第94話 お祭り巡りをしませんか(2)

「それまでは近隣の国々の祭りを、転々としませんか」


 パウリーネの浮き浮きした提案の声に、ルリアージェも笑顔になる。サークレラの花祭もそうだが、ルリアージェは他国の文化や祭りに疎い。幼い頃に魔力量と魔術の才能を見出されてから、ずっと英才教育と称して隔離されて育った。世間知らずな部分が目立つのもそのせいだ。


 平民の暮らしも知らなければ、一般的な女性としての知識もかけていた。本人は自覚なくとも、王族に仕える一生だと思い込まされていたのだ。ジルと出会わなければ、教育者の意図した通りテラレス国の宮廷魔術師としての人生を歩んだだろう。


「国によって違うのだと聞く。実際に行ってみたい」


 ルリアージェの子供のような願いに、ジルはぱんと音を立てて手を打った。


「よし、それなら計画を立てないと。順番通り回れば、1年で大陸中の祭りを一周できるぞ」


 リオネルが紙を取り出して、季節を書き込む。それぞれに知っている祭りを並べながら、表となった紙の隙間を埋め始めた。


「この祭りは前半が盛り上がるので、順番が逆ですね」


 リシュアが記憶を頼りに修正していく。花祭はその年ごとに多少のズレがあるため、気象条件と相談になる。感謝祭や収穫祭は決まった周期で行われるので、日付を確定した。


 びっしり書き込まれた表を、今度はリシュアが丁寧に書き直していく。修正箇所を踏まえて未確定の祭りは下段に記載するなど、長年まつりごとを統括した彼らしい気遣いで写し終えた表が差し出された。


「今からですと、数日で始まるアスターレンのお祭りが最初ですね。聖人の生誕祭らしいです」


 リオネルが指さしながら説明を加える。頷いたルリアージェだが、眉間にしわを寄せた。事情を知るリオネルとジルが顔を見合わせ、黒髪をかき上げたジルが口を開く。


「気にしなくていいぞ。もう元に戻したし、大きな祭なら顔がバレる心配もないから」


「……そうだが」


 破壊された街と青白く炎上した城の姿を思い出す。腕を斬りおとされたライオット王子や、弟を守る為に立ちはだかった王太子の姿が浮かんだ。


「もう平気でしょうね」


 リオネルも簡単そうに請け負うので、ルリアージェも頭を切り替えることにした。


「なぁに、知り合いでもいるの?」


 首をかしげるライラに曖昧に頷く。すると彼女は嬉しそうに奇妙な提案をした。


「だったら見つからないように、変装していきましょうよ! サークレラの公爵家で有名になったから、少しイメージを変えたらいいわ」


「瞳や髪の色を変えると印象ががらりと変わります」


 代替わりするたびに外見を変えて王位を守った男の言葉は重みがある。素直に頷いたルリアージェに対し、周囲は予想外の盛り上がりを見せた。

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