第16話 復活(7)

「白炎のリオネルと申します」


 顔を上げた先で、魔性が槍を構えている。水は槍、風は弓矢、炎は球体の弾、それぞれの魔王の配下はこれらの武器を操ることが多かった。


「炎の魔王マリニス様の眷属か?」


 最上級の白い炎を操る二つ名をもつため、炎の魔王の配下と勘違いされる。1000年の長き眠りを経ても、同じ反応をされると苦笑いが浮かんだ。


 いつになっても魔性は子供で、成長しない単純な生き物らしい。炎の魔王の眷属に火を扱う魔性が多いのは事実だが、逆に炎を操れば彼の眷属だと勘違いされるのはリオネルにとってだった。


「いえ……我が主は『死神ジフィール』です」


 勘違いさせたままの方が調査は妨害されにくい。だが、己の主の名をいつわらねば調査が出来ぬほど、リオネルは実力もプライドも低くなかった。


 復活した主の名を”広めるな”と命じられなかった。それは”広めても構わない”という意味だ。少なくともリオネルはそう受け止めていた。


「死神……?」


 その二つ名を、彼はだろう――なぜならのだから。


 ジフィールが死神の二つ名で魔王達を相手に戦ったのは、1000年ほど前だ。この若い魔性はおそらく500歳に届くかどうか。彼が顕現した時は、死神の恐怖伝説はほぼ消えていただろう。


「知らないな。ここは水の魔王トルカーネ様の領域だ。踏み入るのは遠慮してもらおう」


 彼の実力では目の前のリオネルに勝てない。だから主人であるトルカーネの名前を出して牽制したのだ。ここが水の魔王のお気に入りの場所なのは事実で、側近クラスが顔を見せないのは意外だった。彼らはどこに消えたのか。


 1000年分の記憶がないというのは、今後不便かも知れませんね。誰かの記憶を取り込んでしまおうかと物騒なことを考えながら、リオネルは右手を核に炎を呼び出した。


 上に向けた手のひらから燃え上がる炎は、赤を経て黄色に至ったところで温度を止める。格下相手にこれ以上高温の炎は必要ないという、リオネルの残酷な宣告でもあった。


「この私に、あなた程度がそのような口を聞くなど……分不相応でしょう。レイシアやスピネーはどうしました?」


「あの方々の手を煩わせるまでもない!」


 驚きを露にした魔性は、水の魔王の側近を直接呼び捨てるリオネルを睨みつける。

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