第16話 復活(6)

『刃を彼女へ』


「おい、殺すなよ」


 忠告するジフィールの表情に浮かんだ懸念に、『刃が滑らなければ』と茶化した言葉が返る。むっとしたジルへ、アズライルは仕方なさそうに言い直した。


『我は神代の闇帝の手にあった武器ぞ? 信頼できぬのか』


「わかってる」


 それでも気に入らないのだ。1000年前からの付き合いがあろうと、彼女を傷つける可能性があれば排除する。強い意志を含ませて握れば、主の感情を読み取ったアズライルがじわりと熱を持った。


『我に任せよ』


「頼む。2日前でいい」


 ジルが女王ヴィレイシェに閉じ込められてから、僅か2日だった。この短い時間で大陸中央の強国アスターレンの首都は滅び、王宮は滅茶苦茶に破壊されたのだ。


 ルリアージェの記憶が消えたのは、アスターレンの首都ジリアンに着いてからだろう。馬車に飛び込んだと言ったが、それが事実なのか。ルリアージェに刷り込まれた、人間に都合のよい嘘なのか。2日間の記憶があれば、容易に判明する筈だった。


 結界の中で眠り続けるルリアージェは、まだ使い切った魔力が回復していないのだろう。その右手にアズライルの柄を持たせ、ジルは己の左手をその上に重ねた。


 解けたままのジルの黒髪が、檻の様に彼らを覆う。


 小刻みに震えるアズライルがさらに熱を増し、黒い光を放った。闇ではない、黒い光としか表現のしようがない光は数秒続き、やがて明るい日差しに溶けて消える。


『終わったぞ』


 簡単そうに告げられ、ジルは銀髪の美女を覗き込む。彼女の表情に苦痛の色がないと確かめ、ほっと息をついた。


「助かった」


『まさか、これだけの為に我を召還したのか?』


 誤魔化すように視線を逸らすジルに何を思ったのか。アズライルは言葉なく消えた。空になったルリアージェの右手に、そのまま左手を絡める。


「はやく、目を覚まして」


 願う言霊が届くまで、ジルは繋いだ手を離せなかった。






 レンの気配を追ってたどり着いた場所で、首を傾げたリオネルが呟く。


「おかしいですね、この辺りなのですが」


 魔力ののこを細い糸を手繰たぐるように追いかけた結果は、かつて水の魔王トルカーネが好んだ湖畔だった。魔王の側近達が守る領域に、傍観者レンが入り込んだという意味だろうか。


「何者だ!」


 侵入者を誰何すいかする厳しい声色に、リオネルは優雅に黒衣を捌いて一礼した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る