第78話 毒を盛るのがツガシエの流儀ですか(1)
ジルが魔法陣を作り出して、解毒を試みる。隣に座るルリアージェを抱き起こした。
「大丈夫、安心して力を抜いて」
美しい銀色の光が放たれて消えると、咳で痛めた喉を押さえながらルリアージェが寄りかかる。それを抱き留めたジルが、汗で湿った彼女の髪をかき上げて額に接吻けた。霊力を利用した治癒も行った解毒が終わり、ジルはやっと安堵の息をつく。
「……無理やり晩餐に呼びつけた挙句、我らに毒を盛るのがツガシエの流儀ですか?」
リシュアの口元が引き絞られる。普段から笑みを浮かべる外交官としての顔ではなく、サークレラを治めた王の顔でもない。死神に仕える魔性としての冷たい面が声に滲んだ。
彼らの中で、直接的な危害を加えられる可能性は低いと見られていた。なぜなら、毒を盛ればすぐに気付かれる。気付かぬよう遅効性の毒を盛っても、魔道具で無効化されるためだ。
王族が招いた晩餐で騎士に切りかかられれば、戦争に突入が決定だった。だから嫌味や交渉の持ちかけはあっても、直接何か危害を加えると考えなかったのだ。
己の甘さに、リシュアの怒りが増幅される。
相手を甘く見て、主君であり大切なルリアージェを傷つけられたこと。自分達を甘く見て、安易な手段で攻撃されたこと。防げずに主ジルの手を煩わせたこと。
すべてがリシュアの怒りを煽った。隣で整った顔に貼り付けた笑みを歪ませるリオネルも同様だ。感情が怒りで沸騰するような錯覚を覚えた。
咳き込んだパウリーネは、自らの魔力で毒を無効化して溜め息を吐く。隣で毒見を担当したライラは、ワインに混ぜられた事実に舌打ちした。
公爵令嬢として娘の立場で参加した彼女は、酒であるワインの味見は出来ない。最初のワインだけは少し確認したが、途中であけて注いだ
他の誰かが先にワインを口にすれば良かったのだが、喉が渇いたルリアージェは新しい瓶のワインが注がれた直後に飲んでしまう。予想外と偶然が積み重なった結果に、ライラの手が震える。もし即死レベルの強い毒が混ぜられていたら? そう思うと恐怖を覚えた。
目の前にいるルリアージェは殺されていたかも知れない。
パウリーネがあの場でワイングラスを奪って飲まなければ、毒のグラス自体を片付けられて曖昧にされたのではないか? 疑惑が疑惑を生み出し、怒りが目の前を真っ赤に染めた。
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