあれだ。園上が楽しさのあまり一時間以上も早く着いてたからだ」

「ハ〜ル〜〜?」

「ごめん、ごめんそれは言わない約束だったね」

「もう言ってんじゃん!」


 奈々実はそう言いながら晴人の肩をぽかぽかと殴る。見慣れた光景だ。


「そんなことより、早く海に行こうぜ」

「そうだね。それじゃあ行こっかユメちゃん」

「はい」


 奈々実が俺の隣にいたユメの手を引いて、先に海へと向かって行く。


「本当に連れてきたんだなぁ」

「ん、なんか言ったか?」

「いや、俺たちも行くぞ」

「あぁ」


 俺と晴人も奈々実の後についていく。

 ついに、俺たちの夏休みが始まる。




 俺たち四人は海へと向かうと、そこにはおばあさんの言う通りかなりの人数の海水浴者がいた。その人数に最初は圧倒されたがすぐに俺たちは浜辺に自分たちのパラソルを立て、自分たちの陣地を作る。


「それじゃあ、私たち着替えてくるね〜」

「おう」


 奈々実はユメをつれて水着に着替えに行ってしまった。


「晴人はもう着替えたのか?」


 浜辺にシートを引いてくれている晴人に俺は問いかける。


「あぁ、めんどくさいから俺はもう履いてきてる」

「やっぱりそうだよな」


 そう言いながら俺は服を脱ぎ始める。そして、自分のカバンの中に衣服を全て突っ込む。


「いちいちこっちにきて着替えるのめんどくさいからな」

「そうだな」


 晴人もシートをひき終わると服を脱いで俺同様水着だけになる。そして、俺たちは奈々実達の帰りを待つため、シートの上に腰掛ける。


「それにしても人多いな」

「そうだな」

「なぁ、晴人」

「なんだ」

「なんかあったのか?」


 さっきから俺の言葉に対して気の抜けた返事しか返さない晴人に違和感を覚えていた俺が問いかける。


「そう思うか?」

「そう思うから聞いてる」

「じゃあ、なんでだと思う?」

「それを俺が聞いてるんだけど?」

「予想でもいいから言ってみろって」

「そうだなぁ……」


 晴人に質問を質問で返されてしまい、俺はその質問の答えを考える。なぜ、晴人は少し元気がないのか。


「暑いから?」

「違う」

「人が多いから??」

「違う」

「可愛い子がいないから???」

「お前はとことんダメだな」

「じゃあ、なんだよ」


 俺も真面目に答えるつもりはなかったが晴人には元気をなくすだけのちゃんとした理由があったみたいで俺も余計に気になる。


「なぁ、叶汰は園上のことどう思う?」

「なんだよ急に……」


 晴人は俺の方を向かず、海の方を向きながら真剣な面持ちで俺に語りかけてくる。


「園上には言うなと言われているが、園上のやつ今日のこの海水浴すっげー楽しみにしてたんだよ」

「そんなに海に来たかったのか?」

「お前はとんでもなく、とことんダメだな」

「なんだよ」

「あ〜、なんて言ったらいいんだろうな」


 晴人は少し考える仕草を見せる。俺も晴人が何を言いたのか考えて見る。

 奈々実は今日の海水浴を楽しみしていた。そして、晴人は俺に奈々実のことをどう思うか聞いて来た。そして、俺のただ海に来たかったんだろうという答えに呆れている。


「晴人、もしかして……」

「ん?」


 俺の言葉に反応するように晴人は俺の方を向く。


「奈々実のこと好きなの?」

「アホッ」

「いてっ! 殴ることねぇじゃねぇか!」

「叶汰が的外れなことを言うからだ」

「的外れとはなんだよ。今の話の流れからしたらそうなるだろ」

「どこをどう感じとったら、その答えになるんだよ」

「だって、園上のことを急に聞き出したりして、園上に気があるようにしか思えないぞ?」

「じゃあ、それ以外で何か思い当たることはないか?」


 晴人にそう諭され、俺は奈々実について考えてみる。


 奈々実は今でこそクラスは違うが、奈々実は高校一年の時のクラスメイトだった。どうやって知り合いになったかはもう忘れてしまったが、忘れてしまうことだ、たいした出会いではなかったのだろう。

 とはいえ、奈々実とは高校一年の時はずっと関係を持っていた。もちろん、彼女彼氏の関係などではなく、友人としての関係。奈々実はいつも元気で、かわいらしい女の子だけあって、男子人気もかなりあった。何度奈々実と話しているのを妬まれて男子から攻撃を受けたことか。あの時は困ったものだが、今ではいい思い出だ。


 俺自体、あまり女子との会話は得意とは思っていなかったが、奈々実との会話は不思議と続いた。日常的なたわいもない話から、違う友達の好きな人の話、別れた話。はたまた、自分たちの家族のことなど。幅広い分野で奈々実とは意気投合した。

 そして、それは晴人も同じだった。晴人は高校三年間俺とクラスが一緒だったのもあり、一年の時は必然的に奈々実ともクラスメイトだった。晴人も奈々実とはいろんなところで接点を持ち、仲良くしていた。


 高校一年の時以来、奈々実とは同じクラスになれなかったが、今回の海へ来る約束の時もそうだったが、その関係が途絶えたわけではなかった。クラスメイトだった時よりは確実にその数は減ったが、クラスメイトだった時同様、俺たちの関係は良好そのものだった。

 そして、だからこそ俺は奈々実のことをわかっていると思っていたが、いったい晴人が何を言いたいのかまるで分からない。これはどうしたものか……。


「晴人、全然分からん……」

「お前ってやつは……」


 晴人は頭に手をかけて、首を横に振る。


「おまたせ叶汰、ハルッ」


 不意に奈々実の声がしてそちらに視線を向ける。


「お、おう」


 俺の視線の先には上下可愛げな水着を着る奈々実とパーカーのようなものを羽織っているユメがいた。


「何か言うことは?」

「えっ?」

「女の子の水着を見て言うことは?」

「えっと、ありがとう?」


 俺以外全員から大きなため息を食らう。


「違うの?」

「まぁ、それでもいいや。それよりも早く泳ぎに行こうよ!」

「そうだな。ほら晴人もユメも行くぞ」

「いや、俺は日焼け止め塗るわ」

「女子かっ!」

「うるせー。最近の紫外線は強いんだよ」

「じゃあ、ユメ行こう」

「いえ、私も少し準備してから」

「そうか。なら先に行くか」

「うんっ」


 俺と奈々実は一緒に海へと駆けて行く。

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