第7話 そんな昼下がり

 死神としての初仕事を終えた僕は、二階堂夏子とのつかの間の思い出を振り返りながら、ボーッと死神パッドを操作していた。


「なに、なに。死神パッドの機能。メールやスケジュール管理。メモ帳にゲームもできるのか。本当に最新だな」

 と、僕は感心していた。

 通信制限もなしで、人間界のものよりいいのでは?


「旦那! 死神パッドは、人間界のネットワークにも接続できるんですぜ」

 急にドクが顔を出した。

「え? じゃあ、ヤプーとかグールグルとかSNSもできるのか?」

 僕が尋ねると、ドクは威張って言った。

「そんなの、死神パッドにかかれば、余裕に決まってるじゃないですかい」

 ドクは、得意げに答えた。


──僕は、面白いことを考えた。


 今、人間界で話題のSNS「Boyaitter(ボヤイッター)」に、死神ロックで登録して色々と情報収集したり、人間と繋がったりしてみようと思った。


――なぜだろう。


 人間だったころの僕は、仕事に追われてこんなことをする時間も、気持ちの余裕もなかったし、私生活以外で、人と繋がるのは煩わしいとさえ思っていたからだ。


――でも。


 「よし! ボヤイッターに登録しよう」

 ピッピピ! ピピピ! ピッ!

 よし、アカウント登録完了。

 あとは、プロフィール画像か……。


「なあドク、死神パッドは写真も撮れるの?」

「当たり前でやんす! オイラを甘く見ないでくだせぇ。ロックの旦那」

 そういうとドクは、羽をはばたかせ僕の前にやってきた。


「撮るでやんすよ。はい。チーズ」


――カシャッ!

 

 僕は撮った写真を確認した。

「やるなぁ、ドク。いい感じに撮れている。死神パッドだから死神も写真に姿が映るのか?」


 僕は尋ねた。


「そうでやんす。もともと普通の人間に死神は見えないから、写真を撮ること自体ないと思いますが、撮ったところで人間界のカメラじゃ死神の姿は写りません。でも、逆はできますがね。人間や人間界を死神パッドで撮影することは」


「なるほど。よくわからないが何となく死神パッドの凄さが分かった。でも、この写真は、画像として人間界のネットに投稿できるし、投稿した画像は人間にも見えるんだな」

 僕は独り言のように呟いた。

「そうでやんす。そういう使い方をすれば、間接的に人間も死神の姿を見ることができるでやんす。しかし、旦那も面白いこと思いつきますね。人間界に干渉する死神は初めてでやんす。しかも自分の写真を載せるなんて。でも、死神の存在がバレたら大騒ぎになるのでやりすぎは注意ですよ!」

 ドクは笑っている。


「やっぱり、人のことが気になるのは、元々人間だからかな……。余裕があると色んなことを考えてしまう。でも、人間がこの画像とプロフィールを見ても、本物の死神だとは思わないだろう」


 人間を辞めたはずなのに、どうしてこうも人間が気になるんだろうか。


 今までSNSなんてやったこともなかったし、やろうとも思わなかった。


 人間の頃の僕じゃ考えられないな。

 そんなことに時間を費やすなら、休みたい気持ちが大きかったし、友達や知らない人と繋がるのは、楽しいようで、煩わし部分もいっぱいだと思っていた。

 イイネしたとかしないとか、誕生日にメッセージ送るとか送らないとか、当たり障りなく呟いたりとか、ネットの中でも気を遣うのは、正直しんどいと思っていた。

 

――ピッピピッ!

「よし、これで完了だ」


 僕は、ボヤイッターに「死神ロック」として登録した。

「待っていろよ人間ども。恐怖を味わえぇーっ!」 

「ブハハハハッ! ロッキュー!」

 僕は死神っぽくつぶやいてみた。

 ドクは楽しそうに横で笑っている。


――そんな昼下がりを、僕らは過ごしていた。

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