第58話 圧倒的な戦力差(2)
困惑したようなルリアージェの表情に、ライラが両手を掲げる。
『我が意に染まぬ行いを留めよ』
ぴたりと風の動きが止まった。風と大地を司るライラの魔力が、風の精霊を従えているのだ。彼女の指先が魔性の1人を指差した。
「あれは不要よ」
要らないと言い切った魔女に従い、風の精霊は魔性を包んだ。結界状態となった風の壁が一瞬で赤く染まり、解かれて消える。ぽたりと大地に血が垂れたが少量だけで、本体はどこに消えたのか落ちてこなかった。
「ひっ……大地の魔女」
残った魔性から漏れた恐怖の声に、少女の姿でライラは大人びた笑みを浮かべる。茶色い三つ編みをくるりと指先で回し、穂先を弄りながら指先を空に向けた。
「さあ、お次はだあれ?」
恐怖を煽る少女の行為に、集まった魔性達は我先にと逃げ出した。追うでもなく見送っていたジルが最初に気付く。続いて側近達とライラも海を睨みつける。
遠くに白い線が見えた。海の上は常に波が立っており、あちこちが白く見えることもある。しかし一直線上に全体が白くなるのは異常事態だった。押し寄せる津波が、海の表面を走るときに起きる現象だ。
「巨大な波が来るぞ。リア、オレの手を取って」
「波?」
首をかしげるルリアージェは海辺の出身であっても、津波を知らない。少なくとも彼女が生まれてから20年前後の間に経験したことがなかった。白い海の線を不思議に思っても、それが危険だと認識できない。しかしジルの言葉に従って、素直に彼の手を取った。
ふわりと少し浮いた足元を見ると、球体の結界の中にいた。手を繋いだジル、肩に乗るジェンも一緒だ。
「キュー!」
危険を知らせるジェンの鳴き声に、ルリアージェは海の方角へ視線を戻した。海岸から数十メートルしか離れていない街道は両脇に店が並ぶ。住民達は轟音と引いていく波の様子に、慌てて店を放り出して走り出した。
この地域では津波はさほど珍しい現象ではない。成人している年齢ならば、一度は目にしたことがあった。急激に引いていく海は、干潮時より向こうまで海底が露出している。
「津波だ、さっきの地震で引き起こされたんだろう」
他人事のようにさらりと語った内容は、ルリアージェの気持ちを揺さぶった。
「津波とは何だ? 危険なのか?」
「リア様、海をご覧ください。干潮で波が引く地点より奥まで海底が見えます。この引いた分の海水が一度に押し寄せる現象が津波です」
淡々と説明したリシュアが眉をひそめる。上級魔性である彼らは、さきほどの地震が魔法陣による揺れだと知っている。つまり、この津波は人為的に引き起こされたのだ。
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