第42話 国宝級の戦利品がごろごろ(3)

「リシュア、その龍は……」


 消去法で、ルリアージェが一番興味を示したのは炎龍だった。次点で白薔薇か水晶のティーセットだろうか。濃オレンジ色の本体に、たてがみのような黄炎が揺れる。目は美しい赤だった。


「ルリアージェ様……失礼、リア様も触れてみますか?」


 名前を「リア」と呼ぶように告げた彼女の言葉を思い出し、リシュアは丁寧に言い直した。


「平気なのか!?」


 目を輝かせるルリアージェの近くへ歩み寄ったリシュアが腕を差し出すと、炎龍は素直に彼女の腕に絡みつく。首に擦り寄る姿は愛玩動物のようだ。不思議と熱くはなく、温かい程度だった。


「熱くないのだな」


「そうですね、この子は賢いですから」


 温度を調整しているのだとリシュアは説明を終えると数歩下がった。ジルが手を伸ばして触れ、少しだけ魔力を注ぎこむ。赤い炎を中心としていた龍が、全体に色を変えた。


 本体は青白く、鬣が緑と黄色のグラデーションになっている。瞳の色は赤から紫に変化し、明らかに魔力量が上がった。


「ちょっと核を弄った。これでリアの護衛に使えるな」


 簡単そうに言われたとんでもない内容に、ルリアージェは目を見開く。魔性の核は弄れないと認識していた。本人の根幹を成す部分で、消滅まで不変ではないのか?


「ん? どうした、リア。気に入らないか? 青より白系のがよかったかな」


 色が気に入らないと思われたらしいので、慌てて首を横に振る。何度も弄られる炎龍が気の毒だ。


「いや、青でいい……核は弄れるものなのか?」


「ああ、そこか。弄れるぞ」


「簡単そうに言いますが、そんな非常識はジル様くらいです」


 苦笑いしたリシュアが訂正を入れる。やはり魔性の核は基本的に変化しないらしい。規格外すぎるジルの能力について深く考えることを放棄したルリアージェは、溜め息を吐いた。


「私の護衛というのは」


「必要だと思うわ。あたくしも何かないか考えていたもの」


 配下の魔性をつけてもいいが、それくらいなら自分が守った方が早い。そう考えるライラも、何かしらの護衛の必要性は感じていた。ルリアージェに寄り添う他者はジルが許さないだろう。


 人型以外の魔獣では性格が獰猛過ぎて使えない。あれこれ悩んでいたところに、今回の炎龍である。ライラは手放しで歓迎だった。


「これで安心して北へ行けるな」


 にっこり笑うジルの言葉に、北へ向かう準備だとようやく気付いたルリアージェだった。

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