第42話 国宝級の戦利品がごろごろ(2)

 後半はリシュアたちにも聞こえるように告げると、リシュアとリオネルが立ち上がって「承知いたしました」と微笑んだ。立ち上がったパウリーネの青銀の髪が気になり、ルリアージェは自分も立ち上がって手を伸ばす。


「触れてもいいか?」


「ご自由に」


 微笑むパウリーネの髪に触れると、不思議なほど柔らかかった。絹糸のような感触が心地よくて、数回手を滑らせてから吐息を漏らす。


「羨ましくなるほど、綺麗だ」


「……あ、りがとう…ございます」


 予想外の褒め言葉に、頬を染めたパウリーネが笑う。それは戦闘時の彼女から想像できないほど、可憐で少女のような表情だった。


「リア、とりあえず座ろう」


 ジルに促され、ルリアージェはドレスを捌いて腰掛ける。王宮勤めの頃にドレスは着用してたが、ここまで装飾過多ではなかった。もっと実用的でシンプルなドレスだったため、今後のことを考えてジルに提案しようと思う。そんな彼女の意図を知らず、ジルは惚れた女に目を細めた。


「復活するなり、みんな忙しかったな」


 労うジルの声に、3人の配下は顔を見合わせて苦笑いした。席に戻ったパウリーネが口をひらく。


「そうですわね。復活するなり仇敵が目の前におりましたので、焦りましたけど」


「あたくしは仇敵だなんて思ったこともなくてよ」


 言いながらライラは肩を竦める。花瓶に飾った薔薇を1輪手にして、風で棘をはらった。茎を短くして、ルリアージェの髪に差し込む。


「うん、綺麗ね。この薔薇、ジルの血で作った眷獣からもらったのよ」


 結局、レイリの半分を飲み込んだ植物は、庭のシンボルツリーのように窓から見える位置に残されている。あの薔薇をルリアージェが褒めたので、今後も花を摘むために残すらしい。複雑な心境で「気の毒だ」と告げたルリアージェの意見は、彼らに受け入れられなかった。


 曰く、攻め込んできた以上、この程度の反撃や報復は当然だ。魔性の常識を知らないルリアージェは、結局周囲の意見に流された。


「ジル様、封じ玉を交換してくださらない?」


 パウリーネが目の前のラヴィアの玉を転がしながら尋ねる。外側は透明なのに中央だけ赤く染まった玉は、よく見ると中央が渦を巻いていた。観賞用と考えるなら美しい。


 作り方を知らなかったルリアージェも、かつては単純に美しい玉だと思っていた。


「ん? 別にいいぞ」


 ほらと簡単に交換する。転移で一瞬にして交換された封じ玉は、中身を知っているとおぞましさを感じる。まるで呪われた宝飾品のようだ。美しい分だけ眉をひそめてしまう。


「リアは好きじゃないみたいだな」


 表情を読んだジルがさっさと封じ玉を消した。パウリーネも少し鑑賞してから消してしまう。リシュアは腕に小さくなった炎龍を絡ませたままだった。

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