第20話 傍観者、失格(2)

 これは死なないのを逆手にとって、最悪の拷問コースが待っている。魔性は痛覚が鈍いものが多いため一瞬で相手を殺す術を覚えるが、死神ジルはそんな魔性に痛みを与える方法を知っていた。それらを駆使して死ねない傍観者相手に何をする気か、想像すらしたくない。


「降参だ。どうしたらいい?」


 復活した旧友を揶揄うつもりが、まさかの事態だ。見誤った要因は、新しく増えた美女の存在だろう。稀有な生まれと能力を誇り誰にも屈しなかった『死神』を手懐ける存在は、想定外だった。まさに歩く災厄のような男が、を主人だと認めるなど……誰が想像出来たか。


「とりあえず、一度死んでから謝りにいきますか?」


「遠慮する。どうせ顔出した途端に、アイツに殺されるんだろ」


 捕まえる際に殺して捕獲したと報告されても、生き返った途端にまた殺されるに決まってる。傍観者である以上死ねないから甦るが……痛みは人間と大差なく感じるため、何度も激痛を味わうのは御免だった。


「まあ……そうですね。あの人は自分で手を下したがるでしょう」


 1000年前にはすでに長い付き合いだった側近の発言に、彼同様ジルと付き合いの長いレンは肩を竦めた。首を切り落とされたのは3回、粉々に砕かれたのは2回、一度は燃やされたし、他にも潰されたり酷い殺し方をされたレンにしてみれば、ジルは一種の災害だ。


「見逃す選択はないのか?」


 やっぱりのは嫌だと眉を顰めるレンを、リオネルはあっさり突き放した。


「冗談でしょう。私が殺されます」


 首にかかる金髪をばさりと背に放る。腰近くまで届く髪を結ばない男は、赤い目を細めて笑った。


「私は殺されたら終わりですからね」


 何度も復活できる傍観者とは違う。主に殺されたら、そこで終わりなのだ。淡々と告げるリオネルは手にした光の紐を引っ張った。


「では戻りますか……おや? ジル様の気配が」


 言葉を切って探るように目を伏せる。風の渓谷から移動した主人の気配を探り、予想外の場所で見つけた。人間であるルリアージェを連れているのだから、危険な場所から移動するのは理解できるが。移動した先の方が危険な気がする。


「行けばわかるでしょうか」


 呟いたリオネルの爪先がトンと氷の大地を叩く。魔法陣が一瞬で展開され、彼とレンを包み込んだ。

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