第十四章 リュジアン

第43話 氷の大地(1)

 凍りついた一面の大地を前に、ルリアージェは言葉がなかった。真っ白な景色は物の凹凸がわからなくなるのだと、驚きながら純白の景色を見渡す。吹雪いているため、ジルの結界が彼女を包んでいた。


 風船の中にいるような状況なので、寒さはほとんど感じない。城を出る前にしっかり防寒用のコートを着込み、帽子を被り、手袋を付けられた。大げさだと笑った少し前の自分に、足りないくらいだと教えてやりたい。


「すごい、な」


「だろ? だからもう少し毛皮を羽織ったほうがいいと思う」


「そうね。リアの格好は寒そうだわ」


 毛皮の固まりかと疑うほどライラは着膨れている。寒いのが苦手らしい。温度を操ることが得意なリオネルはスマートにコートを羽織った程度で、周囲を魔力で覆っていた。薄い膜のように見える魔力が寒さを遮断するようだ。


 パウリーネは首筋に狐らしき毛皮を巻いて、真っ白な毛皮を羽織っていた。コートというより手足もすっぽり覆うローブに近い形だ。足元まで届くポンチョに近い。リシュアは人間として振舞った頃の名残なのか、帽子や手袋を含めしっかりコートやブーツで覆って素肌をほとんど見せなかった。


「そうか?」


「この結界を出ると寒いから、首にはこれ。あと……耳当ても欲しいかな」


 ピアスがあると危険だと、装飾品はほとんど身につけていない。毛皮やコートの下に隠れる指輪とネックレスだけ残し、ピアスも髪飾りも外していた。手袋とお揃いのブルーグレーの毛皮で作られた、マフラーや耳当てをジルが取り出す。


「お前も寒そうだぞ」


「うーん、オレはあまり寒さとか暑さとか感じないからな」


 そう呟くが、さすがにリオネルのような薄着ではない。黒に近い濃グレーのコートを羽織り、同色の手袋と帽子を身に着けていた。黒髪を珍しく短くしている。魔族の身体は魔力の塊ともいえるので、ある程度爪や髪の長さは調整が可能なのだ。


「さすがにその格好では、旅行者として通用しませんよ」


 リシュアの指摘に、防寒しすぎのライラ以外は考え込んだ。


「結界を張った馬車は?」


「そんなの、王侯貴族くらいしか利用しませんので目立ちます」


 パウリーネの提案は、あっさりリシュアに却下された。確かに王侯貴族並みの装備を整えた旅行者は目立ちすぎるだろう。


 冷たい風が吹いている外を見ながら、ルリアージェは初めての雪景色に見惚れていた。こうして実害がなければ、ずっと見ていられそうな気がした。南の鮮やかな風景とは真逆の、白しかない景色は眩しい。


「普通の旅行者はどうするのよ」


 素直に尋ねるライラへ、リシュアが眉をひそめて考え込む。彼も王族だったため、一般人の旅行支度に詳しくない。ある意味、世間知らずばかりだった。6人もいて、誰も普通の人族の生活を知らないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る