第17話 歪んだ悪意(11)

 街も多くの犠牲者が出ただろう。王族同士が醜く争う姿など、国民に見せられる筈がない。次代を担う存在として育てられたからこそ、王太子は本音を飲み込んだ。庶民としての感覚を持つ母に育てられた義弟は、兄を思いやって口をつぐむ。


 ルリアージェ――拾った美女の話は、彼らの間に。暗黙のうちに互いに気付いている。彼女の話をすることは、互いの信頼を打ち砕く行為なのだと。


 彼女はこの国に、それゆえに魔性による襲撃は一方的な彼らの虐殺だった。幸いにして王宮や街は残ったが、人に大きな損害が出た――これがとなる。


「王宮の備蓄食料をジリアンの民へ。出し惜しみはするな!」


 国王の命令に、騎士と侍従たちが首を垂れて従う。首が落ちた筈の母を抱き寄せ、まだ年若い妹王女を撫でる父の姿に、王子達は表情を和らげた。


「父上を手伝わなくては」


「私も、お手伝いいたします」


 まだぎこちない動きながら立ち上がる弟に手を貸しながら、王太子は先ほどの青い光を思い浮かべる。あれは黒衣の魔性が力を振るった際に見た光に似ていた。きっと、ルリアージェと呼ばれた美女が願ったのだろう。


 無邪気に、真っ直ぐに。


 ただ無心に、あの黒衣の化け物に願ったのだ。この国を元に戻してくれ、と。


 この予想が当たっていても、間違っていても、彼女は二度と我らの前に姿を見せることはしない。宮廷魔術師が項垂れて戻る姿を目の端に捉えながら、王太子は心の中で礼を告げた。

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