第23話 魔の森のお茶会(5)
淡緑のテーブルクロスがかけられ、上に白いクロスを斜めに重ねたジルが満足そうに頷いた。中央にはライラが用意したケーキスタンドが置かれ、3段の皿にタルト、チョコ、焼き菓子が彩りよく飾られる。
「ライラは甘いものが好きなのか?」
「そうね、色鮮やかなフルーツを使ったお菓子は好きよ」
彼女の空間魔術の仕組みはジルと違うようで、お菓子は作りたての香りを放っていた。人族でも空間魔術を使える者は片手で数えるほどだ。その片手に入るルリアージェが使う時空間は、中の時間が止まる特性があった。
作った料理を温かいまま、冷たいまま保存できる。だが生き物を入れても時が止まるため、死なせてしまうのが欠点だった。ライラも似たような空間を操るようだ。
逆にジルが物を収納する亜空間は、転移にも使われる空間だ。時の流れは限りなく緩やかで、距離もほぼ消える。ここならば生き物を収納しても、殺してしまう心配はなかった。
「お茶はオレが淹れる」
「任せた」
沸いたお湯に気付いたジルが、取り出したポットに茶葉を入れる。
カップにお湯を注ぎ、茶葉を沈めて飲むのが旅人の流儀だった。ポット等の荷物を限りなく省いた結果だ。ほとんどすべての人族に空間魔術は扱えないのだから、荷物を減らすのは旅の必須条件なのだ。旅先でポットを使うのは、荷物の量を気にしない空間魔術の使い手と王侯貴族の移動に限られた。
「リアの好きな紅茶にした」
任せたことで機嫌を良くしたジルが美しい白磁のカップに紅茶を注ぐ。琥珀色が満たされたカップは柄のないシンプルな物だが、よく見ると縁や底に花柄が見えた。どうやら透かし彫りに似た手法で加工がされていたらしい。紅茶を注ぐと浮かんでくる花は薔薇だ。
「綺麗なカップだ」
「リアが使うんだから当然でしょ」
得意げなジルをよそに、ライラはじっとカップを見つめてから呟いた。
「これ、神族の遺跡にあったでしょう」
「残念、オレの持ち物だよ」
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