第57話 最大にして唯一の弱点(3)

 さすがに嫌味を言う気になれなくて、同情したライラが苦笑いする。


「言いがかりだ。私よりお前の方が目立ってたし、街道沿いの未亡人に言い寄られた。そのあと貴族令嬢にも色目を……」


 犬も食わぬなんとやら。繰り広げられる旅の話は、なぜか互いの美貌を欠点として罵りあう不思議な展開になっていく。褒めているのか、けなしているのか。どちらとも取れる不毛な会話は、突然の騒ぎで打ち切られた。


 ドンッ!


 地面が大きく波打つように揺れ、街の喧騒が一瞬消えた。続いてざわざわと騒ぎが広がり、あっという間に今の地震の話が沸き起こる。


「おい、ライラ……」


「ええ、魔法陣によるものね。自然の地震ではないわ」


 大地の魔女が断言したことで、誰もが今後の展開を予想し始めた。まず最初に魔性が現れてケンカを売り、次にその親玉が召還されて……もしかすると囮という事態もある得るか。


 長く生きた分だけ先を見通す彼らがうんざりして、盛大な溜め息を吐いたところに、予想通りの魔性登場である。


「死神ジフィール。我が主の仇めっ!」


 いつもながら頭上から出現するのは、魔性特有の現象だ。なぜか彼らは上から見下ろしたがる。そして誰もが口を揃えたように「我が主」やら「我が君」を使うため、どの主の仇なのかわからなかった。まあ、通常はそこまで敵を量産するジルのようなタイプが珍しいのだが。


「バカとなんとかは高いところが好きらしいぞ」


 ぼそっと呟いたジルの声に、ルリアージェが吹き出した。苦笑いするリオネル、リシュアは感情を隠した笑みを浮かべ、ライラは爆笑する。パウリーネは笑わないよう必死で口元を戒めていた。


「ジル様、緊張感が壊れますわ」


「必要か? あの程度の敵だぞ」(今の段階では)


 隠した言葉を読み取った側近達は、黒幕を引っ張り出すための挑発を始める。どうせ出てくるなら、早めに引きずり出して全貌を確認した方が楽だ。裏で糸を引くのが、魔王か側近レベルか、その下っぱの暴走なのか。判断は早い方がよかった。


「そうですわね、必要ありませんでしたわ」


 申し訳ありませんと主に謝ってみせるパウリーネ。爆笑を続けるライラを放置して、リシュアが一礼した。


「私が片付けてもよろしいですか?」


「いえ、ここは私が出向きましょう」


 主の寵を争うのは、眷属のつねだ。魔王の側近であっても、つねに互いを牽制しあって争っていた。その様を再現すれば、背後にいる敵が引っかかるだろう。政治や駆け引きに長けた2人の思惑通り、あまりにもあっさりと敵が出現する。

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