第3話 自分で選んだ道だから

 死神サイと出会い、体を交換した僕(一之瀬心)は、人間を辞めて「死神」として生きることを選んだ。

 一方、死神サイは、一之瀬心となり人間として生きている。

 ひとつだけ心配なのが、サイが約束を守ってくれるかどうかだ。

 僕のサイへのお願いは。

「僕の家族を悲しませないでほしい」

 サイからは、

「死神の仕事は絶対にやり続けろ」

 というものだった。


 そしてお互い「約束は必ず守る」と言うことで、契約が成立し体が入れ替わった。


 そして僕は、死神として生きることになった。

 

 死神の仕事さえきちんとこなしていれば、後は何をやっても自由だ。

 人間には見えないし、自由に飛び回ることだってできる。

 今まで、いろんなものに縛られていたことを思うと、何て清々しい気分で体が軽いんだ。


――あっ、そうだ。


 サイがいなくなる前に、僕に言っていたことを思い出した。

「そうだっ! 大事なことを忘れていた。これをお前に渡しておこう」

「何だよこれ?」

「これは、『死神パッド』だ」

「死神パット?」


 サイが取り出したのは、スマホより少し大きめの液晶ディスプレイ。


「死神の仕事は、この死神パッドが教えてくれる。だから死神パットの指示に従うんだ。わかったか?」


 僕は少し驚いた。

――死神なのに、何て現代的なものを使っているんだ。仕事のことはメールででも送られてくるのか?


「わかった! 必ず持ち歩くようにする」


 僕はそれを思い出し、何となく死神パッドを眺めていた……。


――するとっ!


「キキキキキッ!」


 突然、死神パッドから変な音が聞こえた。音というよりは声なのか?

 僕は驚いて、とっさに死神パッドを地面に放り投げてしまった。


「ヤバイ! 壊れたかな」


 そう思った瞬間。


 死神パッドから、コウモリみたいな羽が生えてバタバタと羽ばたき出した。


「イテテテテッ! 何すんでやんすか!」


 死神パッドは、僕の目の前に飛んできて、甲高い声で叫んだ。


「乱暴な扱いはやめておくんなせぇ。これでも精密機械なんですから!」


 そう言って死神パッドは、コウモリみたいに飛んでいる。よく見るとディスプレイに可愛らしい顔が写っていた。


「何なんだ? お前は?」

 僕は死神パッドに聞いてみた。

「オイラの名前は死神パッドの『ドク』でやんす! 死神をサポートする役目を担っているんです。だから乱暴に扱って壊れたら、旦那が困るだけでやんすよ」


 漫画に出てきそうなキャラとしゃべり方。

 どうやら、死神パッドは機械だけど、知性を持っていて、死神をサポートしてくれるようだ。


「あれっ!? あんたサイの旦那? じゃないでやんすか?」


――僕は、死神パッドのドクに、これまでの経緯を全部話した。


「ふ~ん。そう言うことですかい。サイの旦那も色々と悩んでたからな。人間として生きることを選んだんですね」

「サイが色々悩んでたって?」

 僕が聞き返すと。

「まぁ、昔から色々と苦労してましたからね……。これで良かったのかもでやんす」


 死神パットは、話をはぐらかしながらも、何かに納得したようにうなずいている。


「それより! 新しい旦那! 死神をなめるんじゃないでやんすよ。オイラは厳しいですぜ! ビシバシ指導しますからね」


 死神パットは、可愛い顔してるのに、しゃべり方は面白いやつだ。


「僕も覚悟して死神として生きることを選んだ! 僕の名前は『死神ロック』よろしく」


「新しい旦那を一人前の死神にしてみせるでやんす! 死神ロックの旦那! 途中で根をあげても後戻りはできませんからね。いいですかい?」

 ドクは、厳しい目付きでこちらこ見ていた。


「ああっ! わかってる」


――だってこれは、自分で選んだ道だから……。 

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