第23話 魔の森のお茶会(4)

 歩いて移動するのかと思えば、それでは祭りに間に合わないとジルが騒いだ。確かに大陸の東側から西側まで移動すれば、数ヶ月の道のりだ。祭りはあと1週間ほどで開催されるらしい。


「まずライラが安全な地点を確保して、オレがルリアージェを連れて追いかける」


 湖畔だと思って転移した先が『幻妖の森』だったので、ジルはかなり慎重になっている。転移先が岩や海の底だったりするのも困るので、彼の慎重さは歓迎のルリアージェだったが……ライラは異議を唱えた。


「飛ぶ先くらい、途中で変更すればいいのよ! 探索を面倒がらないでちょうだい。あたくしもルリアージェと一緒に飛びたいわ!!」


 最後の「一緒に」が本音のようだ。本当に自分の心に忠実な2人である。実力者とはこういう者なのか。


 見上げた先は、木漏れ日が落ちる大木の葉が揺れていた。幻妖の森と違いカラフルではないが、鮮やかな緑が目に優しい。木や茂みが歩き回らないから、避ける心配がないのも助かる。


「ルリアージェはだ!」


でもあるの!!」


 世界を滅ぼしかねない実力者同士が、なぜ人間1人を取り合うのか理解できないが、このまま放置すれば騒ぎが大きくなるだろう。


「ならば交互に役目を入れ替えればいいだろう」


 今にも殺しあいそうな剣幕で睨み合っていた2人は、ルリアージェの提案に目を丸くする。予想外の提案だったらしい。というより、我を通して争う道しか考えないのは魔族特有の思考回路なのかも知れない。人間はすぐに妥協案を見つけるが、彼らにそういった傾向はなかった。


「そうだな。おそらく4回の転移でたどり着くから、交互なら2回ずつだ」


「さすがリアね。あたくしも、リアの提案なら受け入れるわ」


「リアって呼ぶのはやめろ」


「あたくしの勝手だし、リアも許してくれたわ」


「ダメだ!!」


 なぜか再び言い争いが始まる。大きく溜め息をついて、新鮮な森の空気を吸い込んだ。


「わかった、呼び方を『リア』で統一しろ」


「……ルリア、いやリアがそう言うなら」


「あたくしはリアに従うだけよ」


 一段落ついたところで、ルリアージェは収納していた結界を呼び出す。荷物をすべて放り込んだ結界を解除して、積み上げた物の中からカップを取り出した。ついでにお茶の缶も引っ張りだす。


「お茶にしよう」

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