第16話 復活(5)

 非常識なほど強い武器は、ジルが大災厄として封印された際、彼も一緒に封印された程だった。人格がある存在だが、主人がなければ力を放出できない。魔王達の封印に引き摺られ、ジル同様に封じられた。ただし別の空間に、だ。


 ジルの封印を堅固なものとするため、同じ空間に封印しなかった魔王達の賢さはさすがの一言に尽きた。


『本気? 貴様が、か』


「酷いな、オレだって本気になることくらいあるさ」


 今までの行動を振り返ってみろと言わんばかりのアズライルの発言を、さらりと流す。ルリアージェを守る結界の前まで進み、左手の相棒に彼女を見せた。


 外敵を寄せ付けない結界だが、風の精霊が遊んだのか。彼女の銀の髪は少し乱れていた。膝をついて、頬や額にかかった髪を指先で戻してやる。


「なあ、彼女の記憶を戻す方法はわかるか?」


『……改ざんの痕跡はない』


「魔法も魔術も、精霊も絡んでない事故だ」


 苦笑いしたジルの「こいつ、ドジなんだよな」が小声で続く。笑ったのか、僅かに震えたアズライルがひとつ提案をした。


『巻き戻せばよい』


「それが出来たらやってる」


 封印されたジルの力は魔王クラスが4人がかりで封印した。


 風の魔王ラーゼン、水の魔王トルカーネ、炎の魔王マリニス、そして大地を従えるライラ――四大精霊を従える翼ある者ジフィールを封じるため、彼らは全力を尽くした。


 ジフィールのときと力を封じた核は金剛石となり、滅びたアティン帝国の宮殿跡で発見された。人間は帝国の遺産として金剛石を祭ったが、実際は大災厄そのものだったのだ。


 1000年の間に間違って伝わった伝承により、何も知らずに解封してしまったルリアージェに罪はない。長き時間により綻びた封印を突き崩す切欠を外から与えたことは、事実だが。


 まだ封印はすべて解けていない。一部の力は戻っていなかった。そして戻らぬ力の中に、刻を巻き戻す力が含まれるのだ。


『忘れたか? 我は刻を戻せる』


「……え?」


 そんな話、1000年前も聞いてないけど? ジルが間抜けな声を上げると、アズライルが細かく振動した。銀の刃が光を弾く。


『すまない、伝えていなかったか』


「ああ、聞いてないけど……できるなら頼む」


『お前に頼まれるとは擽ったい』


 ジルが使った「頼む」という単語に反応したアズライルが、声に感情を乗せて返す。器用な真似をする武器は、まるで笑ったような響きでジルを揶揄った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る