第9話 死んで当然の奴なんだ
「キキキキッ! キキキキッ!」
今日も、死神パッドのドクが変な声で笑っている……。
あっ! 違う。これは仕事のメールだな。
僕は、ドクを手に取って仕事内容を確認した。
名前「三池大輝(みいけだいき)」
年齢「36歳」
死亡「3日後に、死刑が執行され死亡」
えっ? 犯罪者なのか?
「なあドク。犯罪者の魂も死神が死者の門まで送るのか? 死刑囚だなんて絶対凶暴だぞ」
「そうでやんす。だれであろうと、どういう死を迎えようと、死神が魂を死者の門まで送る仕事に変わりないでやんす。だって良い奴も悪い奴も……」
ドクが、言い終わる前に。僕は言った。
「良い奴も悪い奴も『死』だけは平等に訪れる。だろ?」
「そうでやんす」
ドクは、笑いながら答えた。
しかし、次の瞬間ドクは真剣な顔で僕に話した。
「死神は、死者の魂を『死者の門』まで送り届けるのが仕事でやんす。しかし、なかには凶暴な奴もいるでやんす。死者の門への同行を拒否して、逃げるやつもいるでやんす」
「魂に逃げられたらどうなるんだ?」
僕は、ドクに聞き返した。
「逃げられても、見つけて力づくで連れていければ大丈夫でやんすが、見つからない場合、その魂は、人間界をさまようことになるでやんす。よく言う『成仏できない魂』ってやつですね」
「じゃあ、心霊現象的なものはそいつらの仕業なのか? よく霊感のある人が幽霊を見たとか言っているが、それのことなのか?」
「そうでやんす。だから、旦那。魂に対しては強気でいくでやんす。上から目線ぐらいがちょうどいいでやんす。旦那は優しすぎるから、死神として怖くなる練習をしないといけないでやんすね」
「それと、魂に逃げられて見つけられなかったら、死神にペナルティーが科せられるでやんすから、気を付けて下さいね。死んで魂になってから、48時間以内に仕事を終わらせないといけないでやんすよ」
「ペナルティーってどうなるんだよ?」
僕は、とっさに聞き返した。今回の相手が極悪な死刑囚なら、魂に逃げられる可能性もある。
「大丈夫でやんすよ。『死神の力』を使いこなせば、どんな魂だろうと、そう簡単に逃げ切ることはできないでやんす」
そういうとドクは、死神の力について話し始めた。
僕は、ドクの説明をしっかりと聞いた。
──しばらくの時間、死神の力についてドクからレクチャーを受けた。
「なるほど……。死神にはこんな力が…。確かにこれらの力を使えるなら、なんとかなりそうだ」
その後、僕たちは三池死刑囚のもとへ向かった。
男は、檻の中で立っていた。
ここへ来る前に、三池のことを少し調べた……。
三池大輝……。
自宅に遊びに来ていた、妻の友人(近所の主婦仲間3人・その子ども1人)を殺害。
殺害動機は、主婦仲間の言動に腹が立ち、包丁で殺害し、その後、自ら警察に電話をして自首。
その時、妻は何が起きたのかわからず、その場で放心状態になっていたという。
本人が罪を認め自首したことと、その場にいた妻の証言から、三池がやったことが確定し、殺人の罪で逮捕され裁判で死刑判決が出されたという。
いくら、言動に腹が立ったからといって、人を殺すか? しかも、相手は女性や子ども。包丁で何度も刺して殺したという。あまりにも卑劣だ……。
僕は、胸が苦しくなるのと同時に、三池に対して抑えようのない怒りを覚えた。
僕は、「死神は感情を捨てないといけない」と言うドクの言葉を思い出し、こみ上げる怒りを我慢しながら三池を見た。
三池は、檻の中で立っている。
僕は、三池の顔を睨むようにまっすぐ見た。
──しかし。
僕が想像していた人物像とは、違っていた……。
卑劣な殺人を犯すような奴だから、すごく悪そうな顔をしていて、反省することもなくすぐにでも暴れだすように殺気立った奴を想像していた。
三池は、優しい表情ですごく穏やかな目をしていた……。
死刑判決が出て、いろんなことが吹っ切れたのか?
しかし、そんな表情の三池も、どことなく不安な顔はしていた。
それは、自分が死刑になることへの不安なのか? それとも後悔? 残された妻の心配? 時折、小さなため息を漏らしている。
僕は、何とも言えない感覚に陥っていた。何か腑に落ちない感覚だ。
見た目だけで判断すると、正直、殺人を犯すようなタイプには見えなかった。
しかし、優しい顔をしていても、罪を犯す人はたくさんいる。
ニュースでも、近隣住民のインタビューで「あの人が殺人なんて信じられない」、「いつも気さくに挨拶してくれて近所でも評判ですよ。まさかそんな人が…」なんてコメントはよく耳にする。
三池もその類だ。
こいつは間違いなく人殺しだ。その事実にこわりはない。
しかも、女性3人にまだ小さい子どもを1人。
だから、ここにいるんだ……。
これ以上の詮索はやめておこう。僕はただ死神の仕事を全うするだけだ。
魂になって出てきた三池が、抵抗して逃げようとするなら「死神の力」を使って、それを何としても阻止するだけだ。
殺人犯に情けは必要ない。
──こいつは、死んで当然の奴なんだ。
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