第77話 晩餐という名の謀(6)
リシュアの用意した
「貴国が併合したリュジアンの資源だが」
「リュジアンは自治領ですので、私どもの裁量権はありません」
きっぱりと油の輸出量緩和に釘をさす。すでにサークレラ国側に要請された事項は、リシュアも掌握していた。宰相が臨席しない晩餐の間に、しっかり遣り込めておく必要がある。あとで都合がいいように話を作りかえることが出来ぬよう、リシュアは切って捨てた。
「しかしサークレラの意向は反映されるのだろう」
「いいえ。リュジアンは、自国の王族を粛清し排除した民衆の国家です。我らサークレラは彼らを保護し、他国からの侵略に対して同盟を結んだ形で共存しています。自治領へ干渉し権威を振り翳す愚行は行えませんから」
なんとか妥協を引き出そうとする国王と、取り付く島のない笑顔で応じるリシュアの殺伐としたやり取りを他所に、ルリアージェはライラと談笑していた。先にライラが毒見を済ませてから、ルリアージェが口をつける形になっているが、もちろん守られる彼女は気付いていない。
「リア、この分だとデザートも期待できそうにないな」
苦笑いで料理を酷評したジルは、半分も手を付けずに料理を残していく。悪いと思いながらも、ジルが残したという免罪符でルリアージェも残した。全体に味付けが濃く塩が強すぎて喉が渇く。仕方なく飲み干したワインの空いたグラスに、新しいワインが注がれた。
見回すと、リオネルとパウリーネはほとんど手をつけておらず、ライラも毒見を兼ねた味見程度だった。残すのは心苦しいルリアージェが、喉の渇きにワインを口に運ぶ。一口飲んで感じたのは苦味、続いて喉に広がる違和感――。
「失礼…っ」
コンコンと咳が出て、それでも喉の奥の痛みが治まらない。顔をしかめたルリアージェの異常に気付いたジルが慌てて立ち上がり、続いて隣のライラが水を生成して差し出した。パウリーネが手を伸ばして、ルリアージェの前のワイングラスを確保する。
「失礼しますわ」
言葉の直後、パウリーネは恐れもなく疑惑のワインを煽った。一口飲み込むと喉を押さえ、同じように咳き込む。パウリーネの夫役のリシュアが、貼り付けていた笑顔を凍らせて駆け寄った。
「毒ですね」
冷たい声で断罪したのは、リオネルだった。
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