第22話 知らずに増える配下たち(2)
「器用だな」
感心したジルの声色に、騙された悔しさはない。本気で戦った場面で使われたら顔を顰めただろうが、逃げるトカゲが尻尾を切り落とした程度の感覚だった。また生えてきたのであっても、他人の手を人身御供に差し出したのであっても、大差なかった。
笑い話で済ませる彼らは、まさに人外の集まりだ。ライラが持ち込んだタルトを食べていたルリアージェは、手についた粉を払ってから紅茶を飲み干す。
「ルリアージェはマイペースだな」
苦笑いしたジルが手を伸ばすより早く、リオネルがポットから紅茶を注ぐ。新しいタルトを選んだルリアージェが、小首をかしげた。
「お前と付き合えば、嫌でもマイペースになる。合わせていたら身が保たない」
当然のように言われた内容に、人外たちは顔を見合わせた。
「え、ルリアージェ。それは酷い」
ショックを受けるジルをよそに、他の面々は納得して頷く。
「まあ、懸命な判断だな」
「レンさんの言う通りですね。確かにジル様に合わせるのは大変ですから」
「リアが正しいわね。あたくしも精霊に近いからジルは好きだけれど、やっぱり大変だもの」
口々に大変だと繰り返され、ジルが頭を抱える。爆弾発言の主は落ち込むジルの黒髪を弄りながら、無邪気に言葉を重ねた。
「大変だが、嫌いになれないのは不思議だ」
「ルリアージェ」
感動しているジルへ、空になった紅茶のカップを差し出す。もしかして、便利だから嫌いになれないとか? 無言でカップを受け取って紅茶を注ぐジルの心の中は、複雑な感情に埋め尽くされていた。
「リア」
愛称で呼ぶ少女を振り返る。耳が水晶柱になった少女は、人とも魔性とも違う姿と力を持っていた。魔王に匹敵する実力者でありながら、見た目は幼い子供に過ぎない。茶色の長い三つ編みを指先でくるりと回し、緑の瞳を細めて笑う。
「あたくし、あなたと主従の契約をしたいわ」
「ダメ」
なぜかジルが当然のように断る。
「大地の精霊王の娘、大地の申し子にして大地の魔女である者――我ライラは、ルリアージェ様に仕えることを誓う」
言霊が世界に刻まれる。誓約となって響いた声に、ルリアージェは驚いて目を瞠った。魔力も魔法陣もないのに、言葉は嘘偽りのない真実として届く。
人族が行う魔族との契約は、従属契約だった。人間がレベルの低い魔物を使役するための契約は、上下がはっきりしている。飼い主とペットのように、超えることの出来ない壁が存在した。しかしライラの契約にそういった制約を感じない。
「……人間だぞ?」
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