第58話 圧倒的な戦力差(1)

「ヴィレイシェ様の恨みを知れ!!」


 巨大な氷の塊が叩きつけられる。リオネルが片手を持ち上げると、派手な音で蒸発して水蒸気となった。温度差で巻き起こった気流に髪を乱され、ジルが結界を張る。


「ったく、あの女が先に仕掛けたのに逆恨みもいいとこだ」


 さらに煽る言葉を吐き捨て、大げさに嘆いてみせる。その態度に触発された魔性が数人あらわれた。だが上級と呼ぶレベルにない。今回の黒幕と断じるには、あまりにお粗末だった。


 リオネルの右手に青白い炎が出現する。パウリーネは水の虎を呼び出す。その虎を見て、ルリアージェが首に下げた水晶を引っ張り出した。炎龍用に購入した青い水晶のペンダントは、中央がゆらゆらと揺らめく。美しい水晶を唇に押し当て、名を呼ぶ。


「ジェン、おいで」


 召還の儀を一度通過した炎龍は、主となったルリアージェに頬ずりするように絡みついた。自我はあるが、欲望はない。己を犠牲にすることも厭わない献身的な使い魔だった。そのため、さすがのジルも嫉妬の眼差しを向けない。


 ラヴィアの炎でオレンジだったジェンも、今は青白い水龍に似た姿をしていた。それでも炎龍なのだが、赤より温度の高い青白い炎を纏う彼の実力は上がっている。ジルの魔力に馴染んだジェンのたてがみが緑から黄色へグラデーションとなって波打つ。


「私も名前をつけようかしら」


 意思がない魔力の塊であるため、水虎に名をつけなかったパウリーネが青銀の髪を揺らして首を傾ける。寄り添う水虎を撫でながら、「便利そうだし、自我が芽生えるかも」と呟いた。


 魔力の塊に過ぎない水虎だが、名前を与えられると魔力が強まる。個として認識されることは魔性にとって重要だった。炎龍のジェンと互角に戦う水虎なら、名を与えることで自我が芽生えるかも知れない。魔性や魔物は元々『魔力の塊』に過ぎないのだから。


「そうだな、格好いい名前がいいと思うぞ」


 同意するルリアージェが、肩に巻きついたジェンの鬣を撫でる。気付くと余裕をかましている女性陣だが、男性陣も似たり寄ったりだった。


「リア、可愛いな。やっぱりジェンを青系にして正解だった」


 似合うと褒めるジルへ、リオネルが頷いた。


「リア様は銀のおぐしですから、青は映えますね」


「護衛としても優秀ですし、ラヴィアも良い土産を遺してくれたものです」


 遺したというか、分捕ぶんどられたのだが。この場にラヴィアがいたら、リシュアの言い分を全力で否定しただろう。


「貴様ら、馬鹿にしてるのか!?」


 叫んだ魔性が風を起こす。竜巻が周囲の店舗を巻き込んで、浜辺付近を荒らした。

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