第61話 主人を持つ者の覚悟(2)

 美しく冷たい石は、どちらも手のひらに余る大きさがあった。それは彼らの魔力量がそれだけ多く、大きな力を揮う魔性であった証拠だ。長く生きた彼らを惜しむように呟かれた言葉に、ジルは肩を竦めた。


 人族であるルリアージェには残酷に見えるだろうが、魔族にとって主君は己の命より大事な存在だ。それを奪われてなお、生きていくのは責め苦でしかなかった。ならば残された配下が選ぶ道は2つ――後を追うか、復讐するか。


「しょうがない。主に殉じるのがアイツらの幸せなんだ。放置したら逆に可哀想だぞ」


 言われた内容を反芻する。主人が死んだら後を追うのが幸せ? ならば……。


 ぎゅっと唇を噛み締めて、目の前の5人を見つめる。ジル、リシュア、リオネル、パウリーネ、ライラ――魔性として二つ名をもつほどの彼と彼女らも、主人わたしを喪ったら同じように追おうとするのだろうか。


 正確にいうなら直接契約したのは、ジルとライラだけだ。しかし主人に殉じて後を追うならば、ジルが消えたら残る3人も生き残ろうとしないだろう。人族の貴族に根付いた『生き恥を晒す』感覚が彼らにもあるとしたら?


 気付けば彼らの主となっていたが、魔術を齧った程度の人族に過ぎない私の寿命は長くても100年程だ。残りを考えれば80年前後……数千年以上生きた彼らを、道連れにするのか。


「ジル」


 不安を抑えるようにワンピースの胸元を握り締める。首をかしげて待つ従順な彼に、残酷なのを承知で願いを口にした。


「私が死んでも、誰も後を追わないでくれ。頼む」


「……リアはそんな心配しなくていい」


 さらりとジルが答える。同意見だと頷く彼と彼女らを見回し、ルリアージェはさらに言葉を重ねようとした。それを塞ぐように、ジルの指先が唇に触れる。続いて額に……そして彼女の意識は失われた。


「リアは心配しなくていい。そこから先はオレ達が自分で選ぶことだ」


「……そうですね」


「ですが……リア様は」


 ジル、リオネル、リシュアの呟きは柔らかかった。


「口にしてはダメよ。誰が聞いているかわからないもの」


「そうね。まだリア様には早いですから」


 ライラとパウリーネがくすくす笑いながら話を締めくくる。5人の上級魔性達に悲壮な色はなく、どこか嬉しそうに頬を緩めた。その視線の集まる先で、ルリアージェは眠りの中にいた。

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