第16話 復活(8)

 格の違いがわからぬ子供相手に、炎に息を吹きかけた。リオネルの右手から大きく広がった炎は、目の前の魔性を包んでいく。


 だが、まだ焼かない。ぎりぎりの位置で炎を操ったリオネルが再び口を開いた。


「水と炎、私の炎を破るだけの魔力はない。邪魔をしないと誓うなら、あげるので消えてください」


 レンを探せと命じられた手前、邪魔をする存在の排除も命令の一部だ。しかし下っ端とはいえ、トルカーネの配下と騒動を起こせば後々面倒だった。水の魔王の眷属は誇り高い連中が多く、必要以上に突っかかられた記憶が甦る。


 避けられる騒動に足を突っ込むほど愚者ではありませんからね。リオネルにしてみれば温情だが、相手はそう感じなかったらしい。


「ふざけるな!!」


 いきなり足元の湖から巻き起こした水で襲い掛かった。大量の水でこちらの炎を封じようと考えたのだろうが、呆れ顔で肩を竦めたリオネルは「死にたがりなど迷惑なだけです」と酷い発言で切り捨てる。炎の色を一段階上げて青く彩り、左手で形を整えた。


 青い炎は左手に撫でられるまま、剣となって揺らめく。頭の上に振りかぶった剣は、落ちてきた大量の水を蒸発させながら切り裂いた。白い蒸気が周囲を曇らせ、眉を顰めたリオネルが左手を軽く振った。小さな竜巻が蒸気を吹き飛ばす。


「ばかな……っ」


「馬鹿なも何も、先ほど言ったでしょう。許してあげますと――断ったのはあなたです」


 警告はした。無視されたのであれば片付けてもいいだろう。先に手を上げたのはトルカーネの配下なのだ。大義名分を手に入れたリオネルが青い剣を手元に引き寄せる。


 元が炎であるが故に揺らぎ、形は魔力によって補正された結果だった。長さや太さを自由に変えられる剣を正眼に構える。


 逃げるため背を向けようとした魔性を二つに裂いた。届かぬ位置から振り抜いた刃が斬った傷口から、青い炎が噴き出す。耳障りな悲鳴を上げて崩れ落ちる魔性を見ながら、リオネルは呟いた。


「背中から斬るのは、さすがに後味が悪いですから」


 だから後ろを向き終えるまでに斬った。自分勝手な言い分を平然と吐き、荒らしてしまった空間に残るレンの気配を探る。


「あちら……ですか」


 微かな気配を見つけたリオネルが地底湖の左奥へ向かう。その姿を見つめる視線に気付かぬまま。

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